朝日社説(2006年11月09日(木曜日)付) 「やらせ質問 民意をなめるな」
あきれつつ、腹が立つ。
政府主催のタウンミーティングで、やらせ質問があった。テーマは教育改革だ。こともあろうに、子どもの教育を担う文部科学省が「やらせ」に深くかかわっていた。
その会合は青森県八戸市で9月に開かれた。当時の小坂憲次文部科学相ら約400人が参加した。質問した10人のうち6人は政府側から事前に頼まれていた。
うち2人は、政府が国会に提出している教育基本法の改正案に賛成意見を述べるよう、文科省から質問案を渡されていた。改正案は安倍首相が最重要課題に挙げる法案だ。質問者は文案に沿って、時代に応じて法改正が必要なことや、家庭教育の大切さを口にした。
質問した人たちは「せりふの棒読みは避けて」「自分の意見を言っている、という感じで」と指導されていた。当日は会場の担当者が受付から後を追っていき、座席の位置を確認する手順になっていた。その人たちが間違いなく司会者から指名されるようにするためだ。
いったい、これは何なのだ。
タウンミーティングは、小泉首相が01年の就任直後から「国民との対話」を掲げて始めた。しょせん、政府の政策宣伝の場にすぎない。そんな冷めた見方も多いかもしれない。
しかし、開催費用は昨年度、1カ所につき約1100万円にのぼる。国民にとっては、閣僚に直接、質問して意見を言える貴重な機会だ。多額の税金を投じて、民意を聞くふりをするのでは困る。
タウンミーティングは小泉政権の5年余りで174回開かれた。八戸市のほかでも、「やらせ」があったに違いない。そんな疑念がふくらむ。
塩崎官房長官は過去にさかのぼって「やらせ」の有無を徹底的に調べ直さなければならない。
もう一つ、聞き逃せないことがある。タウンミーティングを担当する内閣府は「質問案を示さずに発言を依頼することはあった」と認めたうえで、「議論の活発化」を理由に挙げている。
しかし、これは政府への反対意見を減らす狙いとしか思えない。参加者の意見に真剣に耳を傾けようという謙虚な姿勢とはほど遠い。
明らかに民意をなめている。
「やらせ」が文科省から内閣府を経由して地元の教育委員会への要請だった事実も見逃せない。改めて文科省と教育委員会の上意下達ぶりが明らかになった。これでは教育委員会の無用論が強まっても当然だろう。
いま国会では教育基本法の改正論議が大詰めを迎えている。政府の改正案は教育の目標として「個人の価値を尊重して……、自主及び自律の精神を養う……」ことも挙げている。
「やらせ」を頼んだ文科省、引き受けた地元の教委。そんな人たちが法改正を進めたり、後押ししたりしていると思うと、なんとも暗い気持ちになる。
だから、オマエが言うなってば!\(`o'") こら-っ
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