社会人で、「看護師を目指したいけど、学費や生活費が…」とためらっている方も少なくないことでしょう。このような方が教育を受けられず、自己実現の機会を失うことがないよう、現在、「専門実践教育訓練給付金」という制度が実施されています。
「専門実践教育訓練給付金」制度は、ひとことで言えば、(1)最大で看護専門学校の学費の70%を貰えて、さらに、(2)失業保険(雇用保険)に準ずる支給を、入学した学校を卒業するまで受けられる、というしくみです。
(1)と(2)は、それぞれ、
(1)専門実践教育訓練給付金
(2)教育訓練支援給付金
という名称です。とてもよく似ているのですが、別物ですから、注意してください。
さて、この教育訓練給付金は、「給付金」です。「給付金」というのは借りるお金ではなくて、もらうお金、つまり返済しなくてよいお金のことです。(返済免除のしくみがあろうとも建前上は)返さなければならない「奨学金」ではありません。ですから、返済義務のある奨学金と併用することができます。すると公立校のような学費の低い学校だと、結果的に「学費がほぼ無料で学校に通うことができた! いや、むしろ貯金できた!!」となることすらあります。働いていて、雇用保険を払っていた社会人であれば、「使わなければ損」という制度です。
なお、よくある勘違いなのですが、学費は一旦自分で学校に払います。その払った金額に応じて、ハローワークで手続きをすると、後から戻ってくることになります。(失業保険の確認でハローワークに行くような感じです。)ですから、いわゆる「初年度納入金」の金額は、入学までに貯金をしておいてくださいね。
専門実践教育訓練給付金制度については、厚生労働省のホームページに詳しく書かれていますから、ぜひ読んでおいてください。その上で、実際にハローワークに行って、自分が給付金の対象になるか、なる場合の手続きの進め方について、相談してくるとよいですね。夏くらいまでに、ハローワークに一度相談に行くことをおすすめします。
基本的な情報を得ることのできる公的機関のホームページを掲載しておきます。
(厚生労働省)教育訓練給付制度
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html
(厚生労働省)専門実践教育訓練給付金、教育訓練支援給付金についてのリーフレット[PDF形式:3629KB]
https://www.hellowork.go.jp/dbps_data/_material_/localhost/doc/senmonkyouiku_kyufu.pdf
(厚生労働省)専門実践教育訓練給付金に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000197058.html
(ハローワークのホームページ)教育訓練給付制度
https://www.hellowork.go.jp/insurance/insurance_education.html#kyouiku
以上の説明を読んでもらえればよいのですが、ハローワークのホームページの説明が、比較的簡潔にまとまっていますので、そちらを引用しつつ、解説していきます。
(1)専門実践教育訓練給付金について
(支給対象者)
受講開始日現在で雇用保険の支給要件期間が3年以上(初めて支給を受けようとする方については、当分の間、2年以上(※1))あること、受講開始日時点で被保険者(※2)でない方は、被保険者資格を喪失した日(離職日の翌日)以降、受講開始日までが1年以内(適用対象期間の延長が行われた場合は最大20年以内)であること、前回の教育訓練給付金受給から今回の受講開始日前までに3年以上(※3)経過していることなど一定の要件を満たす雇用保険の被保険者(在職者)又は被保険者であった方(離職者)が厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了した場合に支給。
→簡単に言うと、働いていて、雇用保険を払っていた期間が原則3年以上が給付金の対象になるということです。ただし、今は、特別な措置で、2年働いて雇用保険を収めていれば、対象になります。
たとえば、大卒で2年会社で働いて今度25歳になるという人は、対象になります。
(支給要件期間)
