
ポピュラー・ミュージックの歴史に多大な足跡を残したビーチ・ボーイズのリーダー、ブライアン・ウィルソン氏がなくなりました。米国時間6月11日、家族が公式サイトで発表しています。享年82歳。
ビーチ・ボーイズと言うと、一般的にはカリフォルニアの美しい海と陽光を感じさせるハーモニーで彩られた、数々のヒット曲で有名です。「Surfin' USA」「California Girls」「Surfer Girl」「In My Room」 . . . 。これらはすべて60年代のヒット曲で、僕自身はビーチ・ボーイズの世代ではありません。
初めてブライアン・ウィルソンというアーティストを意識したのは、1988年にリリースされたブライアン・ウィルソン初のソロ・アルバム『BRIAN WILSON』です。 ビーチ・ボーイズをリアルタイムで知らない世代にとっては、このアルバムは記念碑的な作品です。

このアルバムの発売時、ブライアン・ウィルソンはすでに半ば伝説的なアーティストとして知られていました。それゆえ、彼の復活を告げたこのアルバムは話題にもなりました。アルバム冒頭に収録された "今夜必要なのは愛と慈悲" と歌う「Love And Mercy」は、僕ら世代にとっては忘れられない名曲なのです。
ブライアンの生涯は波乱万丈という言葉では足りないぐらい起伏に富んでいます。幼いころに父親から受けた虐待。 プロデビュー後にもマネジャーとしてブライアンを支配し続けた父親。レコード会社からの多大なヒット要求によってついには精神崩壊。長い隠とん生活。ブライアンの理解者であった2人の弟の死。精神科医ユージン・ランディによる支配。
1999年7月の、ブライアンの初来日公演のことを思い出します。完全復活と言われてはいましたが、表情はほとんど無表情でその目は虚空を見つめているようでした。正直に言えば心配にもなりましたが、ライヴは素晴らしいものでした。ツアーバンドの若いメンバーたちからは、伝説の人・ブライアン・ウィルソンへの多大なリスペクトが感じられて素晴らしい演奏となりました。ブライアン・ウィルソンは、今やっとやりたかったことをやれているんだな、と嬉しい気持ちにもなったのを思いだします。
最後の日本公演となった2016年4月のコンサートは、ポピュラー音楽史に残る名盤『PET SOUNDS』を再現するライヴとなりました。『PET SOUNDS』をライヴによって浸ることが出来た、夢の中にいるような時間となりました。
ポール・マッカートニーが Facebook 上に追悼コメントを出しています。ポールとブライアンと言えば、大西洋を隔ててのライバル関係が有名です。60年代、互いにビートルズ、ビーチ・ボーイズのメンバーとしてそれぞれの作品に刺激を受け、そして生み出されたのが『PET SOUNDS』であり『SGT.PEPPERS -』です。2人の関係は、天才は天才を知るという言葉が、最もふさわしいと思います。
ポールの「Thank you, Brian」という言葉は、ポールのそのままの気持ちであると思います。

「ブライアンには、その曲にとても特別な魅力を与える神秘的な音楽的才能があった。彼が頭の中で聴き、私たちに与えた音符はシンプルでありながら華麗であった。僕は彼を愛しその輝かしい光のそばでしばらく過ごすことができたことを光栄に思う。ブライアン・ウィルソンを失った後、僕たちはどのようにやっていけばいいのか。それは "神のみぞ知る" です。
ありがとう、ブライアン。 ポール




.Brian Douglas Wilson
.June 20, 1942 - June 11, 2025
