コアジサシとのソーシャルディスタンス(検見川浜) | 首都圏生きものめぐり ~関東の動植物に会いにいくぶらっと散歩~

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雑誌編集者である著者が自ら首都圏の公園や自然地に足を運び、そこで出合った生きものの情報をお届けします。
都会の印象が強い東京にも、カワセミやタカ、多くの昆虫が暮らしています。「首都圏ってこんなに生きものが多いのか」と驚かされる情報が満載です。

毎年、初夏になると酒匂川河口コアジサシの営巣を見るのが

私の中ではセオリーとなっていたのですが、

今年は諸々の事情で実家(横浜市)に戻れなかったため

家(埼玉県戸田市)から遠い小田原まで足を運ぶのは憚られました。

 

そうした中、まだ足を運んでいない千葉県内のとある浜辺に

著名なコアジサシの営巣地があるという情報を入手しましたため

先日初めて行ってまいりました。その結果……。↓

 

 

 

 

 

これは驚き。ごく限られた浜辺の一区画に

とんでもない数コアジサシが舞い降りていました。

 

特筆すべきは、人の歩く川辺と隔絶されていた酒匂川と違い、

彼らの着陸している場所は陸続きであり

その気になればロープを潜り抜けて

入れてしまう場所であるということでしょう。

(ただし立ち入った場合は漏れなく法的制裁が待ち受けています(後述))

 

生息密度は酒匂川より高いんじゃないかと。

加えてロープを挟んだその先にはカメラマンと、

それ以上に多数のサーファーがいるのに

彼らはまったくと言っていいほど恐れた様子がありません。

 

 

 

 

 

これがわかりやすいかも。

左のロープで区切られたところ(緑部分)がコアジサシの繁殖地。

それ以外の砂浜は人の居場所という形です。

右奥にサーファーが集まっているのがわかりますでしょうか?

 

 

 

 

 

飛ぶ、コアジサシ

こんなに近くで撮れたのは初めてかもしれません。

何しろ物凄い数なので、カメラを構えていれば

素人でも簡単に飛行シーンを撮影できてしまいます。

 

 

 

 

 

コアジサシのいる風景 その1

 

この日は風が強かったもので、あまり活発には飛べなかったらしく

砂地・草地でジッとしている個体も多かったようです。

 

 

 

 

 

カラスはヒナの天敵となっているらしいので

千葉市で対策を講じているようです。

(にしても一体何を仕掛けているのか?)

 

 

 

 

 

この日は海からの南風がやたら強く、

私ですら立っていて身体を煽られるのを感じました。

コアジサシのような小さな鳥にとってはまさに死活問題。

ゆえに顔を海の方に向け、風を受け流してじっと耐えていました。

(それでも飛ぶ個体はいましたが、大分苦労していました)

 

 

 

 

 

上にも書きましたが、とにかく鳥との距離が近い……。

しかもここ、上記の仕切られている営巣地内(立入禁止区域)ではなく

普通に人の歩ける場所だったりします。

 

まあコアジサシには、ロープも立入禁止の看板の意味も分かるはずがないので

繁殖地の近くにある浜辺に降りるのはごくごく自然な行為に過ぎません。

ゆえに、観察する人の側が適度な距離をとるしかありません。

 

 

 

 

 

クローズアップ

距離は近かったのですが、如何せん風が強いもので

カメラがなかなか安定せず、鮮明に撮るには苦労しました。

 

何? もっと間近で拝みたいと?↓

 

 

 

 

 

 

 

顔を思い切り拡大してみました。

過眼線という黒いラインがあるため、

遠距離からだとなかなか目玉がハッキリ見えません。

 

カモメの仲間ですが、ウミネコやオオセグロカモメと比べると

目つきはそんなに怖くない印象ですね。

 

 

 

 

 

で、そんなコアジサシたちのすぐ向こう側に

荒波を満喫するサーファーの姿が。

でも、やはり逃げる様子はありません。

 

 

 

 

 

コアジサシのいる風景 その2

ロープの外側にいることが一目でわかる画像です。

 

 

 

 

 

もういっちょ。

(コアジサシについては赤い矢印の所に注目)

 

 

 

 

 

ちなみにロープの外側とはいえど

距離をあまり詰め過ぎればコアジサシは逃げてしまいます。

その辺りの注意を促す案内板も出ていますが……。

 

 

 

 

 

営巣中……なのかな?

