次の朝…………。
「起きろおおおおおおーーーー!!朝だぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーー!!」
「………うううっ………」
「おはよう………ススム………」
ぼくたちは昨日と同じ時間にドゴームに爆音のような声で叩き起こされた。三匹とも目を回しながら挨拶を交わし、朝礼に間に合うように急いで準備を行った。
(もう4日目になるのか………ここに来て。いつまで過ごすことになるんだろうな)
探検隊“トゥモロー”としては少しずつエンジンがかかってきている感じはするけれど、自分が人間から“ヒトカゲ”になった原因は全くわからずじまいのまま。充実した表情のソラと違って、ぼくは冴えない気分のままがしばらく続くことになってしまう。
「みっつー!みんな笑顔で明るいギルド!」
「さあみんなっ♪仕事にかかるよ♪」
「おおーーーーーっ!」
いつものように朝礼で気分を高めるギルドメンバー。拳を突き上げて叫ぶと皆それぞれ自分の仕事へと散らばっていった。
「ススムさん、あたしたちも掲示板を見て依頼を探してみましょう」
「そうだね」
ぼくはココロのアドバイスに同意する。そのとき然り気無くだけど、彼女はそっと自分の左手を握る。それを目にしたソラが躍起になって彼女に不満を口にした。
「あ、ずるいよココロちゃん!私もススムと手を繋ぐんだから!」
「心配しないで大丈夫だよ。ソラともちゃんと手を繋いであげるから」
朝から変に争いになるのは面倒だ。そのように感じたぼくは自分の右手をソラへと差し出す。まだブスッと膨れっ面な彼女だったが、若干うつむき加減ながらもしっかりとその手を繋ぐのであった。
…………と、そのときだ。キョトンとした表情でペラップが話しかけてきたのは。
「朝から随分盛り上がってるな?」
『///////!!!』
三匹とも急に恥ずかしくなって赤くなってしまう。そんなことを気にする様子など無く、ペラップは話を始めた。
「オマエたちっ♪きょうの仕事だが…………きょうは掲示板や”おたずねものポスター”を見て………その依頼をこなしてくれ♪」
「は、はい!」
何だかんだ言いつつも、ギルドメンバーの指示役の言葉には緊張気味で返事をするソラ。だけどイマイチ自分とココロは不信感が拭えない。まあ、あんな報酬制度が原因なんだが。
「いいか。絶対サボるんじゃないぞ!」
(サボる訳ないだろうが………)
そんなぼくとココロの態度が気に入らなかったのか、途端にペラップの表情が険しいものに変わった。それでも自分はめんどくさそうな態度をするだけだったが。するととうとう枯れ葉羽をバタバタさせ、軽くジャンプしながら命令形で指示をしてきたのである。
「わかったら行けい!」
つくづくコイツは一言多いな。ぼくはそう思いながらソラとココロに声をかける。二匹は多少テンションが下がったような様子で頷いていた。まあ一応は新米チームだから、しばらくは鬱陶しい指示にもちゃんと従わないといけないのか。何だか憂鬱だな。
そんな感じでスタートした“トゥモロー”の一日。さっそく上の階に昇る梯子に手をかけようとしたのだが、何だかフロアの先から威勢の良い声が耳に飛び込んできた。
「よし!ディグダ!きょうも気合い入れていこうな!」
「頑張りましょう!ドゴームさん!」
気合いを見せていたのはドゴームとディグダだ。あんな姿を見たら自分も気持ちが燃えてくる。頑張らなくちゃ。そんな風に考えていたら、背後から声をかけられた。
「やあやあオマエさんたち、おたずねものを捕まえたんだって?少しはやるじゃねぇか、グヘヘ。まあ探検隊なら当たり前のことがな、グヘヘ」
声の主はグレッグルだ。声のトーンと言い雰囲気と言い、少し近寄りがたい彼だが、ひっそりと自分たち探検隊の活躍を応援してくれることが嬉しかった。だけど手放しで称賛しなかったところを見る限り、まだまだ油断禁物ってことだろう。気持ちを引き締めるきっかけになった。
