23Days:「後悔~トゲトゲやま#1~」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 “トレジャータウン”なんて賑やかな場所があって何だか安心したな。気になるのはあの不思議な目まい、そしてルリリと思われる悲鳴。一体これはどういう意味なんだろうな。なんか嫌な予感がするけど…………。


 一筋の閃光が走り抜けた後、拓けた景色。そこはゴツゴツした感じの岩の地面が広がる大きな部屋のような場所に思えた。どこかの山の中のような感じのようである。ちょうどこの視点だと空中に浮かんでいて、そこから地上を眺めている感じだ。その地面の上ではルリリとスリープとが対面しているみたい。


 (一体これは………なんなんだ?)


 意味不明な展開に動揺してしまうぼく。するとここで何か動きがあったようである。


 「言うことを聞かないと………イタイ目に遭わせるぞっ!」
 「た………助けてっ!!」
 (!!!?)


 ここまでで再び視界が真っ暗になってしまった。次に視界が開くと、“トレジャータウン”の景色へと戻っていた。


 (い………今のはっ!?)


 ぼくは焦りを隠すのが難しくなっていた。何がなんだか全くわからなかったが、とにかくとんでもないことが起こりそうな感じがしたのである。


 「落とし物早く見つかるといいよね」
 「そうですね♪」


 そんなことなど知らずソラとココロは楽しそうに会話をしていた。が、ここでソラがぼくの異変に気づいたようで声をかけてきた。


 「ん?どうしたの?ススム」
 「さっきから様子が変ですよ?なんだか青ざめた感じですし………」
 「そうだよ。そんな深刻な顔をして………」
 「二人とも聞いて!大変なんだよ!!」
 『え?』


 ぼくは慌てて二人に事情を説明する!!すると…………、


 「ええ~~っ!?さっき、ルリリがスリープに襲われるところを見たって!!?」
 「だからルリリを早く助けに行こうですって!?」


 ソラもココロもその場で飛び跳ねるくらいビックリしていた。そしてさっきまであんなに火花を散らしていたとは思えないほど、今度はお互いに困惑した表情で顔を見合わせている。それくらい衝撃的だったのだろう。まあ仕方ないだろうけども。そんな未来予知みたいなことなんて普通は考えられないし、エスパータイプでもない自分がなぜそんなことが出来たのか、全くもって理屈が説明できないのだから。


 さらにソラはこんな風にも言った。


 「それは大変だよ!大変だけど………うーん。でも…………ススムのこと信用してないワケじゃないんだけど………やっぱり私、信じられないよ。だってスリープは親切そうなポケモンだったじゃない?私さっき三匹が行くのずっと見送っていたけど………凄く仲良さそうにしてたよ?」
 「そうですよね…………。ススムさんの言っていることが本当なら、スリープがあんな親切に対応するとは思えないし…………。もしかしたら同じ種族だけど、別の個体同士での話を見間違えた可能性もありますよ?」
 「そうだよね。ポケモンって同じ種族でもたくさん色んな場所で生きているからね。もちろん私のような“ピカチュウ”だって、ココロちゃんのような“カラカラ”だって…………ススムのような“ヒトカゲ”だって例外じゃない」


 それまで沈んでいた表情のソラだったが、ココロの意見に段々とまた持ち直していく。まるで曇天だった空から雲が抜けて、明るく温もりがある太陽の日差しが射し込む………そうやって広がっていく青空のように。最終的には満面の笑顔でこのように励ましてくれたのである。


 「ススムは多分疲れているんじゃないかなあ。それで悪い夢でも観たのかも知れないよ?」
 「そうですよ。昨日だって私たちのことでベッドで寝られなかったんですから」


 二匹の言葉が信用できなかった訳ではない。けれどもなぜかぼくはしっくり来ない。その場で腕を組んで考え込むのであった。


 (そう………なのかな………。悪い夢だったのかな………。でも言われてみれば………。スリープは悪いポケモンには見えなかったし………)


 ぼくの気持ちが先走っているだけなんだろうか。だとしたらソラの指摘だって納得行くところだけど。


 「それに私たち修業中の身だから勝手なことは出来ないよ。確かにちょっと気にはなるけどさ………。でもとにかく今はギルドの仕事をしなくちゃ。冒険に行く準備をしてビッパのところに行こう。ビッパはギルドの地下1階で待っているはずだよ」
 「う………うん…………あわわ!?」


