
バロック・ポップ。 知らない方も多いかも。 ビートルズの 「イエスタデイ」 や 「エリナー・リグビー」 を語る時に、バロック・ポップなんてくくり方はしないですからね。ですが、現在のポップ・ミュージックを語るさいでも時々は聞く言葉です。
LANA DEL REY / Video Games (2012)
2012年にメジャー・デビューしたラナ・デル・レイは、バロック・ポップ、あるいはドリーム・ポップなんて呼ばれ方を当初からされていました。 彼女のことをバロック・ポップ・クイーンと呼ぶ人もいます。
「ヴィデオ・ゲームス」は当時話題となった曲なので、ご存じの方は多いはずです。 悲しみ、孤独を湛えた曲です。 ポップ・ミュージックと呼ぶには美しさと気品もあって、このあたりがバロック・ポップ・クイーンと呼ばれる所以なのかも。
DIONNE WARWICK / Walk On By (1964)
バロック・ポップとは。。。バロック音楽(16世紀後半~17世紀初頭)の要素を取り入れたポップ・ミュージックのことです。チェンバー・ポップと言う場合もあります。ポップ・ミュージックではそれまで使用されてこなかった、クラシック演奏で使用される楽器を取り入れた曲のこと。バロック音楽特有のアンサンブルや曲調も取り入れて作られています。
ビートルズの「イエスタデイ」や「エリナー・リグビー」、ビーチ・ボーイズの「ゴッド・オンリー・ノウズ(神のみぞ知る)」などが有名な曲です。曲中にストリングスやハープシコード、オーボエやホルンなどが使用された、大雑把に言うとクラシックとポップ・ミュージックを融合させた音楽ってことですね。
ポップ・ミュージックの世界では、60年代半ば頃からそういった言われ方をされ始めたようですが、源流はどのあたりにあるのでしょうか。発表された年代の早さから言うと、1963年に録音された、バート・バカラック作曲の 「ウォーク・オン・バイ」あたりかな、と思うのですが。 バート・バカラックの作る曲って、クラシックの先生に師事していただけあって、当時のアメリカン・ポップスとはやや趣きの違う、ヨーロッパ的な格調のようなものを感じるのですが。
THE LEFT BANKE / Walk Away Renee (1966)
レフト・バンクは1965年にニューヨークで結成されています。レフト・バンク登場の60年代半ばになると、バロック・ポップはひとつのムーヴメントとなりますが、その最中にデビューしたのがレフト・バンクです。
レフト・バンクというグループのことはよくは知りませんでしたが、「いとしのルネ」 という邦題のついた 「Walk Away Rene」 は、60年代ポップスのヒット曲としてずっと耳に馴染んできた曲です。それもそのはずで、66年に全米最高位5位を記録する大ヒット曲。 おそらくはラジオの洋楽番組では名曲として何度もオンエアされ耳にしていたのでしょう。 ストリングス、ハープシコードが使用されたクラシカルで甘美な曲です。
PROCOL HARUM / A Whiter Shade Of Pale (1967)
プロコル・ハルムの「青い影」。 誰もが一度は耳にしたことのある名曲です。 多くの説明は不要ではありますが一応。
今年2月、バンドのヴォーカルでこの曲の作曲者であるゲイリー・ブルッカーが亡くなったこともあり、「青い影」を追悼曲として何度かラジオで聴きました。あらためて いい曲だよなぁ、と思いました。
昔、ピーター・バラカン氏が、パーシー・スレッジの「男が女を愛する時」とこの曲の類似性を自らのラジオ番組で言っていたのを記憶しています。「男が女を愛する時」のほうは66年のヒットで、「青い影」よりも一年早いので、下敷きにして作られている。と言うわけですね。けっこう力説していました。
一方で、バッハの「G線上のアリア」を下敷きにしているとも言われています。こちらも有名な話です。メンバーの鍵盤奏者であるマシュー・フィッシャーのオルガンについてを言っているんですね。個人的には、下敷きにしているかもしれないし似てもいるけれど違うと思っています。それを上手く説明できないのですが、曲全体から受ける印象としてです。
マシュー・フィッシャーは後に、「青い影」の作曲には自分も関わっているとして訴訟を起こしていて、これは裁判で著作権が認められたんですね。 当然かなと思います。 「青い影」はあのオルガン演奏があったればこそでしょ。例えばですが、あの曲にオルガン演奏がなかったら、魂のない「青い影」になってしまうと思うんですよね。
マシュー・フッシャーは、ドイツの教会にあるというバッハの墓に行って、花を手向けるぐらいのことはしても良いのかな、とは思いますが (^-^;
★ 青い影。 2017年に50周年を記念して新たにミックスされました。 曲はフェイドアウトで終わらず少し長くなっています。
バロック・ポップと呼ばれる曲は他にもたくさんあるのですが、今回はほんの一部を。 70年代になるとシンセサイザーが普及し、また80年代にはサンプリングによる音の再現も一般化したため、手間と人件費のかかるオーケストラを録音スタジオに呼んで なんてことも少なくなり、バロック・ポップという言葉も聞かれなくなっていったようです。ポール・マッカートニーのライヴで「エリナー・リグビー」を聴いたことがありますが、あのストリングスを鍵盤楽器で再現されても、やはり違うよなと思うし。
サンプラーを使用しての再現演奏ではなく、生の楽器演奏のほうが音に深みや奥行きがあるのは当然なわけで、現在でもそれを求めて演奏者をスタジオに呼んでのレコーディングも行う人もいるのはわかりますね。 ただ、経済的な事情によって誰でもが可能なわけではありませんが。 バロック・ポップって、現在では贅沢な音楽なのかも。