活躍を見てくれていたのは他にもいる。ペラップと話していた場所の奥の部屋の扉が開いたのが、何よりの証拠だ。このギルドの中心人物、プクリン親方が姿を現したのだから。
「やあ!キミたち!おたずねものを捕まえたんだって?凄いじゃない!これからも頑張ってね♪ともだち!ともだち~~~~っ!」
親方に労いの言葉を貰うと不思議と活気が出てきた。改めてぼくたち三匹は梯子を使って上の階へと上っていく。まずは梯子から見て右側にある掲示板、“おたずねものポスター”を観て新しい依頼が無いか確認する為である。
「キミたちは誰だ?新入りか?オレたちはポチエナ3兄弟!“ポチエナズ”だ!オレたちはおたずねものしか狙わない!相手をしつこく追い回し………ヘトヘトになったところを捕まえるんだ!」
その掲示板の前に一列に並んでいたのは三匹のポチエナだった。ぼくたちにかなり驚いていることから推測するに、よほど彼らも集中していたのだろう。それはさておき自慢げに自己紹介してきたのは一番左側のポチエナ。恐らくリーダーなのだろう。何とも勇ましい雰囲気を感じる。
「おたずねものにもランクがあるんだ。Eが一番弱くて………D、Cと行くに従って手強くなっていくんだ」
次に中央にいるポチエナが丁寧に説明をしてくれた。先ほどのリーダーに比べるとかなり穏やかな雰囲気に感じる。それにしてもおたずねものがランクで分かれてるなんて、まだまだ自分の知らないことばかりだ。
「ボクたちが狙うはCランクのおたずねものだ。EやDより報酬が良いからな。ただし………Cランクのおたずねものはかなり手強い!注意して戦わないとこっちがやられてしまう!」
最後に一番右側、つまり窓側にいたポチエナが熱く語る。恐らく勇敢なところがあるのだろう。なるほど、多少のリスクがあったとしても挑戦したくなる理由がひしひしと伝わってきた。
自分たちも時間が経っていけば、どんどんより厳しい依頼をこなすことになるのだろう。今のうちにイメージトレーニングするつもりで仕事をこなしていこう…………ぼくはそんな風に思った。
残念ながら………と言ってしまったら少々不謹慎かもしれないが、きょうは新たな依頼は掲載されていなかった。しょうがないのでこんどは梯子から左手にある”いらいけいじばん”に目を通すことにした。と、そのときまた背後から声をかけられた。昨日ぼくたちに案内をしてくれたビッパだった。
「“トゥモロー”の三匹が急に慌ててたのは、ルリリちゃんを助けるためだったんでゲスね~。いや、しかしおたずねものをいきなり捕まえるなんてスゴイでゲス!あっしも先輩として負けられないでゲス!」
「うん、一緒に頑張っていこうね!」
改めて称賛の言葉を受け取ると何だか恥ずかしく感じる。だけど新入りでも手柄があると、こんなにも急に周りの目線が変化するものだろうか。妙にプレッシャーが増したのは、きっと気のせいではない。
「“トゥモロー”の皆さんですわ!昨日はお見事でしたわ!!せっかくですから、ワタシからもアドバイス!ここの左の方に板が立て掛けてありますよね?あそこは“ポケモン探検隊連盟Q&A”と言って………役に立つ情報が色々載っているんですわ。わからないことや困ったことがあったら見てみると良いですわ」
「ありがとう、キマワリさん!」
ビッパとの会話を耳にしていたのか、急にキマワリがぼくたちに乱入してきた。だけどアドバイスはありがたい。早速紹介された板の方へと向かう。ちょうど“いらいけいじばん”の手前に置いてあった。
「アハハ!何これ!凄く面白く解説されているね!?」
「そうですね!あたしも読んでいて気分が上がって来ますよ!不思議ですね」
「そうなの?どれどれ?」
先に質疑応答の文章を読み始めたソラとココロのテンションの上がりっぷりが、ぼくに不思議な印象をもたらした。気になって自分も読み始める。そこにはこう記されていた。
Q1:ポケモン探検隊連盟って?