 何かまだ腑に落ちない部分もあったせいか、ソラへの返事が小さくなってしまった。表情も冴えなかったのだろう。そこら辺も何となく汲み取ってくれたのか、彼女は少し首を傾げつつも笑顔で手を引いてきたのである。これにはぼくもドキッと来てしまって赤面してしまった。……………だって可愛いんだもの。


 「さあ行こう!ススム!」
 「あっ!待ってください!!」


 ぼくたちは最後に自分たちの今の所持金………とは言ってもそこまで多くは持ち合わせている訳ではないけれど、おむかえポケモンと呼ばれている種族、ヨマワルが経営している銀行へと向かった。


 「いらっしゃいませ。“ヨマワルぎんこう”です、ウヒヒ。初めてご利用になりますよね?それならこちらの概要を説明しますね、ウヒヒ」
 「あ、ありがとうございます…………」


 見るからに怪しそうなしゃべり方、雰囲気を圧倒されてしまう。そもそもヨマワルにお金というイメージが全然結び付かなかったせいもあるんだけど。でもせっかく概要が聞けるのなら、嫌だとは言えない。覚悟してそのあとを聞くことにしてみる。


 「実はダンジョンで倒れたらお金が半分無くなっちゃうんですよ!?知ってました?でもそんなとき!ウヒヒ!この“ヨマワルぎんこう”に預ければ安心!倒れて帰って来ても預けたお金は絶対無くなりません!!!ボク、一見怪しそうに見えるでしょ?ウヒヒ!でも見かけと違って実は執念深いくらいに堅実なんです!当店に預ければ絶対安心ですからぜひご利用してくださいね!ウヒヒ!」


 いやいやちょっと待て。何でそんなにテンション高いんだよ。心の中でついそうやってツッコミを入れてしまったぼく。しかしソラやココロのアドバイスに従い、とりあえずダンジョンで倒れてしまったことを考え、わずかばかりの所持金をヨマワルに預けるのであった。






 さて、ギルドに戻ってきたぼくたち“トゥモロー”。そのままビッパの元へ…………とは行かなかった。あの謎の目眩は結局わからないままだったけれど、ぼく自身他のポケモンと話をすることが何だか楽しくなってきたからである。…………ということで、お尋ね者の掲示板前でぺラップから説明を受ける前に気になったポケモンたちにも話しかけることにした。


 「どうしたの?ボクたちは“ハッピーズ”!幸せを運ぶ探検隊さ」


 と答えてくれたのは、はりたまポケモンと呼ばれている種族のトゲピー。


 「掲示板を見ると困ってるポケモンがたくさんいるよね。頑張って助けなきゃ!」
 「ボクたちに悩みなんてないのさ。キミたちも頑張るんだよ」


 と、それぞれ答えてくれたのはいつつぼしポケモンと呼ばれている種族、レディバ。それからかえるポケモンと呼ばれている種族、ニョロトノだ。彼らの意気込みに負けないようにならないと…………なんてぼくは思うのであった。


 「おっ?冒険の準備は整ったでゲスか?」
 『うん!!』


 お尋ね者のイラストがたくさん貼り付けられた掲示板。その隅にビッパは待っていた。最終確認をされて自信たっぷりに返事をするぼくたち三匹。すると彼も嬉しそうにしてくれた。


 「おおっ!準備完了でゲスね!それじゃ一緒にお尋ね者を選ぶでゲス」


 そのように言いながら彼はぼくたちを掲示板の前へ案内する。


 「さてと。この中から選ぶでゲスよ」
 「ええ~~っと…………どれ選べば良いんだろう?………」
 「コホン。じゃここは先輩としてひとつあっしが選んであげるでゲス」
 「あまり怖そうなの選ばないでね!!」
 「フフフ、ソラさんってば♪」
 「怖がりなんだから~」
 「だってぇ…………」
 「わかってるでゲスよ。ええと………どれに………」


 そんな他愛ない会話が繰り広げられる。楽しい。仲間がいるって本当にありがたいな………そのようにぼくたちは思った。


 …………と、そのときである!!!


