小さな努力 | 空気を読まずに生きる

空気を読まずに生きる

弁護士 趙 誠峰(第二東京弁護士会・Kollectアーツ法律事務所)の情報発信。

裁判員、刑事司法、ロースクールなどを事務所の意向に関係なく語る。https://kollect-arts.jp/

今日依頼者と面会をしに立川拘置所に行ったが、その際のひとこま。

(面会の受付をする)
職員「携帯電話は待合室のロッカーに入れておいてくださいね」
(待合室で待つ)
(呼ばれる)
(接見室に入ろうとすると入口で質問される)
職員「携帯電話はお持ちですか?お持ちならロッカーに入れて下さい」
自分「形骸電話を持っているかどうかについてあなたに言う必要はないでしょ」
職員「そういうことでしたら、接見室に入れることはできません。上司に相談するのでお待ち下さい。」
(待合室で待つ)
(20分くらい経過)
(上司らしき人がくる)
上司「携帯電話を持っているか答えられないということですがどういうことでしょうか?」
自分「なぜ、弁護人が被告人と面会するときに、いちいち持ち物を拘置所職員に言わなければならないのか?そんな必要はないでしょ」
上司「そうは言われましても、うちの施設では面会室内で携帯電話を使用したり、カメラを使ったり、レコーダーで会話を録音することを禁止しています」
自分「だから、おたくがそういう運用をしていることは十分に理解しているけれど、弁護人が被告人に面会するときに、なぜ持ち物を教えなければならないのか?そんな必要はないでしょ」
上司「先生は、携帯電話をお持ちなんですか?」
自分「だから、そんなこと教える必要ないでしょ」
上司「じゃあ、携帯電話をロッカーに入れたんですか?」
自分「だから、なんでそんなこと教えないとダメなんですか」
自分「ということは、携帯電話を持っているか教えないと面会させないということですね?」
上司「面会させないというわけではありません。ただ、なぜ教えてくれないのかを聞いているだけです」
自分「だから・・・」
上司「ということは、先生は弁護士ならば面会室にたばこを持ち込んだり、食料を持ち込んだりすることについても職員に言う必要はないとおっしゃるのですか?」
自分「そんなこといちいち教える必要はないのではないですか。」
自分「施設として、例えば収容者が弁護人の携帯電話で外部と連絡を取られるのを防止しようとしていることはわかっていますよ。ただ、そんなことは弁護士に任せればいいんですよ。仮にそういうことで罪証隠滅行為が明らかになれば、弁護士が懲戒処分を受けるだけですよ。」
上司「わかりました。今回は面会していただきます。ただ・・・」
自分「ただ??」
上司「誓約書を書いてもらえますか?」
自分「何の誓約書ですか?」
上司「面会室内で携帯電話を使用しないという誓約書です」
自分「だから、そんなもの書く必要はないでしょ。私は書きません。」
上司「わかりました。」

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かなり省略したが、待ち時間含めて1時間くらいこんなやりとりをさせられた。
自分も暇ではないので、こんなことに1時間も時間を費やしたくない。
さらに言えば、接見室に携帯電話を持ち込むとかいう話しもはっきりいってどうでもいい。
別に接見室で携帯電話を使いたいわけでもないし。

ただ、この問題は、単に接見室に入る弁護人の持ち物チェックという話に留まらない。
この問題は、「弁護士の信頼を維持する」という大きな問題だと思う。

最近多くの場面で、弁護士の信頼が維持されていないような扱いを受けることが多いと思う。
やや専門的な話ではあるが、
・弁護人と身体拘束を受けている人の手紙のやりとりの話
・開示証拠の目的外利用の話
・取り調べDVDの開示の際の4条件の話
などなど。

そして、その最たるものが、接見の際の持ち物チェックなのだと思う。

刑事手続は弁護士に対する信頼のもとで成り立っているものが多いと思う。
逆に言えば、弁護士はその信頼を守る義務があるし、責任もある。
しかし、そのような責任のもとで、弁護士には自由が保障されなければならないと思う。
被疑者・被告人を守るためにはこの自由がなければならないし、法律はこれを予定している。
そして、弁護士がこの責任を果たせなかったときには、懲戒などの制裁を受けることになる。
これでバランスが取れている。

ところが、いま、多くの場面で、このようなバランスが崩れている。
弁護士の自由に対して、事前規制、後見的な規制が横行していて、しかもそれが正しいと思っている人があまりにも多い。

正直なところ、今日立川拘置所に行く時点で、立川拘置所の運用は知っていたし、今日は多少時間があったから、展開を全て予想していた。
そして、一つ一つの努力が弁護士の自由を守るために必要なことだと思って、あまりにも面倒くさいやりとりをした。

ところが、せっかく「上司」と話して、弁護人がいちいち持ち物を拘置所職員に教える必要がないことを教え、持ち物チェックなしの面会にこぎつけたにも関わらず、私が面会を終えて拘置所を後にする際、悲しくなるようなアナウンスが流れていた。


「弁護人のみなさま。立川拘置所では、接見室内に携帯電話を持ち込むことを禁止しています。ロッカーにお入れ下さい。」


めげることなく一つ一つ努力しなければ。