A1:ポケモン探検隊連盟とは…………一流の探検家が所属する謎の団体だ。全国のギルドから集めたお金で探検に必要な道具やバッジを作ったり………その他諸々の運営をしている………ハッキリ言って凄い組織なのだ!ハッキリ言って物凄い組織なのだぁ!…………終わり。
(うげぇ。何だぁ、このナルシスト的な文章は。なんかヤバい雰囲気がするぞ。大丈夫かなぁ)
「ねぇ、ススム!凄く楽しいでしょ!?」
「え、ああ………うん。そうだね………ハハ」
まず率直な感想として、正義のヒーロー感覚のその文章に、このあとの続きが不安に感じた。ところがソラが可愛く目を輝かせて共感を求めてくるものだから、変に否定的な反応が出来なかったのである。
「ねぇねぇ、早く続きを読もうよ!」
「さんせ~い!」
「そう………だね」
二匹に押される形で、ぼくは次の質疑応答を読んだ。
Q2:ここには何が書いてあるの?
A2:ここにはとても役に立つことが書いてあるのだ。………終わり。
(はぁ!?なんじゃそりゃ!!)
思わずぼくは心の中で盛大に突っ込みを入れてしまった。二匹はというと、ますますキャッキャとはしゃいでは盛り上がっている。まだこの後も設問と回答が続いている。覚悟を決めてぼくは更に読み進めた。
Q3:困ったときは?
A3:困ったときはズバリ!“ヒント”を見るのだ!“ヒント”はみんなが持っている道具箱に入っている。“ヒント”にはとても役に立つ情報が書いてある。困ったときは“ヒント”を見よう!…………終わり。
「あれ?そんなもの道具箱の中に入っていたかな?」
「あるよ!」
「え?」
ぼくは思わず「あるのかよ!」なんて心の中で突っ込んでしまった。証拠と言わんばかりに、ソラは笑顔で道具箱の中から取り扱い説明書のような、小冊子を取り出して見せた。さらに話は続く。
「だけど私やココロちゃんにはわかっていることばかりだから、対した気にして無いんだけどね」
「そうですね。チームを結成したばかりだけど、予備知識はちゃんとありますからね」
ソラの言葉に同調するココロ。いつもはぼくのことを巡って言い合いになるが、探検活動の話になると不思議なことにパートナーとして二匹協力しあっている。もちろんその方が良いに決まっているのだが、ぼくだけ一人浮いている感覚になっているのが何だか嫌だった。
「まだ続きがあるんだね。読んでみようよ♪」
「そうですね!」
「ハハハ」
二匹が相変わらず目を輝かせてぼくの方を見つめてくる。もはや苦笑いして返事するくらいしか出来ないが、とりあえず掲示板の続きを読んでみる。
Q4:依頼がこなせません!
A4:それは………もしかして“じっこう”を忘れてないかな?掲示板やおたずねものポスターの依頼をこなすときは………”うける“をした後、“じっこう”をしないと、ちゃんと引き受けたことにはならないから注意が必要なのだ!受けた依頼は迅速にこなすのも探検隊の務めだ!ゆけ!今これを読んでるそこの探検隊!………終わり。
うーん。なんだか頭が痛くなってきた。確か探検活動に行くには掲示板からの手紙をペラップ、お尋ねもの関係ならジバコイルに提出して承認してもらうって手続きが必要だって言ったな。忘れずに覚えておかないとな。二匹は相変わらずハイテンションだ。更に続きを読み進める。果たして無事に生きて帰って来られるのだろうか。
Q5:“たんけんたいランク”ってなぁに?
