
みなさんはジャンルやカテゴリーについて、どういった考えをお持ちでしょうか。 音楽の場合ですが。
「ジャンルに拘らず何でも聴く」。そう答える人は珍しくはないでしょ。 僕自身も幅広く聴く方なのではないかと、そう思っています。 ロック、ソウル、ブルース、ジャズ・・・。 クラシックだけあまり聴きませんが。 聴き手にとっては、音楽と言うのはまず受け入れるものですからね。
でもその姿勢が違う方向に飛躍して、「ジャンルなどどうでもいい」 とか、「ジャンルなど必要ない」 といった言葉が、暴論とともにネット上に散見するのをたまに見かけます。 なので少しだけ私見を。 面倒な理屈が嫌いな方には読まないことを薦めます。
売り場で働いていた頃は、音楽のジャンル分けは仕事の一部でした。 お客様に商品を効率よく選んでもらうためには、音楽のスタイルによってわかりやすく分類して陳列するのは、商売としては至極あたりまえのことですよね。すべてのジャンルの音楽を、ひっくるめて A to Z で陳列するわけにはいかないですからね。
購買者である聴き手は、音楽をまず選ぶという行為から始めます。 実際それを購入するために、その音楽がどのジャンルに属するものであるかを判断し、それがロックであるなら、家を出て一直線にロック売り場に向かえばいいわけです。でも今はネット通販での購入が多いので、ジャンルなんて考えなくても不自由はないってことなのかな。
NATALIE COLE / Unforgettable (1990)
売り場スタッフとして悩んだのは、アーティストがそれまで属していたジャンルとは違ったジャンルのアルバムを出した場合です。 現在では、そういうの珍しくないと思いますが。 91年に、一般にはR & B シンガーとして知られていたナタリー・コールが、ジャズ・アルバム 『アンフォーゲッタブル』 をリリースした時は、ソウル、ジャズ、どちらの売り場を中心にして展開するのかで、担当者どうしで話し合いがもたれたりしました。
「両方で自由に売りゃいいだろ」 って簡単には言えない事情が、商売的にはあるんですよね。売り上げに結びつけるにはどのジャンルの売り場で、どういった展開で売るのがベストであるのかと。
Björk / Katta Rokkar (1990)
アルバム 『Glingo-Glo』。 好きなアルバムです。
「お里が知れる」 と言う、あまりいい意味では使われない言い方がありますが、どこの売り場で売るかは "お里重視" みたいな考えもありましたね。 ビョークのアルバム 『Gling-Glo』 は、ビョーク以外の演奏者はジャズ畑出身者で、音楽的には完全なモダン・ジャズのピアノ・トリオ。
でもやっぱりビョークのお里は シュガーキューブスでオルタネイティヴなロック。 ジャズ売り場でもいくらかの展開はあっても、一般にはロック売り場の A to Z に並んでいます。 客の足もそっちへと向かうし。 ジャズ・ファンには、このアルバムの存在自体が当初あまり知られていなかったはず。
僕が勤務していた店では、ナタリー・コールの 『UNFORGETTABLE』 は、ソウル売り場のナタリー・コールの仕切りで 「今度の新作はジャズ!」 みたいなコピーと共に売っていたと記憶しています。 で、ややこしいのは、シングル 「Unforgettable」 で、トラックを重ねて疑似共演した父親・ナット・キング・コールは、ジャズ畑の人でジャズ・ピアノ / ヴォーカルとして有名な人であったということです。そんなわけで、躊躇せずジャズ売り場で展開したCDショップもありました (昔の話ですが)。
MILES DAVIS / Red China Blues (1973)
かっこいい! ファンキー・ブルース。 ギターで使うワウ・ペダルを使用して、トランペットの音をエフェクトしています。 斬新なアイディア!
ビョークはロックで、ナタリー・コールはR & B。 「三つ子の魂 百まで」 なんて諺もあるくらいで、出自というのは誤魔化せなかったりもします。 ま、そのアーティストの基本、ルーツってことですね。 でもビョークもナタリー・コールも父親はジャズ・ミュージシャン。「 幼少時からジャズには馴染んでいたはずだ」 なんて話を持ち出すとまた面倒くさくなりますが。
マイルス・デイヴィスは 「俺の音楽をジャンルで区切るな」 みたいなことを常に言っていたひとです。 モダン・ジャズからスタートし、70年代はジャズを電化してロックにも接近。 晩年はラップを取り入れヒップ・ホップに正面から取り組み・・・。 本人が言うように 「マイルス・デイヴィスの音楽」 ってことなのだと思います。
ジャズは、専門的な音楽理論をきちんと勉強しないとできない音楽です。 なのでロック・ミュージシャンがジャズをやると 「なんちゃってジャズ」 になりがちです。 でもそれはそれで面白いのではないか。 「ロック基本のジャズもどきの音楽」 として。 では、ジャズ基本のマイルスがロックを、ヒップ・ホップを、演ったなら. . . 。 「マイルスの音楽」 のように、名前をジャンルにすることのできる、世に存在する膨大な音楽を束ねることの出来る、数少ないアーティストであったことは間違いなさそうです。
ジャンルを認めるって、違った個性を認めることにつながるのではないかと思っています。 そして音楽を楽しむその瞬間は、ジャンルの枠を取り払って聴くのが音楽を楽しむ方法としては最良なのではないか。コレ、世界平和につながる考えでしょ、ダメ?
昔の職業病が抜けないどこかの男みたいに、分析しながら音楽を聴くよりはずっと楽しいはずです。
おしまい (^_^)v
