『ノスタルジア』
1983年 イタリア
アンドレイ・タルコフスキーがイタリアへ亡命後に最初に撮った作品です
私は勝手に、本作をタルコフスキーの最高傑作だと思っています
“水と光、霧と闇と火、記憶と回想、神話と寓話”、独特の詩的な映像世界を作り上げてきたタルコフスキーですが、この『ノスタルジア』は、その映像美が極致に達した作品だと思う
そこに、故郷への望郷と死への渇望が、まるで滲み出てくるように溢れています
ロシアから来た詩人のアンドレイは、古都シエナの村で、“世界の終わりが訪れたと信じて、家族を7年間家の中に閉じ込めていた”為に、狂人と蔑まれるドメニコと出会う
ドメニコは言う
「ろうそくの火を消さずに広場を往復する事ができたなら、世界を救うことができる」と
その後焼身自殺したドメニコとの約束を果たすため、ろうそくに火を灯し広場を往復しようとするアンドレイの姿を、カメラは静かに捉え続けます
火は何度も途中で消えてしまい、その度にスタート地点に戻るアンドレイ
そして、ラストのろうそくの火と共に広場を渡りきったアンドレイの姿と、いつの間にか集まっていた観衆、そして果てなく降りしきる雪に、深い感動を覚えずにはいられません
ちなみに、私はこの映画を見て以来タルコフスキーを敬愛していたのですが、10年程前にNHKかどこかでやっていたタルコフスキーの特番で、インタビューを受けた娘さんが“父は家族を顧みない自分勝手な人間だった”というようなことを言っていたのがかなり衝撃的でした