わが夫(英国人)の父
すなわちわが義父
(白色シュレック)の
趣味は建築(設計及び施工)。
では何故そんな人が
自宅の黒カビというか
そのままにしているか、
なんでございますが
・・・わが義父は
自宅から少し離れたところに
もう一件家屋を
所有しておりまして。
この家屋というのが
廃屋というか廃墟というか
非常な年代物でして・・・
私と夫が出会った頃は
それはそれは素晴らしい
遺跡状態だったのを
その後少しずつ手を入れていき、
それでも完全改築は
素人には無理だろうと
思っておりましたら
ここ十数年の間に
足場を組み屋根職人を雇い
コロナ前の時点で
遠目に見れば
まさに美邸の体裁を整え
・・・でも内装はまだまだで、
しかしそこからさらに
電気技師が入り
家具が揃えられ、暖炉まわりなど
そこだけ見たらもう
見事に瀟洒なお宅になり
もちろん浴室の洗面台や
浴槽・便器などはすべて
義父の愛する
バスタブは当然鋳鉄。
200キロはあるそれを
2階に運び上げるのには
わが夫も協力し、
でも聞いてください、
このお屋敷には
水道が通っていないんです。
故障とかではなく
水道管がそもそも
敷かれていないんです。
ですからどれだけ優美な
浴槽や便器があっても
そこに取り付けられた
蛇口からは
水が一滴も出てこない。
「・・・それ、浴槽
入れても無駄じゃないのか」
「いや、父はもう浴槽を
使っているみたいですよ」
「どうやってお湯を張るんだよ」
「バケツでお湯を運んで
浴槽に貯めるみたいです」
「使った水をどうするんだ」
「バケツで汲みだして
汲み切れなかった水は
ちりとりとほうきで掃き集めて
窓から捨てているみたいです」
何が恐ろしいって
わが義父はこの状態で
この家のお披露目会を開こうと
一時本気で考えていたことで
「駄目だろう!お客を
招いたら駄目だろう!
トイレのことを考えろ!」
「それは移動式トイレを何台か
庭に設置するつもりみたいですが」
「それでもお客の何人かは
絶対に誤って水の出ない・
流れないトイレを
使っちゃうに
決まっているだろ!
弾の入った銃で
ロシアン・ルーレットを
するようなものだぞそれは!」
その後下水は完備しました。
問題は上水道、水。
まだ、蛇口から
出ないんですよね・・・
あの家、ものすごく
趣味のいい田舎風の台所が
ついているんですけど
英国伝統のAGAオーブンも
勿論完備しているんですけど
とりあえず水は外から
『持ち込み』なんですよ、
バケツとか瓶とか使って・・・
雨樋にガーゴイルを
つけたい、と
石切り職人を雇用する
余裕があるなら
まず水をどうにか
すべきではないか、と。
そもそもこんな趣味の
『別邸』よりも先に
本宅・自宅の漏水を
修繕すべきではないのか、と。
どうも聞いた感じだと
こっちの別邸に
資金と情熱を注ぎこみ過ぎて
自宅の修繕は後回しに
なっているみたいなんです・・・
わけがわからない。
しかしこの
わけのわからなさこそ
わが義父の真骨頂。
私はこの別邸のことを
敬意をこめて
『原寸大ドールハウス』と
呼んでおります。
わが夫は血縁である分
そこらへん容赦がなくて
あの建造物を『虚栄の館』と
呼ばわっております。
・・・とりあえず、
水はどうにかすべきだと
私は思うんですよね。
義父のドールハウスが
完成するのが先か
サグラダ・ファミリアが
完成するのが先か
・・・これは長いこと
定番の夫の家族内
ジョークだったのですが、
たぶんサグラダ・ファミリアが
先にゴールテープを切るな、と
廃墟がお好きなあなたも
廃墟は好きだけれども
そこを改築しようとは
思わないアナタも
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