 ウーー!!ウーーーー!!ウーーー!!!
 「なっ、何!?」
 「怖いよ!!!」
 「大丈夫、ソラさん!?」


 突然建物全体にサイレンのような大きな音が流れてきたのである!!ソラはブルブルと震えてしまい、ココロがそんな彼女を抱き締めてしっかり守ろうとしていた。


 《情報を更新します!危ないですので下がってください!情報を更新します!危ないですので下がってください!》


 どこにそんなシステムがあったのが分からなかったけどとにかくアナウンスがされた!!しかもそれだけではない。次の瞬間、ゴゴゴゴゴゴという地鳴りが聞こえたかと思うと、大地震が起きたのかと言うくらいグラグラグラグラと床が揺れ始めたのである!


 「な…………何なの?何が起こってるの?」
 「ああ、これは情報の入れ換えでゲスよ」


 ソラが怯えながら尋ねる。それにビッパが答えたわけだが、なぜか彼は全く微動だにしなかった。慣れっこしてるんだろうけど、慣れって怖いな………。


 「情報の………入れ換え?」


 ビッパの言葉に恐る恐る顔を上げるソラ。その次の瞬間!!!


    バタン!!
 「ひゃあーーーー!!壁が回転して裏側になっちゃったよ?!!こ………これってどういうこと?」
 「落ち着いてください、ソラさん!!深呼吸してください!」


 ソラが妙な悲鳴を上げて騒ぐ。ココロが必死に声をかけるがそれさえも聞こえてないようにも感じる。そんな様子を得意気に少しだけ笑いながら、ビッパは説明をするのであった。


 「お尋ね者ポスターや掲示板はこのように壁が回転式になってるんでゲス。それで壁をひっくり返している間に………ダグトリオというポケモンが情報を書き換えてるんでゲス」
 「ダグトリオ?」


 そのポケモンの名前を言われてソラが首を傾げる。更に彼の説明は続く。


 「情報を新しくするのはダグトリオの役割でゲス。彼らはトンネルを掘ってギルドまで進み………壁を回転させて新しい情報に変えるんでゲス。地味だけどとても重要な仕事なんでゲス。だからダグトリオもこの仕事に誇りを持っているんでゲスよ」
 「ふうん。そうなんだ」


 ソラがビッパの説明に納得したような表情をする。ということは、先ほどのアナウンスもダグトリオがしているということになるのだろうか。地鳴りは彼ら(?)が地中を掘り進んでいる音と考えれば妥当なところだ。


 余談ではあるが、このビッパの説明のときなぜか友情出演として“タベラレーズ”が起用されたことは誰も知らない。きっと。



 《更新終了!危ないですので下がってください!更新終了!危ないですので下がってください!》
 「あっ終わったみたいだね」


 説明を受けて落ち着きを取り戻したソラが一言呟く。すると次の瞬間、地鳴りがした後に「バタン!」と掲示板が再び回転して元の姿に戻ったのである。


 「さあ情報が新しくなったでゲス。お尋ね者も新しくなったんで、選び直すでゲスよ」
 「………………………………」
 「ソラ?」
 「ソラさん?」
 「ん?どうしたんでゲスか?急に震えだして………。ここ、特に寒いワケでもないでゲスよ?」


 困惑しながら辺りをキョロキョロするビッパ。よくよく見ると彼女の眼差しは凄く鋭いようにも思える。武者震いと言ったところが的確かもしれない。ぼくがそのように感じていたときだった。


 「ス…ススム………コ…ココロちゃん………。……これ見てよ………」
 『え?』
 「一番左上の………ところ…………」


 彼女に言われるがまま、ぼくとココロは掲示板の方を見てみる………………!?


 「!!!」
 「キャッ!!こ………このポケモンって!?」
 「ス…スリープだよ!」


 そう。ぼくたちの目に飛び込んできたのは…………スリープが描かれたポスターである。たった今“トレジャータウン”で………マリルやルリリと会話をしていた………あの。ソラが武者震いしているのもこれが理由だったのだ!