支給要件期間とは、受講開始日までの間に同一の事業主の適用事業に引き続いて被保険者等(一般被保険者、高年齢被保険者又は短期雇用特例被保険者)として雇用された期間をいいます。
その被保険者資格を取得する前に、他の事業所等に雇用されるなどで被保険者等であった期間も通算しますが、被保険者資格の空白期間が1年を超える場合は、その前の期間は通算されません。
また、過去に教育訓練給付金を受給したことがある場合、その時の受講開始日より前の被保険者等であった期間は通算しません。
※ 1 平成26年10月1日前に旧制度の教育訓練給付金を受給した場合であって、初めて専門実践教育訓練を受給しようとする場合は2年、同年10月1日以降に旧制度の教育訓練給付金又は一般教育訓練給付金の支給を受けた場合は3年以上。
※ 2 被保険者とは、一般被保険者及び高年齢被保険者をいいます。以下、この項目において同じです。
※ 3 平成26年10月1日前に教育訓練給付金を受給した場合はこの取扱は適用されません。
→簡単に言えば、原則3年(とりあえず今は2年)働いていれば問題ないということです。
ただし、職を転々としている人の場合、会社に勤めた期間と、その次に勤めた期間の間、つまり無職期間が1年を超えると対象からはずれることになります。あるいは、現在の無職期間が1年を超えている場合は、その前に3年以上働いていても無効となります。
(支給額)
教育訓練施設に支払った教育訓練経費の50%に相当する額となります。ただし、その額が1年間で40万円を超える場合の支給額は40万円(訓練期間は最大で3年間となるため、最大で120万円が上限)とし、4千円を超えない場合は支給されません。
専門実践教育訓練の受講を修了した後、あらかじめ定められた資格等を取得し、受講修了日の翌日から1年以内に被保険者として雇用された方又はすでに雇用されている方に対しては、教育訓練経費の20%に相当する額を追加して支給します。
この場合、すでに給付された(1)の訓練経費の50%と追加給付20%を合わせた70%に相当する額が支給されることとなりますが、その額が168万円を超える場合の支給額は168万円(訓練期間が3年の場合、2年の場合は112万円、1年の場合は56万円が上限)とし、4千円を超えない場合は支給されません。
なお、10年の間に複数回専門実践教育訓練を受講する場合は、最初に専門実践教育訓練を受講開始した日を起点として、10年を経過するまでの間に受講開始した専門実践教育訓練の教育訓練給付金の合計額は、168万円が限度となります。
※ 平成29年12月31日以前に受講開始した専門実践教育訓練の支給額は、教育訓練経費の40%(追加給付20%を合わせた場合、60%)となります。また、支給の上限額は、年間32万円(追加給付を合わせた場合、年間48万円)となります。
→簡単に言えば、トータルで、最大で学費の70%が支給されるということです。まず、学校に払った学費の50%が支給され、卒業して看護師として働き出した後にハローワークに申請すると、払った学費の20%が追加で支給されます。
ただし、上限は40万円です。年間の学費が80万円を超える学校の場合は、全部合わせて168万円の支給となります。年間の学費が80万円以下の学校は、70%支給となります。
(2)教育訓練支援給付金について
※平成34年3月31日までの時限措置となります。
(支給対象者)
初めて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講する方で、受講開始時に45歳未満など一定の要件を満たす方が、訓練期間中、失業状態にある場合に支給。
→失業者が対象になります。働きながら学校に通うという人は対象にならない可能性があります。(短時間のアルバイト等は除く。)たとえば、実家が会社を経営していて、その役員になっているといった方は、対象になりません。(ほぼいないでしょうが。)
また、45歳未満という年齢制限もあります。(この年齢制限は、(1)専門実践教育訓練給付金にはありません。(2)教育訓練支援給付金にだけあります。)
(支給額)
当該訓練受講中の基本手当の支給が受けられない期間について、基本手当の日額と同様に計算して得た額に80%の割合を乗じて得た額に、2か月ごとに失業の認定を受けた日数を乗じて得た額を支給します。