A5:“たんけんたいランク”とは………探検隊連盟が認めている栄光ある称号のことだ。依頼をこなすとポイントがたまっていき、“たんけんたいランク”が上がるのだ!ランクが上がると“たんけんたいバッジ”が変わるだけでなく………他にも色々良いことがあるぞ!………そうそう。“たんけんたいバッジ”のウラには足型が刻まれているだろう?あれは実は………ギルドにいつでも自由に出入りできる通行証代わりになってるんだ。知ってた?とにかく………まずは目指せブロンズランク!………終わり。
ここでぼく…………というよりは、作者さんの中に衝撃と言う名の稲光が駆け抜けた。ゲームをプレイしているとありがちだが、いくら初心者向けのシステム説明があっても、なかなかそこまで目を通すことは無かろう。そればかりか普段のキャラのやり取りだって、もしかしたらテキストを早送りするのが大抵だろう。それだけに多少鼻高々になったのは事実らしい。
誰だ!?そんなネタをいつ使うんだと突っ込んだのは!そんなことぼくが知るわけ無いだろう!!
Q6:グミを食べると良いことあるの?
A6:グミを食べるとなんと!“かしこさ”が上がるんだ!“かしこさ”が上がると探検に有利なスキルが色々身についていく!だからグミはいっぱい食べた方が良いぞ!またポケモンによって好きなグミはまちまちで………好きなグミを食べた方が“かしこさ”はより上がりやすくなるから………好きなグミをいっぱい食べる方が良いぞ!………終わり。
これはソラやココロから教わったことだから大丈夫。未だにこの世界にグミが存在するのかわからないし、ましてやダンジョンに転がっているかわからないけれど。
Q7:“パートナーと”話が出来ません!
A7:何?“パートナー”がすぐ隣にいるのに話が出来ないって?勇気を出して話してみろ。友達だ。きっとわかってくれる。そしてキミが困ってるときに質問しても、“パートナー”は快く返事してくれるはずだ!特にキミがどこに行こうか迷ってるときは………”パートナー”に相談してみてくれ!きっと良いアドバイスをしてくれると思うぞ!………終わり。
いや、そこまでコミュ障じゃないし。むしろその“パートナー”から積極的に話しかけてくるから大変なんだよなぁ。でも協力的なのは助かるけどね。
Q8:タイプってなあに?
A8:ポケモンには、ほのおとみずと言うように色んなタイプがあるんだ!そしてそれは技のタイプとの相性によってダメージも変わる!例えば、ほのおタイプのポケモンはみずタイプの技に弱く………みずタイプのポケモンはでんきタイプの技に弱い………といった具合だ!色んな相性を覚えて………うまく戦え!今これを読んでいる探検隊!………終わり。
これなぁ。自分が決定的に足りない部分だから、しっかり覚えないとな。勉強かぁ、人間だったときは得意だったのかな。
………いや、終わり。じゃないよ!わざわざ書かなくたって読んでいればわかるから!