 「アイツ、お尋ね者だったんだ!!」
 「ということは…………ススムさんが見たものって…………!?」
 「私にもわからない!でもススムが見たものは正しかったってことだったんだ!」
 「そんな!!?そんなことって…………!」
 「ゴメン、ススム!!あなたの言葉を軽く考えちゃって…………。これじゃあ“パートナー”として失格だよ、私!!!」
 「ソラ…………」


 真実を知って途端に血の気が失せて愕然としてしまうぼくたち三匹。特にソラのショックが一番でかかったようで、半分悔し涙で顔を濡らしているようにも感じた。


 「いいや!今はそんな悔やんでる場合じゃない!早くしないと………ルリリが危ないっ!!」
 「うん!!急ごう!!」
 「みんなでルリリちゃんを助けましょう!」


 ぼくたちはお互いに顔を合わせて自分の首元に巻いた明日へと続いている青空のように青いスカーフを引っ張り、バッジを手に取って小さく頷いた。ベリッとそのスリープが描かれたポスターを剥がし、怒濤のような勢いで梯子を駆け上ったのである!!


 「わわっ?急にどうしたんでゲスか!?どこに行くんですでゲスか!!?」


 何が起きたか全くわからないビッパはその場で右往左往するばかりだった。


 …………ギルドの外に飛び出し、水飲み場のところまでやってきたときだった。ソラが急に叫んだ。


 「あっ!あそこにマリルが!!」


 階段の上からだと眺めが良かったため、マリルが右往左往している様子がすぐにわかった。急いで彼のもとへ駆け寄り、彼女は息を切らしながらもなんとか声をかける。


 「マリル、どうしたの?ルリリやスリープは?」
 「そう!そうなんです!!あのあと三匹で落とし物を探していたんだけど………気がついたらスリープがルリリをどこかに連れてっちゃって………呼んでも戻って来ないし………それで不安になってきちゃって………」
 


 困り果てて途方に暮れているマリル。焦りが更にぼくたちを支配する。


 「そ、それで!二匹はどこへ!?」
 「こ、こっちです!」


 マリルがぼくたちを案内してくれた場所は…………?









 「スリープとルリリはこっちの方に消えて行ったんだね?」
 「はい………」
 「ススムが夢の中で見たスリープとルリリは………山の中のような場所にいたって言ってたよね?」
 「うん。そうだよ」


 ソラの質問にぼくは大きく頷いた。


 「やっぱり二匹はこの先にいそうな気がする」
 「そうだね」
 「多分間違いないでしょうね」


 ぼくたちがいる場所は草木が少ないゴツゴツとした大きな岩で出来た壁や、そこら中にそれらが崩れたり壊れたりして欠片が散らばっている荒れている大地が印象的な山だった。この先に自分が見たあの景色のある部屋があるのか…………そのように考えると自然と寒気を感じてしまう。


 「早く行こう!ススム!ココロちゃん!」
 『うん!』


 ソラの表情がそれまでの穏やかなものから一転、より鋭いものへと変わった。バチバチと赤い頬っぺたからも小さな電流が発生している。よほど自分に悔しいのだろう。こんな表情を見るのはこの3日間でも初めてかもしれない。


 「どうか!!どうか!ルリリをお願いします!!大切な兄弟に何かがあったら、ボク………!!」
 「心配しないで。私たちチーム“トゥモロー”必ずスリープを倒して、ルリリと一緒に戻ってくるから!さ、早く行こうよ………!!」


 今にも泣き出しそうなマリルにそのように告げると、誰よりも早くソラがこの不思議のダンジョンの入り口………“トゲトゲやま”へと突入していったのである!




 ………………こうしてぼくたち“トゥモロー”の新たな冒険が始まりを告げた。


 「痛っ!!また右腕を壁で擦っちゃったよ~」
 「もう、ススムってば………さっきから大丈夫?」
 「気をつけてくださいね。ここはこんな場所ばかりですから…………」
 「ゴメン、ソラ。ココロ」


 さすが“トゲトゲやま”って呼ばれているだけあって、不思議のダンジョンとなっているその中は岩肌が刃先をこちらに向けているように壁から剥き出しになっていた。時折地面から突き出ているところもあるので、注意して歩かないとこれからも思わぬケガをしてしまう気がした。


 「ススムってば………おっちょこちょいなんだから♪傷口ほっとくといけないから、これを使って……………」
 「“スペシャルリボン…………”?でもそうしたらキミのでんき技が…………」
 「気にしなくても平気だよ。それよりちょっと染みて痛いかも知れないけど、ちょっとだけ我慢してね♪」
 「え…………うん」


 彼女に笑顔で見つめられると、ついついドキドキしちゃうのはどうにもならないのか?………まるで弟か子供に向かって優しく話しかけてきたソラは右耳につけていたリボンを取ると、そこに予め使いやすいように柔らかくしていた“オレンのみ”を少しちぎって握る。そうして出てきた汁をリボンに滲ませ、それでぼくの傷ついた右腕を縛り付けたのである。


