【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you】リラの花を咲かせよう | シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you 島ちゑ

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シナリオ・センター大阪校代表取締役 小島与志絵 ペンネーム 島ちゑのブログです。

 指先に絡められる白いハンカチ。手品師のように舞う指でリラの花を象っては掌に収めて謳う『La bohème』。貧しくとも純粋な芸術家の卵たちを謳うシャンソンです。花言葉は「青春の思い出」「大切な友だち」。シャルル・アズナブール演じる『ゴリオ爺さん』を観ました。

 フランスの文豪バルザックの壮大な喜劇『人間喜劇』の『ゴリオ爺さん』。バルザックは小説にお年寄りを多く登場させています。お爺さんはゴリオ。お婆さんは『従姉ベット』。老齢ならではの心理がシニカルに表現されていて、高齢化社会ドラマの研究にお勧め。我が娘を溺愛するゴリオは二人の姉妹に尽くしぬく人生を送ってきました。多額の持参金をもたせ名だたる男性の元へ嫁がせ。それでも父親にせびりつづける姉妹。姉妹は贅沢な豪邸に棲み、爺さんは貧しい学生向けの下宿アパートに棲んでいます。

 アズナブールは幼児のころからコメディアンに一番なりたかったそうです。この映画は80歳のとき。今わの際に娘は妖しげな男と一緒にいることを望みます。それでもゴリオに後悔微塵もなく。しかし孤独にうちひしがれる演技からはコメディの神髄を感じました。94歳での来日ラストステージでお茶目にダンスして謳う姿。エンタティナーのオーラ。三つ子の魂を全うされた圧倒的な生き様が伝わりました。大戦をはさみ困難を経てなおエネルギッシュに全うされた人生。わたちたちは先人の厳しさゆえの力強い遺産から多くのことを学ぶべきですね。

 命も限られたゴリオ爺さん。性懲りなく娘たちに一財産作るためオデーサ港から小麦を輸入してスパゲティの商いをしたいのだろうとアパートの住民たちから、からかわれます。ウクライナのオデーサは今も昔も貿易海路を司る港です。『戦艦ポチョムキン』の〝階段落とし〟でモンタージュ論を描いた映像史に残る港。オデーサに空襲警報が鳴り響く。その報道に胸が痛みます。