【高橋事件弁護団広報】2014年11月21日―死刑囚と傍聴人との間の遮へいについて(続) | 空気を読まずに生きる

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弁護士 趙 誠峰(第二東京弁護士会・Kollectアーツ法律事務所)の情報発信。

裁判員、刑事司法、ロースクールなどを事務所の意向に関係なく語る。https://kollect-arts.jp/

高橋事件弁護団からの広報です。
前回と同じテーマについての続報です。
(なお、私自身は別件でこの公判前整理手続期日には出頭できませんでしたが、弁護団からの広報ということで掲載します)

本日(11月21日)午前11時から行なわれた第10回公判前整理手続において、東京地方裁判所刑事第6部(中里智美裁判長)は、死刑囚5名を含む検察側証人6名について、検察官の請求通り傍聴人と証人との間の遮へい措置をとるとの決定をしました。この決定に対してわれわれは「公開裁判を受ける被告人の権利を侵害する」「刑事訴訟法が要求する必要性は立証されていない」と異議申立てを行いましたが、裁判所はわれわれの異議を棄却しました。その際に行なわれた主なやりとりは以下のとおりです。


裁判長:検察官から申出のあった遮へい措置について、次のとおり決定します。6名の証人の尋問に際しては、傍聴人と証人との間で相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることにします。

高野弁護人:裁判長、なぜ遮へい措置が必要なんでしょうか。

裁判長:異議ですか。

高野弁護人:異議をこれから述べますが、異議の理由をきちんと述べるためには、決定の理由を知る必要があります。遮へい措置の決定の理由を教えて下さい。検察官の主張を全部認めるということですか。

裁判長:刑訴法がいう「相当と認めるとき」に当たるということです。

高野弁護人:それは法律に書いてあるので分かります。なぜ「相当」なのかご説明いただけないですか。

裁判長:法律の要件に当たるということです。

高野弁護人:……それでは、裁判所の決定に対して異議を申し立てます。遮へい措置は被告人の公開裁判を受ける憲法上の権利に対する重大な制約です。したがって、その措置をとる場合には、それが必要であることが説明される必要があります。法律の条文をオウム返しに言うだけでは理由を述べたことにはなりません。行政処分に関する最高裁判所の判例は、国民の権利を制約する処分を行うときは単に法律の条文に該当するというだけでは足りない;それを基礎づける事実の説明が必要だと言っています。憲法上の権利を制約するためには、その必要性を基礎づける事実が証明されなければなりません。裁判所の今回の決定をするにあたって、そのような事実は何一つ証明されませんでした。今回の遮へい措置の決定は、被告人の憲法上の権利を侵害するものであり、最高裁判所の判例の趣旨にも反します。

裁判長:弁護人の異議に対するご意見は。

神田検察官:異議には理由がないものと思料します。

裁判長:異議は棄却します。

坂根弁護人:ひとこと述べます。この間われわれ弁護人は裁判所からの様々な要請に対して誠実に対応してきました。釈明や書面の提出要求に対して迅速に応じてきました。法曹三者が協力してこの裁判員にとって分かりやすい裁判を実現するために最大の努力をしてきました。ところが裁判所は遮へい措置という重大な決定をするに当って理由をなにも説明しないという態度をとるというのは三者の信頼関係を損なうものと言わざるを得ません。

裁判所は本日の手続について報道機関に配布する広報用メモの案を配布しました。そこには「本日、第10回公判前整理手続期日を、被告人出席の上で開いた」とあるだけで、あとは次回期日の日程しか書かれていませんでした。そこで、次のやりとりがありました。

高野弁護人:この広報メモには遮へい措置を採る決定をしたことが書かれていません。これは裁判の公開に関する重要な決定ですから、広報する必要があると思います。

裁判長:遮へい措置を採ることについて裁判所から広報することはしません。

結局、なぜ遮へい措置をとるのかについて、裁判所は一切明らかにしませんでした。われわれはこの事件において証人と傍聴人との間の遮へい措置を採ることは刑事被告人の公開裁判を受ける権利を侵害すると同時に、公開裁判への公衆の権利=裁判を傍聴する公衆の権利を侵害すると考えます。なぜそのような重大な決定をしたのかわれわれには知る権利があります。この問題を訴訟当事者限りで議論すべきだとは思いません。そこで、遮へい措置を要求した検察官の申出書とわれわれの反対意見書の全文を公開することにします。

検察官の10月27日付証人尋問に関する申出書
弁護人の10月30日付遮へい措置申出に対する意見書
弁護人の11月5日付遮へい措置申し出に対する補充意見書

高橋克也氏の弁護人を代表して
弁護士 高野隆

追伸:われわれ弁護団はこれまでマスコミ関係者の個別取材には一切応じてきませんでした。その姿勢は今後も維持します。ただ、東京地裁によるメディア向けの広報では不十分な点があり、一部で誤った報道がなされるという事態が生じました。そこで、必要に応じて手続の重要な出来事について広報をすることにしました。

私たちがなぜこの問題を重要視しているのかは前回のブログに書いたとおりです。
この問題は、われわれの依頼人である高橋克也氏にとってだけではなく、傍聴人、さらには国民にとっての問題なのです。
裁判官にしてみれば、証人と傍聴人との間の遮へいの問題なんてどうでもいいことなのでしょう。証人と傍聴人との間に衝立があろうとなかろうと裁判官にとっては何の影響もありません。むしろ、裁判の公開というものが、国民による裁判官の監視だと見るならば、裁判官にとっては裁判はできるだけ秘密にしたい(=監視の目から逃れたい)と思うのでしょう。
そのように考えれば、このような裁判の公開に関わる問題は、裁判官の判断を放置しておけばどんどん裁判を秘密にする方向になってしまいます。
そのときに声をあげなければならないのは、このような秘密裁判によって権利を侵害される国民であり、傍聴人であり、そのような国民の知る権利に奉仕するマスコミ以外にありえません。

今でこそ当たり前になった法廷の傍聴席でメモを取るということについても、平成の世の中になるまでは認められていませんでした。
このことはおかしいと異を唱え、国家賠償訴訟を提起したのは、傍聴席でメモを取ることを禁止されたローレンス・レペタというアメリカ人の弁護士でした。アメリカ人傍聴人が裁判を起こしてようやく傍聴席でメモを取ることが許されるようになったのがこの国なのです。

私は高橋氏の公判において、傍聴人から証人の姿が見えないのは公開裁判に反するという裁判をそのとき傍聴席にいる誰かが起こさなければならないと思います。
そうしないと、裁判の秘密化は止まりません。