わが実家には朝の10時に

コーヒーを淹れる習慣がありました。

 

家族だけが家にいる時もそうですし

仕事の関係でお客様や

お手伝いの方がいらっしゃる時も

10時にはコーヒー。

 

コーヒー奉行はわが母

(イメージ武将:豊臣秀吉)で

9時45分になると

豆と水を測り機械のスイッチを入れ

10時ちょうどに人数分のコーヒーが

ポットの中に出来上がり、そこで

「コーヒー召し上がりたい方、

出来ています、休憩してください」

 

「コーヒー、すごく飲みたいですけど

今、席を立てなくて!」という方の

ところへは即座にお盆に

コーヒーと砂糖・ミルクを載せて行く。

 

つまり、「コーヒーを飲みますか?」

という問いかけに「はい」という

返事が来た場合、1分以内に

コーヒーは必ず出せる、

それがわが実家の鉄の掟ッ!

 

「コーヒーを淹れます」・・・

そんな言葉は使う必要がねーんだ!

「コーヒーを淹れました」

なら使ってもいいッ!!

 

「コーヒーを淹れる」と

心の中で思ったならッ!

その時スデに

行動は終わっているんだッ!

 

 

 

 

どうですか、台所に

プロシュート兄貴がいる家庭

 

で、まあ、わが義母

(永遠の文学少女)というのが

またこの正反対の路線

極めたような女性でありまして・・・

 

 

英国ナローボートの旅、

朝食の席でコーヒーを淹れるのは

わが義母の役目でした。

 

・・・だってそれ以外のことを

わが母秀吉さんが

全部やっちゃうんですもの・・・!

 

ただこれはうちの母の

作業の手が早い、

というのもあるんですが、

わが母はほら、わが父

(イメージ武将:石田三成)の

贔屓ですから、三成さんの

「一分一秒でも早く!

今日も船を動かしたいッ!」

みたいな気持ちを汲んで

さっささっさと食事の

準備を進めちゃうのに対し

わが義母はわが義父

(白色シュレック)の

「休暇なんだ!休養なんだ!

食卓ではゆっくりしたい!」

の気持ちに寄り添っていたというか。

 

ともあれ義母は毎朝我々に

美味しいコーヒーを淹れてくれまして、

で、その1杯目を飲み終わると

わが父はこう・・・さりげなく

席を立つきっかけを探し始め・・・

 

「やっぱりさ、休暇だから

ゆっくりしたいっていう

向こうの気持ちもわかるしさ、

そんな急かすような真似は

出来ないよね。どれだけ

こっちが船を

動かし始めたくても」と

三成氏は裏で言っておりましたが

・・・お父さん、そんなあなたの

心の動き、バレバレです。

 

可哀そうなわが夫はいつも

この三成君の健気な重圧に負け

自分のコーヒーを飲み干すと

「・・・三成さん、じゃあ、

もやい綱を解きましょうか!」

 

 

食事の後片付けは私が引き受け

(・・・といっても洗ったお皿を

拭いたり棚に戻したりは

横でわが母がちゃっちゃと

やっちゃうんですが)、

台所がきれいになったところで

母とともに操舵席を覗きに行き

ボート・ハイになっている三成さんと

その背後でヤキモキしている

わが夫を見物し笑っていると、

舳先で休んでいたわが義母が

廊下を通ってやって来て

「ねえ、コーヒーの2杯目を

お飲みになりたい方、います?」

 

わが父、母、夫、私、4人がそろって

「はい、飲みたいです!」

 

「じゃあ淹れてきますね・・・

ところで三成さんは

ボートの操縦が本当に

サマになってきましたねえ」

 

船後方の柵にもたれかかり

ニコニコと世間話を始めるわが義母。

 

今日の行き先やお天気のことや

「ボート生活って存外快適ですわね」

みたいなことを話した後、

今度は夫に向かって

「ねえ、ところでアナタの携帯に

弟たちから連絡はある?

牛の囲いの水道がちゃんと

直っているといいんだけど」

 

和やかな会話が15分ほど

続いたところでわが母が

「あの・・・コーヒー、

私が淹れてきましょうか?」

 

「いえいえ、駄目ですよ、

秀吉さん、アナタったら気が付くと

仕事をしちゃっているんですから!

コーヒーくらいは私が淹れます、

ほら、今日の朝の果物も

全部素敵な飾り切りになさって、

あれはどこで覚えられたの?」

 

さらに15分ほど穏やかな会話が

続いたところでわが義母は立ち上がり

「あらあら、話し込んじゃって!

じゃあコーヒーを持ってきますね、

あ、コーヒーの濃さに何か

ご注文はあります?私の作る

コーヒー、濃すぎたりしません?」

 

「いえいえ、いつもと同じで。

いつもとても美味しいので」

 

「あら嬉しい、とてもお上手、

そうそう、とても美味しいといえば

昨日の夕食をとったレストランは・・・」

 

我々がこの朝

コーヒーのおかわりに

ありついたときには、義母の

「2杯目を召し上がる方は?」

の質問から1時間が

経過しておりました。

 

 

これがわが母には

かなりの衝撃であった様子で

「ねえ・・・あちらのおかあさまって

いつもこういう感じなの?」

 

「ええ、まあ」

 

「・・・あれね、私とはずいぶん

こう・・・違う感じの方よね」

 

「ええ、それはもう」

 

「・・・ねえ、やっぱりああいうのが

英国上流社会における

優美さってものなのかしら?

いつも動作と行動に余裕が

ある・・・みたいな。

そうなると・・・おかーさんって

向こうのおかあさまに比べて

ほら・・・ガサツ?

それとも何・・・せっかち?」

 

コーヒーはとても美味しかったです。

 

 

義母の流儀はわが母秀吉には

本当に驚きであったらしく

「・・・ねえ、あれ・・・あれよね、

いじめ・・・とかじゃないのよね?

嫁におかわりは与えない、とか・・・

そういうんじゃないわよね?

だってあの人、いじめとか

そういうことしない性格でしょ?」

 

「できない性格です」

 

ちなみにわが実の母も

義理の母も『料理』は

ふたりともかなり上手、本当に

 

しかしこの件に関しては

どちらの流儀が世間的に

よりノーマルであるのか

自分では判断できない私です

 

いや私が

慣れ親しんでいるのは

当然わが母の

神速厨房術なんですが

そもそも一般的な炊事作業に

そこまでの速度って

要求されるものでしたっけ?

 

わが母はですね、

10時のコーヒーの準備が

5分遅れただけで

後悔と謝罪と絶望の

独り芝居を始める勢いの人で・・・

 

で、でも何にせよコーヒーが

美味しかったのは

良かったですよね!

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