日本でも既に話題のようなので、あらすじやキャスト等の説明は省略します。
観始めてすぐ「うおー、これは大傑作だ」ってテンション爆上がりで、
2時間20分があっという間でした。
これは50年後も観続けられる大作なんではないでしょうか。
圧倒的な映像、風変わりな設定とキャラクター、大胆な演技、
凝った美術や衣装、奇妙で美しい音楽。
普遍的な問題、社会的なテーマを、絶妙なバランスでコミカルに描いています。
セリフや表情、間の取り方等、笑ってしまう場面がいくつもありました。
ヨルゴスさん、さすがでございます。
私は以前からヨルゴス・ランティモス監督は相当イカレているとみています。
「籠の中の乙女」「ロブスター」「聖なる鹿殺し」を観て、この人相当闇を抱えてるぞと。
その後の「女王陛下のお気に入り」では、意外にも大作にまとめ上げ、高評価を得ました。
今回さらに上をいく壮大な世界観。
アート性とエンタメ性を兼ね備え、時代性革新性もあるという超大作に。
すごいのは、このスケールの映画になっても、
監督の独自性(変態ぶり)が保持されていることです。
監督の作品は、よく家族や性について描かれています。
何だか嘘くさい家族、恣意的に作る家族、
暴力に縛られたり支配されたりする歪んだ愛を持つ家族。
性について、オープンすぎる人たち。
タブーを逸脱して感情のまま突き進む人たちを見ると、
人間としての本能を見せつけられているようで、潔さというか、ある種の爽快感と同時に、
その姿が滑稽にも思えてきます。
また、支配から逃れ、自由を獲得する姿には、カタルシスを感じます。
主人公ベラは躊躇せず、思ったことを言い、行動し、とても自信があるように見えます。
マーク・ラファロ演じるダンカンに、
階級にそぐわないマナーだと、たしなめられたりしていますが、
日本だったら、もっとストレートに、女らしくないと責められるのかもしれません。
なのでフェミニズムの観点で語る人もいます。
その観点でみるならば、未だここまでしか描けない現実的結末に不満が残りますが、
まあ原作もありますし。
知識、教養、経験を身に着けてくると、嘘や欺瞞を見破ることができたり、
その背景にある構造に我慢ができなくなるものです。
しかし、その構造に真正面から挑んでも、それが簡単に変わることはなく、
ベラのように工夫をし、折り合いをつけて生きることになります。
既得権益側は、顔にコップの水でもぶっかけられない限り気づかないですし、
誰かが声を上げ、指摘し続けない限り、前進もしないわけなので、
私はベラの態度を肯定します。
今や、男や女ということでもなく、
アンフェアな社会のルールや根拠のないマナーを他人に押し付けることは、
簡単にはできなくなっているはずで、昔に比べればマシ。
でも、自由や自立を求めての更なる冒険は結構タフなのも確かです。
映画をみながら、人間にはまだまだ成長が必要だなと考えていました。
エロだし、グロだし、社会通念に揺さぶりをかけて攻めている話なので、
不愉快に感じる人がいるかもしれませんが、全体的には楽しい寓話の世界。
本能から逃れられない人間、愚かな事をしてしまう人間のサガを、
個性豊かな人物像で描き、そんなクソな社会の中でも、
しっかり目を開いて生きることは価値があると肯定してくれている。
傑作だと思います。あとで原作を読んでみよう。