「色々書いていて勉強になるね、ススム!」
「でも、パートナーの話は心配無いでしょうね。だって経験豊かなあたしがいるし」
「ココロちゃん、それってどういう意味?私だって勉強しているよ!探検隊になるのが夢だったんだから!」
「まあまあ落ち着きなよ、二人とも。ぼくはどっちの力も必要だよ。これからもね。だから安心して欲しいな」
やれやれ………始まったよ。ぼくのことになると、少しのことで揉め事になるのが玉に瑕。だけど今の自分には絶対不可欠なのは変わらない。改めてそれを口にするのは恥ずかしく感じる。だけど彼女たちも同じだろう。だって少しうつむき加減で顔を赤くしながら、自分の話を聞いていたのだから。
「掲示板の依頼は優しいものから難しいものまで色々あるんです。まずEの依頼が一番優しくて………D、C………となるに従って難しくなっていく感じです。ですのでウデに自信が無いうちはEとかの優しい依頼をこなしていった方が良いですよ」
それから少しして、掲示板の内容を眺めていたぼくたち。近くにはケムッソとオオスバメの二匹もいた。あれは確か…………“タベラレーズ”だったっけ………なんてボンヤリとしていたら、向こうから話しかけてきたのである。その内容が先ほどのようなもの。完全に一方通行のような感じである。
「なるほど。ところでケムッソさんたちは難しい依頼を引き受ける予定だったんですか?」
「え?ワタシですか?ワタシはCのような難しい依頼はとても選べませんよ!ブルブル………」
ココロの何気ない質問にも身震いしてしまうケムッソ。以前話したときもそうだったけれど、ソラ以上に“おくびょう”な性格だとわかる。これじゃまともに話が出来ないだろうなと感じたぼくは、気にする素振りを見せないようにしてソラと一緒に掲示板のチェックの続きを進める。無論、直後にココロが顔を真っ赤にしながらソラ以上に距離を縮めてきたのは言うまでもないが。
「何?お前たち、掲示板の説明を聞きたいのか?」
「いや、別に。ただ眺めていただけですから」
相方とのやり取りを見ていたのか、オオスバメがソラに話しかけてきた。さすがに同じことを繰り返されては、彼女も対応するのに困った様子。いつもなら可愛さ満点の笑顔も、きょうはなんだか自然体ではない。
「………なんだ。聞きたくないのか………。依頼をこなすのは楽しいのにな………。ところで………」
ソラの反応にガッカリした様子を見せるオオスバメ。だけど切り替えは早かった。相方へ自慢気に収穫を報告し始めたのである。
「おい!ケムッソ!さっき掲示板を見てたら凄く良い依頼があったぞ。仕事がラクなうえに報酬もデカイ。なかなか“美味しそう”じゃないか!」
「!!!!」
オオスバメからすれば決して相方に悪意は無かっただろう。だけど言葉と言うのは、ときに厄介なことをしてくれる。このときなんて正にそんな状態だろう。彼からそのワードを耳にした瞬間、ケムッソの表情が凍りついたのだから。
「お、美味しそうですってぇ~!?ひえぇぇ~ブルブル………」
この妙なやり取りを目の前にして、ぼくはどう反応したら良いのか困った。いや、正確には心の中で静かにツッコミをいれてしまったのである。
(探検隊ってこんな凸凹でも大丈夫なのかな………?)
日に日に別の意味で深刻さが増してるのはきっと気のせいではない。自分たちも修行を終えるときに漫才トリオ化してないか、変な不安が増えてしまった。
「とりあえずこの二つの手紙、同じ“かいがんのどうくつ”での依頼だから、やってみようか?」
「そうですね。出来ることなら一度にまとめてレベルを上げていきたいですものね」
「私も賛成だよ、ススム♪」
軽く背伸びして手紙を掴み、ソラとココロに確認をする。二匹も快く頷いてくれたのがありがたい。ぼくは小さく頷いてこう言った。
「よし、それじゃあ下にいるペラップに承認と報告をしてくるね」
「はい♪」
「いってらっしゃい、ユウキ♪」
二匹に見送られてぼくは足早にペラップのもとへ向かった。
「“トゥモロー”か。何か良い依頼を見つけたのか?」
「うん。だから承認してもらって良いかな?」
サッと三通の手紙を手渡されたときのペラップの表情、ぼくは見逃さなかった。何となくだけど気にくわないって感じ。新入りメンバーなのにタメ口なのが鼻についたのかも知れないけれど。でも、それだけの理由ならソラだって同じだ。