 「よし、これで大丈夫。軽い傷だし自然治癒力で少し経てば治ると思うよ♪」
 「あ、ありがとう…………」


 ぼくはキョトンとしてしまう。こんな優しさに包まれてしまって………本当に彼女は怖がりなのかと不思議な気分になってしまったのである。そして自分の中にある恋心がますます燃えることになるのであった。


 一方でココロは何となく不満そうな表情をしていた。ぼくとソラの様子を視界に入れたくないのか、わざと周りを警戒している仕草をしていたのだ。経験豊富な彼女にとって、ソラが自分より先に行動したことが嫌だったのかもしれない。


 しかし、このあと彼女も目まぐるしい活躍をすることになる。それこそチームを救うような。


 「さ、先に進もうよ。どこまであるのかわからないし。こうしてる間もルリリはピンチだから」
 「そうだね」
 「そうはさせるかよ!」
 『!?』


 気持ちを入れ直してソラとグータッチをしようかと言うところだった。背後から別のポケモンの声がしたのである。一体何者なんだと振り返ってみると?


 「助けて…………ソラさん………ススムさん………」
 「ココロちゃん!」
 「どうしたんだ!?」


 迂闊だった。あろうもことか、ぼくたちはすっかりココロの存在が頭から抜けていた。そこには糸が絡まってしまい、骨を使って必死にもがいている彼女の姿があったのである。それだけなら良かった。


 「く…………苦しい………」


 よくよく彼女の足元を見ると何かが刺さっている様子。急いで確認に向かう。すぐに正体はわかった。“どくばり”である。………ということは?ぼくはソラと思わず目を合わせた。その黒い小さな瞳は自分に何かを伝えたそうだった。


 「ソラ。何か言いたいことがあるなら大丈夫だよ」
 「ゴメン………。ココロちゃんの気持ちを考えたら、ちょっと迷っちゃったんだ。周りをちゃんと考えられなかったら“パートナー”として失格だよ」


 ぼくの言葉に苦笑いを浮かべるソラ。彼女の中にも少なからずココロへの申し訳なさというのはあったのだろう。それだけ自分の役割に責任と自覚を持っているんだということも伝わってきた。けれども今はそんな感傷に浸っている場合ではない。だからぼくは敢えて冷たい表情をしてソラに言い放った。


 「そんなこと考えている暇があるなら、仲間をピンチから救うことを考えたらどうなんだ?さっきぼくに見せたように」
 「え?」
 「キミってさ。なんか相手の気持ちをわかっているようでわかっていないよね?この場面でぼくもキミも離れたら、誰がココロを守るの?悪いけど変にいちゃついてばかりいないでよ」
 「急にどうしたの?意味わかんない!」
 「ダンジョンの中なんだから当然でしょ?キミがぼくにどんな気持ちでいるかなんて、どうでも良いし」
 「サイテー!!わかったよ!!ススムがココロちゃんを守っている間に、毒を抜かす木の実を探してくるよ!私、“トゲトゲやま”にあるの知ってるし!!」
 「だったら早く持ってきてよ。イチイチうるさいな………」


 ソラは一言叫ぶとその場から離れていった。







 (ススムさん…………なんで?)


 あたしは急転直下した様子に驚きしか感じませんでした。あんなに自分を支えてくれていたソラさんに急に冷たい態度で接するススムさんの姿が信じられなかったから。


 「ココロ…………ゴメン」
 「え?」


 彼は自分の方を振り向くと、今度は表情を沈ませて謝ってきたのです。それにもあたしは驚いてしまいました。理由がわからずに動揺していると、ススムさんはこのように話し始めたのです。


 「ビックリさせてごめん。でも理解してほしいんだ。ソラはぼくのことを考えてばかりだから。だから敢えて突き放したんだ。“トレジャータウン”のときもぼくが話すとソラばかりが答えていた。でもそれじゃいけないと思うんだ。ココロだって大事なメンバーだし、ソラにもココロのこともちゃんと考えて動けるようになって欲しいから」
 (そうだったんだ………)


 そうですよね。だってススムさんがソラさんのことを意地悪するはずがないんですから。きっと本音では苦しかったことでしょう。「ごめん」という言葉にそれが凝縮されているような気がしました。更に彼はこのようにも言ったのです。