ヒナがいるのかどうかまではわかりませんでした。

まだ本格的繁殖期には早かったのかもしれませんし

上記の通りこの日はやたらと風が強かったので

親がうまく被さって飛ばないようガードしていたのかもしれません。

 

 

 

さて、ここまでの一連の流れを見て

以下のような疑問を抱いた方も多いはず。

 

1.「なぜ、サーファーやカメラマンがあれだけ近くにいても逃げないのか?」

2.「一区画だけじゃなく、全部コアジサシのために封鎖したらいいのでは?」

 

実際の所は、我々にもコアジサシの言葉はわからんので推察するしかないですが

まず1については、単純に人を恐れていないと考えていいかなと。

カメラマンはもちろんですが、地元のサーファーにとっても

コアジサシはごくありふれた野鳥であり(故に注目していない可能性も)、

どの程度の距離を保てば彼らを怖がらせないか知っている可能性があります。

 

そして2についてですが、これはコアジサシ保全の観点から見れば理想的ですが

望遠レンズのあるカメラマンはともかく、サーファーが納得しないでしょう。

これに対して「人の勝手」と外野が断ずるのは簡単でしょうが、

ここはもう随分前からサーフィンのメッカだったらしいですし……

だからこそ千葉市も妥協点を探り、一部区画をロープで囲って

繁殖妨害リスクを(ゼロにはできずとも)低減しようとしているのかもしれません。

 

その結果、一時期激減したらしいコアジサシは実際にここ数年で数が回復し、

今年も間違いなく多数飛来しています。結果だけを見れば成功と言えるでしょう。

 

 

「でも、ロープの外で繁殖して人が卵を踏んづける可能性はあるじゃないか」

「これじゃどこまで近づけるのかわからない。具体的なガイドラインはないの?」

「曖昧な対応は責任逃れ。全面立入禁止にするか開放にするかどっちかにしろ」

 

……などなど、色んな意見がありそうな気はしますが

正直、その辺りはもう自己判断でお願いしますとしか言えません。

 

 

とりあえず私は現場を見て、こう対応することとしました。↓

 

「千葉市が立入禁止区画を設けている以上、

まずロープの中には絶対に入らない。

また、区画外でも卵やヒナがある可能性はゼロでないので、常に足元に注意し、

観察の際には極力ロープに近づかず、コアジサシを驚かさないよう注意する。

そしてあまりちょこまかと動き回らず、極端な長居はしない」

 

こう書くと、「そのコアジサシを驚かさない方法がわからないんだ」

「ちゃんと市が正確な安全距離を算出し、ロープの位置もそれに合わせるべきだ」

みたいに思う方もいるかも?

でもね、これはもう現場で覚えろとしか言えません(爆)

現地で観察しているベテランウォッチャーさんに

「初めてなんですけど、どの位までなら近づけますか?」と聞くとかね。

(おっちゃんが怖くて質問しづらい? そこは頑張って聞け。多分怒鳴られたりはしないから)

そしてコアジサシは個体によって警戒の度合いが異なるため

どこまでがセーフorアウトかという正確なガイドラインなんか作れません。

(そんなもん翻訳コンニャクでコアジサシの言葉が理解できなきゃ無理)

 

ロープで囲い、最低限の立入禁止区域を設けた時点でルールづくりは十分。

あとは浜の利用者個々がコアジサシを観察しながら

できる限り脅かさないよう気を付けるしかないでしょう。

 

適した距離感は、指示待ちではなく自分で考えるのが基本。

(実際バードウォッチングの指南本にも何m離れろなどと具体的な指示は書かれていません)

コアジサシに限らず、鳥の観察を何度も繰り返している内に

その辺りのカンは自ずと身についてくるはずです。

具体的なガイドラインが提示されるのを期待するのではなく、

現場で直接生きものを観察し、適した距離感の取り方を経験を基に身につける……

これができてこそ、本当の意味での「自然共生」に近づくんじゃないでしょうか。

雁字搦めに「規制」して、人を自然から遠ざけるのは何か違うんじゃないか?

私はそう感じるのです。

 

 

 

 

 

最後に、現地に設置されている看板です。

過去にとある愚か者が卵を食用にするべく巣を荒らし

それ以降コアジサシがしばらく繁殖しなくなったらしいので(呪)

現在は厳しく立入禁止区画が設けられています。

愚か者の正体については調べればすぐにわかりますが、ここでは伏せます。

 

 

かなり有名なスポットではありますが、新規開拓できたのは嬉しいこと。

今年どこまで繁殖できるのか? 気になるところではありますので

夏の間にもう一度くらい足を運ぼうかなと検討中です。