「まあ良いだろう。貸せ………え!?」
「どうしたの?」
「いや、何でもない!!」
何が正解かはわからないけれど、そんなこと構っている場合ではない。次のリアクションも見逃さなかった。彼は何気なく手紙を受け取ったつもりなのかも知れないが、まさか駆け出しのチームが同じ日に一気に二件の依頼をこなすなんて予想外だったのだろう。それでもギルドのまとめ役としてカッコ悪い姿を晒すわけにはいかないと、彼はぼくの問いかけにブルンブルンと首を左右に振り切る。
「よし、出来た。オマエたち、やるからには責任持ってやり抜くんだぞ?決して手を抜くなんてことはしないように!」
「そんなこと………言われなくたって」
「わかったらとっとと行けい!!」
「な、なんだよ全く………」
ペラップが何故ここまでヤケになるのか、自分には全く理解できなかった。まるで邪魔者にされているような不快感。本当にここで修行を続ける意味なんてあるのか、それさえも怪しくなってしまう。
「まあ仕方ないか。早くソラとココロのところに戻らなきゃ」
それでもいちいち細かいことを気にする暇は無い。ぼくは梯子を登りながら、彼女たちの前で笑顔になろうと心に決める。せっかく盛り上がってきたのに自分だけが変な表情でいるわけにいかないし、変に心配されるのも嫌だったから。
「お待たせ!承認されたよ。早く行こうか!」
「待って、ススム!その前に“トレジャータウン”に行かなきゃ」
「え?」
「そうですね。一度攻略できた場所でも、不思議のダンジョンは前回とは全く姿が変わってますからね。念入りに準備はしといた方が良いですよ」
「そうか…………そうだね。ありがとう、二人とも」
ぼくは二匹に感謝の気持ちが自然と沸き上がる。自分の場合は特にカッとなって熱くなる傾向があるので、冷静に状況判断をして貰えるのが本当に頼もしく感じるからだ。きっとこの先も何度も助けられることになるはず。こんなので本当に“リーダー”を名乗っても大丈夫なのだろうか。
(良いよね、きっと。自分一人で抱え込むより、三匹で頑張れば。今回は苦しい冒険にしないように頑張らないと!)
「ススム~!!」
「早く来てくださ~い!!」
考え事をしている間に、二匹は梯子の上に達していた。ハッとしたぼくは頷き、笑顔で返事をした。
「今行くよ~!!」
不安はたくさんあるけれど、すべてを希望へ変えられるはず。ぼくはそのように結論つけた。
ギルドから出て何段も続く階段を降りると、“トレジャータウン”手前の井戸や風車などがある分かれ道に出てくる。昨日も見た景色だけど、なんだかいい感じで潮風なんかも吹いていて気持ちいい。そうしてのんびりしているとギルドの仲間、ヘイガニが声をかけてきた。
「ヘイ!これからお出かけかい!」
「うん、そうだよ。ダンジョンに行ってくるんだ。依頼をこなすためにね」
やたらと彼のテンションが高いのは、なぜなんだろうか。単独行動でダンジョンに行く様子もないし、だからと言って他のメンバーを待っているという感じにも見られない。だからぼくたちにはとても不思議な印象を受けた。
そんなぼくたちのことなんか気にする素振りなんか見せず、彼は更に案内を続ける。
「そうか。だったらこっちに行けば冒険に行けるぜ!ヘイヘイ!」
「“かいがんのどうくつ”も?」
「“かいがんのどうくつ”?それならこの階段を下った先だぜ!ヘイヘイ!クラブたちがいる海岸の近くに入口があるからな!」
「そうなんだ、ありがとう」
ヘイガニが初めハサミで示したのは井戸の方角だった。自分の背後だったのでクルリと体の向きを変えながらではあったが。だけどぼくが目的地を教えると、もう一度体を別方向に向けて親切に教えてくれた。それだけでも嬉しくてたまらない。
「でも気を付けてな!冒険行くなら準備をちゃんとしてから行った方が良いぜ!ヘイヘイ!」
「ありがとう!ヘイガニ!」
こんな駆け出しのチームのことを気遣ってくれるのが嬉しかった。ソラとココロも同じ意見だったし、やっぱり先に準備をすべきだなと思った。
そのときぼくたちは気付かなかった。ちょうど風車の正面にある岩の陰にポケモンの姿があったことを。
「……………………。ユメとロマン………。ここならきっと………」
そのポケモン、パッチールは嬉しそうな笑みを浮かべ、ただただ妄想に浸るだけだった。
……………36Daysへ続く。