 「でも、ぼくももうちょっと柔らかい言い方をすれば良かったな。あれじゃソラが怒って悲しむのも当然だよな。感情的になりすぎた。せっかく自分の“スペシャルリボン”で手当てしてくれたのに…………。どうやって機嫌を直させてあげようか」


 ぶつぶつ呟きながらそこら辺をうろちょろするススムさん。そこまで悩むほどソラさんのことを気にするなんて………やっぱり彼も自分のことはあまり気にしていないのかなって思ってしまうことが情けなかったです。


 (でもそうだよね。ソラさんの方が一足早くススムさんと一緒になったんだから。あたしが余計なんだ。あたしが“トゥモロー”にいなければススムさんだってソラさんに冷たくしたり、あんなに悩んだりしないよね………)


 あたしは急に自分がススムさんやソラさんの足手まといになっている感じがしました。ススムさんの仲間想いな姿に惹かれて一緒になりたいな…………なんて思って無理やりチームに入団したけれど、彼の優しさを受ける権利には自分には無いんだと………そのように自らを否定する感情に包まれてしまったのです。いつの間にか糸の中でもがく力も抜けてしまいました。


 (誰にも必要じゃない自分なら、この世界で生きている必要なんか無いんじゃないのかな。もしかしたらこのまま力尽きれば人間に戻れる気がする。そうだ…………きっとそうだ)


 自らにこのような感じで言い聞かせながら、私はうっすら目を閉じようとしました。と、そのときです。そんな感情が消えたのは。


 「え~い!今はそんなことよりココロを助ける方が先だ!!この糸を破ってあげないと!ココロだってぼくたちをサポートしてくれる大切な仲間なんだ!!ぼくたちは三匹でひとつのチームなんだ!」
 (ススムさん…………)


 良かった…………。自分は見捨てられてなかった。まだススムさんに仲間として見てもらえているんだ……………そのことがわかっただけで、生きなければいけないと思うのでした。彼の小さな炎さえあればこんな糸など簡単に焼き切れたのに、わざわざ腕を使って一生懸命伸ばしてちぎっている姿を見ると、自分を火傷させてはいけないと気遣っているのかと感じずにはいられませんでした。おかげで少しずつ、本当に少しずつ身動きが取れるようになってきたのでした。


  ドカッ!!
 「ぐあっ!!」
 「ススムさん!!?」


 あとすこしで完全に糸から解放される。正にそんなときでした。鈍い音が耳に飛び込んできたかと思うと、ススムさんは呻き声を上げて苦しそうな表情へと変化したのです。それでもあたしに絡まっている糸を強引にちぎる作業を止めようとはしませんでした。スピードが落ちても「待っててね、ココロ。あと少しだから………がんばって」と、あたしを励ます言葉をずっとかけてくれたのです。きっと背後から攻撃を受けていることくらい、彼にも理解できていたことでしょう。本当ならその襲撃してきたポケモンを倒すことを優先して当たり前なのに、彼はあくまでもあたしを助けることを優先したのです。自分も“トゥモロー”の仲間だからという…………たったそれだけの理由で。


 (ごめんなさい………本当にごめんなさい。自分が不注意なせいで……………)


 あたしは心の中でススムさんに謝り続けました。肌身離さず持ち歩いている骨をギュッと抱きしめながら。そして改めて右も左もわからないこの世界で彼に出逢えた奇跡に感謝の気持ちが溢れてきて、ますます恋心も強くなっていくのでした…………。



 「見ろよ!?あのヒトカゲ、反撃してこないぜ!?馬鹿じゃねぇの!?」
 「しかも首にスカーフを巻いているってことは、探検隊ってことだな!?絶対に逃がさねぇぞ!!俺たちの住んでいるところを荒らしにくるよそ者めが!!」


 ……………このように叫びながらやってきたのはワンリキーとイトマルの二匹だった。やはりか。ココロに絡み付いた糸や“どくばり”を見る限り、きっとむしタイプのポケモンが関係しているだろうとは思ったけれど。事実が明らかになって、メラメラと怒りにも似た感情が出てくるのをぼくは感じていた。そして背後にいるそいつらに向かって低い声で警告したのである。



 「てめぇら。あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ………!」




           …………24Daysに続く。