もう1つの選挙権裁判 | 空気を読まずに生きる

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弁護士 趙 誠峰(第二東京弁護士会・Kollectアーツ法律事務所)の情報発信。

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帰化から3カ月投票不可「放置なら違憲も」 東京地裁判決
2012/1/20 21:52(日本経済新聞)


 公職選挙法の規定で帰化から3カ月以内の選挙で投票できないのは不当だとして、元韓国籍の弁護士の男性(31)が国に賠償を求めた訴訟の判決が20日、東京地裁であり、三角比呂裁判長は「現状が放置されれば違憲となる場合もある」と指摘した。規定は合憲として請求は棄却した。
 原告は2009年7月に帰化したが、住民基本台帳に3カ月以上登録されていないと投票できないとする公選法の規定で同年8月の衆院選で投票できなかった。三角裁判長は「不正を防ぐため居住実態の調査に一定期間が必要」として、公選法の規定自体は合憲と結論付けた。

 一方で「今回の選挙で投票できなかった帰化者は3449人と決して看過してよい数ではなく、制限は軽くない。実現可能な他の措置を不断に検討する必要があり、現状を放置すれば違憲と判断される場合もある」と指摘した。

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記者会見で私が話した内容の要旨。(だいたいこんな感じ)

まず、なぜ私がこの訴訟を提起しようと思ったかについてですが、私たち在日コリアンにとってこの国の選挙に参加することは積年の願いでした。地方参政権については、最高裁判所は永住外国人に選挙権を認めることは憲法に反しないと述べました。しかし国政選挙についてはここまでの言及はなされていません。この国の政府は「選挙に参加したいなら帰化をしろ」と、帰化を盾に選挙権を認めることをしませんでした。

このたび私は、別に選挙に行くために帰化をしたわけではありませんが、帰化をして、ちょうどそのタイミングで大きな選挙があり、ようやくこの国の選挙に行くことができるのかと思いました。しかし、投票することができませんでした。
これまで散々「選挙に行きたいなら帰化をしろ」と言ってきたのに、帰化をしても投票させないのかという純粋な怒りのような感情があり、この訴訟を提起することにしました。3ヶ月という期間が長すぎるとかそういうことよりも、なぜ選挙権があるのに投票できないのかという感情的なところが大きかったです。

この判決に対する感想ですが、憲法でも法律でも、国政選挙の選挙権の要件はただ2つです。「20歳以上」であること、「日本国民」であることだけです。3ヶ月以上継続して住むことは、選挙権の要件ではありません。つまり、新しく選挙権を取得する人は細かな例外を除けば2種類しかなく、それは新しく20歳以上になる人=新成人と、新しく日本国民になる人=帰化した人だけです。そして、新成人については、投票日に20歳になる人については、投票が制限されないように、19歳の時点から手当てがなされています。しかし、もう一方の「帰化した人」については何らの手当てがなされずに、選挙権を取得してから3ヶ月間その行使が制限される、これはおかしいだろうと思っています。

いま、選挙権の裁判と言えば、「一票の格差」訴訟が全国的に提起され、非常に盛り上がっているところです。一票の格差訴訟では、1票vs0.2票ということが問題にされています。しかし、今回の裁判の問題は1:0.2どころではありません。投票する機会が与えられなかったのですから、0票の価値しかなかったのです。一票の格差よりもより深刻な問題がここにはあります。

しかし、今回の判決文はこのような問題に対する配慮がなかったのではないかと思います。

とはいえ、「放置なら違憲も」という判断がでたわけですが、このような判断を引き出した要因としては、今回の選挙だけでも3449人もの人の選挙権が制限されているということで、この3449という数字のインパクトが大きかったのだろうと思います。選挙のたびに3000人、4000人もの選挙権が制限されるということはさすがに見て見ぬふりはできないということだと思います。