小説の本の挿絵が大好きです。挿絵画家ってステキな職業ですね。作者と読者をつなぐ、でしゃばらないパイプ役。
暗いできごとがつづく世の中。こんなときには喜劇をとバルザックの『従姉ベット』を。文学全集の挿絵のベットはちっちゃくてガリガリで皺くちゃの魔法使いのお婆ちゃんのようでした。そんなお婆ちゃんの複雑な心のゆくえを想像して、わくわくしながら読んだのを思いだします。映画では長身で美しくて聡明さを醸しだすジェシカ・ラングが主演しています。
ベットは未婚の醜老嬢。貧しいアパートで縫い子をしています。しかしお金はまあまあ持っていて、名もない彫刻家のパトロンになり恋をしています。しかし彫刻家はベットの親戚の男爵家令嬢をお嫁さんにしてしまいます。嫉妬に狂うベット。娼婦と組んで復讐劇へと。バルザックが度々登場させる〝老嬢〟。そのキーワードに自虐性を感じ惹かれちゃってるんですが…
面白いのはお金事情のアベコベです。ベットは貧しいもののパトロンになるくらいそこそこは優雅。見栄っぱりな男爵家は日々の食材をけちるほどの火の車。19世紀中ごろのパリ。人の世の滑稽さはどこか大阪と似た匂いがします。
ジェシカ・ラングは素晴らしい女優さんとあらためて思いました。キングコングの掌に乗っていたグラマラス美女。悩ましき映画『郵便配達は二度ベルを鳴らす』では夫殺しの女。一番好きなのは『ミュージックボックス』です。ショーン・コネリー演じる父を戦犯へ裁く女性弁護士の役。ショッキングなラストの小道具とともに彼女の聡明さが光っていました。
若いころ、パリでパントマイムを学ばれていたそうですが、シンボリック・キャラクターを演じられるステキな方です。寄り道? 回り道? 悩んでとどまっているだけなんて無駄。人生さまざまに学んで本当に損はありませんね。