わが夫婦・わが両親・

わが義理の両親の

総勢6名が参加した

狂気のナローボート1週間旅、

船の操縦を一番やりたがったのは

当然旅の言い出しっぺである

わが父(イメージ武将:石田三成)。

 

しかし船尾の操縦席周辺に

一番長く滞在したのは

わが夫(英国人)でした。

 

 

舵を取る人のそばに

待機している人がいると

何かの時に対応しやすい、

というのもあったんですが、

夫が小さな声で言うには

「だって三成さんの操船って・・・

一人でやらせるのは

怖いっていうか・・・

危ないっていうか・・・」

 

「君、そういうのは遠慮なく

本人に言ってくれていいんだぞ。

むしろ言わないと駄目じゃないか」

 

「言っているんです!

言っているんですけど・・・!

僕が口をはさんでも

『オーケイオーケイ』とか言って

聞いてくれないんですよ!」

 

というわけで私が通訳というか

調停者の役を務めることになり

「おとーさんおとーさん、

うちの夫がお父さんの

操船について物申したいことが

あるらしいんですが」

 

「うん、なんかずっと言われてる、

ゴメス(仮名)君って諦めないよね」

 

「いや、諦めというかですね・・・

わが夫はお父さんがどうして

そんなに船のスピードを

出したがるのか、そこが

わからないと申しておりますが」

 

「スピード?出してないよ?」

 

「あ、そうなんですか?

夫よ、父は別に

スピード出していないって」

 

「出していますよ!

ナローボートというのは

もっとゆっくり進むべきものです!」

 

「・・・と、夫は言っておりますが」

 

「でも制限速度(時速

4マイル)は超えていないよ?」

 

「制限速度というのは

『それ以下で動いてね』という

目安であって、なにも

常に3.8マイルで

動けって話じゃないんです!」

 

「・・・だそうですが」

 

「あのねえNorizo、君、

物理の時間で習ったでしょう、

水に浮く物体を動かす際は

速力が出ていたほうが

動きをコントロールしやすいんだよ。

僕は安全のためにあえて

スピードを維持しているんだよ」

 

「・・・夫よ、物理を出されると

元劣等生の私は弱いんだが、

父の理論に隙はあるだろうか」

 

「理論的には確かに!確かに

それで理論上は

間違ってはいないんですが!

じゃあ質問を変えます、三成さんは

どうして運河の左端に

船を寄せたがるんですか!

もっと真ん中を走ってくださいよ、

時々左舷をこすっているでしょ!」

 

「父よ、水路のもっと内側を

走ってくれとわが夫は

申しておりますが、それは・・・」

 

「だって運河の向こうから

対向車ならぬ対向船が来るでしょ。

相手のためにもこっちは

左側に寄っていなくちゃ」

 

 

ああ、自動車教習所で習うところの

『キープレフト』というあれですね。

 

「父の言うことにも一理ないか?」

 

「普段は水路の中央を走っていて

向こうに船が見えたら

左に寄るんでいいじゃないですか!」

 

「・・・という案については

どうお考えですかお父さん?」

 

「船というのはね、車と違って

舵を切った後に船がそっちの方向に

動き出すまで時間がかかるし、

急な角度に舵を切るのは事故の元。

だから対向船が見える前から船を

左に寄せておいたほうがよろしい」

 

「夫よ、ごめんな、うちの父、

これはどうも理論武装している」

 

「じゃあせめてもう少し!

もう少しだけ岸から離れてください!

だってこれ、ちょっと横風が

強くなったら絶対にまた

船の左側からガリガリガリって

音がする位置取りですよ!」

 

「おとーさん、確かに今日は

風が強いかと思われますが」

 

「だから僕はもっと速度を

出したほうがいいと思うんだよ、

低速で動いていたら

風に負けちゃうよ、危険だよ」

 

なおこの少し後、我々の船は

絵に描いたような

石と煉瓦で出来た

丸い橋の下をくぐったのですが

橋の下に潜り込んだ直後

左舷から例の

『ガリガリガリー』が

聞こえてきてですね・・・

 

 

「ほら、三成さん!だから

左に寄せ過ぎだって

言ったじゃないですか!」

 

「もう少し速度を出していたら

こんな接触は避けられたよね、

でもゴメス君、気にしなくていいよ」

 

「船の塗装が剥げたら

レンタル屋さんに怒られますよ!」

 

「大丈夫、初日に確かめてある、

船の外見の傷は

全部保険適応されるってさ」

 

「船は保険適用されても!

あの橋はきっと僕の国の

大事な文化遺産です!」

 

わが夫はこの旅行で

日々やつれていきました・・・

 

 

逆にわが父三成氏は

日を経るごとになんかこう

妙にツヤツヤしてきてですね、

「やっぱりゴメス君は広いところで

育ったからわからないのかな、

僕は首都高を開通直後から

走っている男ですよ、

狭い道のすり抜けとかそういう

運転には慣れているんですから」

 

これは私とわが夫の手に余る、

母(イメージ武将:豊臣秀吉)に

加勢してもらおう、と思ったら、

ほら、あの人はなんのかんので

新婚旅行にモヘンジョダロ

連れていかれても成田離婚を

考えなかった人間でしょう?

 

「お母さんね・・・

ナローボートとか

全然知らなかったけど、

でも三成さんがあんなに

楽しそうなのを見て・・・

本当に・・・本当にウェールズに

来てよかったなって・・・!

え?運転技術?おかーさん

そういうのよくわかんない」

 

 

旅の間、基本的に

操縦席には胸を張った

笑顔の三成氏の姿があり、

その横には秀吉さんが

これもまた笑顔で腰を下ろし、

そしてその足元または

背後にはげっそりした顔の

わが夫がお目付け役として

常に待機していたのでありました。

 

楽しい思い出です。

 

 

写真を見返すと

わが父は明らかに

日毎にツヤツヤテカテカ

若返っている・・・

 

対してわが夫はね・・・

 

肌荒れが

目立ってくると同時に

頭髪がこう・・・

 

ストレスは美容の大敵

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