※ 平成29年12月31日以前に受講開始した専門実践教育訓練の教育訓練支援給付金の日額は、基本手当の日額と同様に計算して得た額に50%の割合を乗じて得た額になります。
→失業中にハローワークに2か月おきに失業保険の確認に行くように、2か月に一度、ハローワークに確認に行きます。確認が済むと、雇用保険の8割の金額が支給されます。思ったより低い金額になりますよ。
また、学校の授業を休んで行くことになるので、時間調整はきっちりと行ってください。免除科目のある人は、その時間に行ったりしているようですね。
社会人から看護学生を目指す方の場合、学校が専門実践教育訓練給付の対象となっている場合は、(1)(2)を両方とも申請するのが基本です。うまく制度を活用していきましょう。
(1)専門実践教育訓練給付金・(2)教育訓練支援給付金の手続きについてよくある失敗
(失敗)会社が離職票をなかなか発行してくれない
(2)教育訓練支援給付金を受給するためにはハローワークで手続きを進めることが必要ですが、その手続きに必要な離職票を、会社がなかなか発行してくれないことがあります。普通は退職してから2週間から1か月くらいで届くのですが、年度末で総務が忙しいとき(やいわゆるブラック企業の場合)などは、遅れる場合があります。
(2)教育訓練支援給付金の申請手続きに必要な書類
1.教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格確認票
2.離職票(基本手当の受給資格決定を受けている場合は、雇用保険受給資格者証)
3.基本手当の受給期間延長手続を取っている場合は、受給期間延長通知書
4.本人・住居所確認書類及び個人番号(マイナンバー)確認書類(詳しくはこちら)
5.専門実践教育訓練の教育訓練給付金の手続を先に行ってある場合、教育訓練給付金の受給資格者証(「教育訓練給付金及び教育訓練支援給付金受給資格者証」)
(対策)
・会社に離職票を発行の請求を行う
・それでも発行されない場合は、ハローワークに相談し、ハローワークから、離職票の発行手続きを行うよう依頼してもらう
(失敗)有給消化のタイミングを間違える
3月末まで働いていた方で、残っていた有給を消化し、書類上の退職日が4月に入ってしまうと、(2)教育訓練支援給付金を受けられなくなります。通学しているときには失業していなければならないという条件にひっかかってしまうからです。
(対策)
・有給消化を含めて、年度内に退職できるようにする
・3月末まで働くなら、有給はあきらめる
(失敗)4月から給付開始までがつらい
3月末まで働いて、それから生活費分を雇用保険の失業給付でまかない、その後に(2)教育訓練支援給付金を受けるという流れにする人の場合、雇用保険の失業給付が始まるまでの待機期間が、経済的にけっこうきつい。
(対策)
・社会人入試で受かった人などは、12月いっぱいで退職し、4月から雇用保険の失業給付を受けられるようにする
・給付開始までは、週20時間以内のアルバイトをしてがんばる(ただし、学校が始まってからの生活費目当てのアルバイトはけっこう大変ですよ。)
(失敗)(2)教育訓練支援給付金だけだと生活費が足りない
実際に手続きをしてみると、(2)教育訓練支援給付金の給付額が想像以上にすくなく、生活が厳しいと感じられることは、非常によくあります。
(対策)
・専門実践教育訓練給付金と重複で利用できる「奨学金」を受ける。(奨学金によっては、重複利用できるもの、できないものがあるので、確認が必要です。)
・教育ローンなどを利用する
◎教育訓練受講者支援資金融資
https://all.rokin.or.jp/service/loan/life.html#03
労働金庫(ろうきん)の融資制度。貸付の上限額は月7万円、貸付利率は年3.0%。
◎教育一般貸付(国の教育ローン)
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/ippan.html
日本政策金融公庫の融資制度。最高350万円まで貸付、貸付利率は年1.78%。
他にも、民間の金融機関の教育ローンを利用する方法もあります。アルバイトなどで安易に稼ごうとすることは、できるだけ避けてください。学校生活とアルバイトの両立が難しいため、どこかで破綻するリスクが出て来ます。
次回は、専門実践教育訓練給付金制度の対象校のリストを掲載します。