黒澤明が愛した10本の映画 | Get Up And Go !

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今月5日から池袋の新文芸坐にて開催されていた 「黒澤明が愛した10本の映画」 という特集上映に、最終日である11日にようやく行くことができました。 この日は、黒澤監督のご長女で、映画の衣装デザイナーとして現在活躍中の黒澤和子さんのトークショーも行われ、貴重な話を聞くこともでき、また著書にサインもして頂きとても実りのある一日となりました。 それを含めて要約して簡単に記事にしてまとめてみたので、よかったら。

この企画、昨年 『黒澤明が選んだ100本の映画』 (黒澤和子編) という文春新書から出版された本にちなんでの企画です。 今回はその100本の中から選んでの10本を日替わりで上映するという特集だったわけです。


イワン雷帝 第一部・第二部 (1944~1946 ソ連)
アラビアのロレンス (1962 イギリス)
ゴッドファーザー (1972 アメリカ)
ゴッドファーザー PARTⅡ (1974 アメリカ)
ベン・ハー (1959 アメリカ)
地下室のメロディ (1963 フランス)
道 (1964 イタリア)
会議は踊る (1931 ドイツ)
カリガリ博士 (1919 ドイツ)
アッシャー家の末裔 (1928 フランス)


以上が今回上映された10本。 どれも名作映画ばかり。 僕は最終日に上映の 「カリガリ博士」 と 「アッシャー家の末裔」 という、今回 弁士と生演奏つきで上映された2本の無声映画が特に目当てだったのですが、とても新鮮な感動がありました(無声映画についてはいずれまた)。

上映作品以外の100本の中には チャップリンの 「黄金狂時代」、ゴジラ・シリーズの第一作 「ゴジラ」、北野武監督の 「HANA-BI」、宮崎アニメの 「となりのトトロ」 などもあり、幅広く選択されています。 よくある映画評論家や著名文化人が選んだりする、奇をてらったようなタイトルはなく、割とよく知られている映画ばかりです。

DVD化されておらずどこでも上映/放映されていない、なんていうのは少ないので、映画への入門編・手引書としても 『黒澤明が選んだ100本の映画』 はおすすめします。 黒澤和子さんがトークショーで仰っていましたが、黒澤監督は、洋邦、ジャンル、有名無名を問わず、良い映画という基準のみで映画を観ていたそうです。 そのあたりが幅の広さにつながっているのでしょう。




地下室のメロディ (1963 フランス)
監督;アンリ・ヴェルヌイユ 出演;ジャン・ギャバン、アラン・ドロン



黒澤和子 トークショー
30分ぐらいだったでしょうか。 スクリーン前の舞台上でイスに腰掛けて、柔らかい口調で丁寧に、映画と生前の黒澤監督について語ってくださいました。

黒澤監督は、マスコミなどからはよく天皇だと言われ、制作過程でのトラブルが大きく取り上げられ、そのワンマンぶりばかりが強調されて伝えられていましたが、普段は とても無邪気で茶目っ気があり 「子供がそのまま大人になったようなひと」 であったそうです。

この日は、やはり黒澤組で仕事をされていた野上照代さんも会場に見えられていましたが、同じようなことをその著書の中で語られています。 子供のように好奇心旺盛で、涙もろく、誰よりも映画が好き、そういった面はあまり語られてないんですね。 監督本人は、巨匠だとか天皇だとか言われるのを嫌がっていたそうで、「天皇が借家に住んでいるものか!」 と冗談交じりに憤慨されていたそうです。 実の娘である和子さんとしては、生前の誤解を解きたいという思いもあるようです。

洗面台にあるチューブに入ったヘア・クリームを歯磨き粉だと思って普通に使っていたり、あるいは風呂釜用の洗剤をシャンプーだと思ってずっと使い続けたり、と映画以外のことには頓着しないひとであったそうです。 とにかく映画のことばかり考えているひとであったそうです。

ある時、涙の跡のある父の顔に気づき 「どうしたの、泣いたの?」 と尋ねると、「「魔女の宅急便」 を観て泣いちゃったよ」 と答えたのだそうです。 エクソシストを一緒に観に行ったときなど、夜 部屋の寝室の様子を窺いに来て 「あんな風に首が回っていないかと思って」 と・・・。 話を聞くとかなり面白くて人間味のあるひとです。

映画監督は、職人集団であるスタッフの先頭に立って映画を作るわけですから、誰でもワンマンなところがないと務まらないと思うのですが、そういう所は伝えられていないんですね。 監督が黒澤組と言われるスタッフのこと(仕事や生活のこと) をいつも気にしていた、ということなどは、なかなか伝えられてこなかったんですね。




ゴッドファーザー (1972 アメリカ)
監督;フランシス・フォード・コッポラ 出演;マーロン・ブランド、アル・パチーノ


『黒澤明が選んだ100本の映画』 という本には、父である監督と共に見た映画について、あるときは映画館で一緒に観て帰りの喫茶店で話したことや、あるいはテレビやビデオを並んで見ながら話し合ったこと。あるいは傍らで聞いていたインタビュ-で語った黒澤監督の言葉が、紹介する映画とともに書かれています。 話が興に乗ると、朝まで映画について話しをすることもあったそうですが、本人も言ってましたが、映画好きにとってはなんとも贅沢な話です!

黒澤監督は、「映画は映画館で観るのがいい」 ということを仰っていたそうです。 多くの人と感情を共有する映画館という空間が好きであったそうです。 「映画というのは、国や人種などすべてを越えてみんなが理解しあえる世界の広場」ということも仰っていたそうですが、日本がまだ貧しかった時代に 「七人の侍」 を作ることができたのは、その人間のスケールの大きさからくるものだったのだろうな、とあらためて思った次第です。

それからもうひとつ。
黒澤監督は1998年に亡くなったのですが、晩年に 「これからは哲学を持つことが大切」 と言っていたそうです。 情報で溢れかえった時代にはしっかりした自分というものを持たないと、情報に呑みこまれてしまう、という意味のようです。

これは黒澤監督が話した例え話ですが、金(ゴールド)を扱う金商人は自分の子供に、純金のおもちゃを与えて遊ばせておいて、物心がついたとき、そこに何パーセントかの混ぜ物がある金のおもちゃを与えるとはじいてしまうのだそうです。感覚としてニセ物を見抜く力が備わっているというわけです。

選択肢が多すぎて、何を見たいのか、何を聴きたいのか、何をしたいのか、がわからないという時代においては、まず基本となるものを見つけ、そこから本物を見つけていくということなのではないかと思うのです。

映画というのは総合芸術と言われています。 黒澤監督はたかだか映画の人ですが、黒澤監督作品や監督が選んだ作品には人間の生き方や感情の基本があるように思います。




道 (1964 イタリア)
監督;フェデリコ・フェリーニ 出演;ジュリエッタ・マシーナ、アンソニー・クイン






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