【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】おもちゃのチャチャチャ | シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you 島ちゑ

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シナリオ・センター大阪校代表取締役 小島与志絵 ペンネーム 島ちゑのブログです。

 カランコロンと音がして、『火垂るの墓』の節子の声が聴こえます。サクマ式ドロップスが廃業へ。

 野坂昭如氏が病に倒れられたのち十三年ものあいだ書き綴られた戦争童話、時事エッセイ、文明論、回想記、往復書簡、日記を纏められた『絶筆』(新潮社)を拝読しました。鋭く深い世の中へのお考え。そしてご家族へのお気持ちが伝わってきました。

「さくらんぼが届く。ぼくのガールフレンドからだ。彼女のさくらんぼのような愛らしい口元を思い出しながら一粒口に含む。甘酸っぱい初夏の味が口いっぱい広がる。思わず噎せる。『あなたとさくらんぼって、ほんと似合わないわね』と妻が笑う。そう言えば、さくらんぼの似合う男など居たか?」
 奥さまへの愛が伝わるステキな文章。ユーモアと色気。心で会話するあたたかい思いやり。

 七つぐらいのときのわたしの思い出。劇団の仕事で遊園地の劇場でうさぎさんのぬいぐるみに扮して箱から飛びだし踊りました。ヒラパーへも。そのときのバックミュージックが野坂氏作詞の『おもちゃのチャチャチャ』でした。
 空にきらきらお星さま。みんなすやすや眠るころ、おもちゃは箱を飛びだして、なんとおもちゃはパーティをはじめるのです。子ども心に洒落た、そしてちょっぴり悪い子の歌なのが恰好いいなと思い、乗って踊ったのを憶えています。実はね、ぬいぐるみだって人間さまが眠ったあとでパーティをしてるんだよ。ぬいぐるみにだって、自由も権利も生命も、あるんだよ。常に弱きものの味方に立って書き抜かれた野坂氏。童謡にも精神が。

 同書末文に、
「さて、もう少し寝るか」と。
 ボルサリーノハットをかぶって、すぐそばにいらっしゃるような、やさしさが伝わります。