
月子 (2017)
● 監督・脚本 越川道夫
● 音楽・音響 宇波 拓
● 挿入歌 森 ゆに 「天には栄え」
○ 出演 三浦透子 / 井之脇 海 / 川瀬陽太 他
ストーリー

物語は山間の町で始まる。 ある日、仕事から帰ったタイチは、唯一の肉親である父が首を吊って死んでいるのを見つける。 荒んだ生活を送っていた父。 タイチは、狭い町の中で、父を殺したのではないかと疑われ、仕事を辞めさせられただけでなく、行き場所を失ってしまう。
その父を、たったひとりで "骨" にした日、タイチは、施設から逃げ出してきた知的障がいの少女・月子と出会う。 月子は、どうやら生家に戻ろうとして何度も連れ戻されているらしい。背中の傷から、施設でひどい扱いをうけているのではないかと思われた。
タイチは追ってくる施設の職員たちを振り切り、月子を彼女の親元まで送って行くことにした。 しかし、分かっているのは彼女の生家が 「海の音の聞こえる場所」 ということだけ。鳥の声に導かれるように、月子とタイチ、ふたりぼっちの旅が始まる。 (『月子』 作品サイト より)
「月子」 公式サイト http://www.humanite.co.jp/tsukiko/

小品ではあっても佳作だと思います。 どうやらロードムービーらしい、ということで映画館に足を運びました。 父親を自殺で失い行き場をなくした青年と、施設を何度も抜け出す知的障がいを持つ少女が旅をするという、そんなストーリーに興味を惹かれたのです。
青年・タイチを演じた井之脇海と少女・月子を演じた三浦透子。 それぞれ、1995年生まれ1996年生まれのふたりは現在注目の、そしてこれからを期待される若手俳優です。特に障がいを持つ少女を演じた三浦透子さんの演技は、称賛に値すると思います。
言いたいことを上手く言えず、他者とのコミュニケーションがままならない月子は、ときに座り込んだり、ときにイタズラをしたり、自分の頭を叩いたり、からだで自分の意思や気持ちを発信するわけですが、こういった難しい演技に彼女は勇気を持って取り組んだはずです。批判の目を向ける人も必ずいますからね。
主役を知的障がい者に設定して作られた映画・ドラマはこれまでにいくつもあります。 そこでは健常者にはないピュアネスが、作品としてのウリになるわけですね。 誤解を承知で言えば、表現者として "希望" を語る場合には、絶好のツールとして機能します。

少人数のスタッフと低予算。すぐにそれとわかる映画です。映像も音も装飾を排して、まるでドキュメンタリーのように生々しく作られています。それゆえに、現実としてはあり得ないと思ういくつかの場面が目立ってしまうわけですが、そういったことがほとんど気にならずのめり込んでしまいました。
僕は、まだ有名とは言えない若いふたりの役者の必死さや純粋さが、映像の中に生かされたのだと思っています。 さらに正直に言ってしまえば、個人的な事情から思い入れを持って観ることが出来たからです。
月子の持ち物から彼女の生家を突き止めたタイチは、福島県富岡、震災による復興の現場である海辺に辿り着きます。 この映画は、やはり再生がテーマとしてあるわけです。この場所をふたりに教えた市の作業員は、「ここは長くいる場所ではない」 と言って立ち去ることを促します。
「波の音が聞こえる場所」 である、今はさら地となってしまった家の跡地に座り込んでいた月子は、やがて海に入っていき、そこではじめてタイチの名前を口にします。 微かな希望の光と絆を感じさせる場面です。
ひとは絶望の底にあるときにこそ、希望の光を見ることが出来るのではないか。 ふたり手をつなぎ、雑踏に向かい歩こうとする場面で物語は終わります。