三連休を利用して、母のお見舞いに行ってきました。

地元ではマルシェが開催されており、普段は静かな町が活気であふれておりました。

土曜日は強く雨が降りましたが、日曜は暑いと感じるほどの快晴でしたので、マルシェをふらつきつつ、病院の面会時間になった際に父と夫と三人で向かいました。

実は、地元の病院はまだ面会が緩和されていません。

週に2回まで、面会は１～２人と制限されています。

しかし、母の体調が今後どうなるかわからないことなどを加味し、院長先生が特別に許可をくださいました。

ですので、3人でお見舞いに行っても大丈夫とのこと。

くわえて、父は毎日お見舞いに行けるということでしたので、父も毎日顔が見れることになってうれしい様子でした。

地元はとても小さな町なので、そういう融通ができるのかもしれません。

また、母が長年医療関係者だったこともあり、母の後輩にあたる方やお世話になった方々の配慮もいただきました。地元は人との距離が近すぎてちょっと……と敬遠していた私ですが、親世代の横のつながりと云いますか、ひととの縁には驚かされてばかりです。

そんなこんなで感謝などしつつ、病院へ。

父が面会の手続きを進めている間に、私たち夫婦は先に中へ通されました。

母は個室なので、広い部屋があてがわれていました。病室へつくと、私が来たことに驚いている様子。

前回実家で会った時よりも意識や顔つきがはっきりしていました。

どうして？という顔をする母に「会いに来たよ」というと、びっくりしてパニックになってしまったのか、「おとうさんは？」と云いながら泣き始めてしまいました。

面会の手続きを終えた父がやってきて、その様子を見て手慣れた様子でなだめていきます。

「娘が会いに来たんだよ。うれしいでしょ？大丈夫だよ」

と柔らかい声で母に言い聞かせると、母はうん、うんと何度も云いながら泣き止んでくれました。

最近は、感情が高ぶって泣いたり怒ったりすることがよくあるそうです。

入院し、脳のむくみをおさえてもらったり、食事が満足にできないこともあったので栄養を入れてもらっていたようなのですが、その効果が三連休のあたりで出始めているようでした。

少しであれば会話もできたし、こちらの言っていることにも反応をしてくれます。

食べれそうだというので買って持って行ったロールケーキを見せたところ「たべたい！」と目を輝かせてくれました。

母が病気になる前から大好きな、治一郎のロールケーキです。小さく切り分けて父が与えると、2切れ分ぺろりと平らげていました。調子が少し良いのでしょうか。おしゃべりにかすかに笑ってくれたり、帰るときは「またきてね」と云ってくれたりで、うれしかったです。……さびしくもありますが。

とりあえずは、前回の救急搬送のあたりよりも体調等が落ち着いているので安心です。

しかし、何が起こるかわかりませんし、母が今後どうなっていくのか、やはり読めません。突然何があってもいいようにさまざまシミュレーションはしていますが、気を抜くとさびしさで泣いてしまいそうになります。

そのたびに寄り添ってくれる夫や猫に助けられています。

母に寄り添い、精一杯お世話や身の回りのことをひとりで頑張っている父には、私ができるだけ寄り添って上げられたらと思っています。

この日も日帰りだったので、父にいくつかの作り置き等を置いて帰りました。

平日はそれらを食べながら仕事に行き、面会時間には母に会いに行く生活をしているようです。

母の妹（叔母）や親せきの方々にもお世話になっています。

父をはじめとした方々と連携を取りながら、少し遠方からではありますが、できるだけ母をサポートしていけたらと思っています。

これは完全に余談なのですが。

母は元気なころから、わたしが作るクッキーを好んで食べてくれていました。初めてふるまった際、母は「私、死ぬ直前はこのクッキーを食べてから死にたい。そのくらい大好き」だなんて言ってくれていたのです。いつになく大げさな言葉だなあと、言われてからはずっと頭に残っていました。クッキーをはじめて作ってあげてからもう4年も経つのですが、その時の驚きは今でも忘れられません。

「クッキーごときで何言ってるの？大げさすぎるよ。死ぬだなんて」と、私は茶化して笑っていましたが、母はその時だけはなぜか、まじめな顔をして言っていたんですよね。病気になる前から何度かそういうことを言われました。「最後の晩餐はこのクッキーね」とか。「ああ、やっぱりこれを食べて死にたい」とか。クッキーを渡すときはいつも、母が言った言葉がぐるぐる渦巻いていました。ちょっと怖いと思ってしまって、最近はなかなか作る手が進まないことも。

そうこうしているうちに、去年、母は病気になりました。大学病院に入院しているころなんかは、「作ってきてほしい」と云われ何度かクッキーを作っていきました。やはりその時にも、「お母さんは死ぬ前にこのクッキーが食べられたら幸せだなあ。おいしいです」なんてラインをくれていたんです。いよいよ洒落にならなくなってきたぞ…。と思いながら、「おそまつさまでした。またいつでも作るからね」と返信していたんです。

ここのところは、食べられるものに波があったり、全く食べられなかったりと食生活が不安定だったのですが、点滴をしてもらうようになってからはいろいろ食べられるとのこと。

それを受け、先日父に「今度、お母さんが好きだったクッキーを作ってやってくれないか。まだいろいろ食べられそうだから」と頼まれたのですが、「最後の食事はあなたが作ったクッキーが食べたい」としきりに言っていた母のことを思い出し、なかなか作れそうにありません。なんだか、食べてもらったら母が遠くにいってしまいそうで怖いのです。でも、せっかく食べられるなら、食べてほしい気持ちもあります。

どう折り合いをつけたらいいのか…。いや、母が何の気なしに言ったことなのでしょうから気にしすぎなのかもしれないですけれどね。なんだか不思議と、母が真顔で言った言葉たちが、今でもとげのように残っているのです。