20Days:「ぼくにはわからないこと」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 思わぬ相手に出喰わしてどうなることかと思ったけど、無事にぺラップからの“トゥモロー”としての初仕事も成功させて、おまけにソラの宝物も奪い返すことも出来た。昨日の悔しさがこれで少しは報われたらいいね…………ソラ?


 「こ………ここがプクリンのギルド………。なんだか緊張してきました…………」
 

 無事にバネブーの落とし物を見つけたぼくたち“トゥモロー”のメンバーはプクリンのギルドまで帰ってきた。すっかり日も傾き、オレンジ色の光が大地を照らしている。無論このプクリン親方を象った建物も例外ではない。ボクとソラは昨日、この建物の入口付近の威圧的…………でもないか…………この独特な雰囲気を経験しているから特に何も感じることはなかった。さすがにココロは初めて来る場所ってだけあって、緊張しているのがわかったけど。


 「大丈夫だよ、ココロちゃん♪最初だけだから!」
 「ソラってば、よく言うよ。昨日ここに来たときココロ以上にブルブル震えていたくせに~♪」
 「え?そうなんですか、ソラさん?」
 「//////////!!!」


 そんなココロに明るい笑顔で話しかけるソラのことを、ぼくはこれまた明るい笑顔で軽くいじった。ココロがビックリした様子でソラの方を振り返ったもんだから、恥ずかしくなったのか彼女は酷く赤面していた…………あれ?何となくだけど、うつむいてわなわなと震えてる?ほっぺからピリピリと電流がほとばしてる?なんとなく怒ってる感じがするんだけど。…………気のせいなのだろうか……………?


 「もうっっっ!!ススムの意地悪!!!!」
 「ぎゃあああああああああああああ!!!」
 「あらら…………」


 やっぱり気のせいじゃなかった。ソラは自分に向かって、バリバリバリバリという強い音を伴う電撃を繰り出してきたのである!無論避けることが出来なかったぼくは、大きな悲鳴を上げて黒焦げとなり、そのまま目を回して倒れる羽目になってしまった。ココロが苦笑いをしてることも知らずに。


 「こ、この上に乗れば良いんですね………?」
 「うん♪私も最初はビックリしたけど………、大丈夫。ココロちゃんは独りじゃないから♪」
 「ソラさん…………そうですね!がんばります」


 ソラはココロのことを細かい格子が張ってある例の覗き穴へと案内する。最初は不安そうにその穴を覗き混むココロの姿があったが、ソラの優しい後押しもあってそれも解消されたのか、彼女は思いきってその覗き穴の方へと足を進めた。……………すると、


 「ポケモン発見!!ポケモン発見!!」
 「きゃっ!?」


 例のごとく足元から身張り番の声がする。ココロは驚いてしまって、危うく大切な骨を投げ出しそうになった。でもここを越えないとギルドの中へは入れない。例えぼくやソラがココロを「仲間なんだ」って言い張っても、周りが認めてはくれないだろう。“れいせい”に物事を考えられる彼女だって、きっとそんなこと言わずとも理解出来ているだろう。余談ではあるが、このときの見張り番の声で、K.O.されていたぼくも目を覚ました程なのだから、彼らの声がどれほど大きいのか読者のみなさんにもわかるだろう。


 「誰の足型?誰の足型?」


 下から身張り番の声が聞こえてくる。ココロは緊張感からか、体を小刻みに震わせる。しかしそこは探検家としての経験値豊富な彼女のことだ。ソラとは違って冷静さを取り戻すのも早かった。


 「足型は………足型は………カラカラ!!多分カラカラ!!」
 「多分!?また見分けが付かないって言うのか!?」
 「だってここからじゃ暗くてよく見えないんだもん。特に夕暮れ時は無茶があるよぅ~」
 (また言い争っているよ…………)
 (いつもこんな感じなのかなぁ~………)


 ぼくとソラはマンガの中でキャラクターが呆れたり、苦笑いをしたときのように滝汗を流していた。ココロも予想外の展開への反応に困っているのか、乾いた苦笑いをしている。


 「ま、まあ…………恐らく怪しいものでは無さそうだな。まだ昨日結成されたばかりとはいえ、“トゥモロー”の二人の仲間だと言うならば…………大丈夫だろう。…………入れ」
 「え…………?」


 ココロが驚くのも無理は無い。あやふやなままギルドへの入り口が開いたのだから。余談ではあるが、このときボクやソラが「大丈夫なのかなぁ、この見張り番で………」と不安を感じたことは内緒である。でもまぁ、これでココロの不安が少しでも解消されることを願うばかりだった。








 「ようやく帰ってきたか………。待ちくたびれたぞ」という嫌味に似た出迎えの言葉をぺラップから聞いたのは、出発前に眺めた掲示板辺りらへんだった。だが、そこにいたのは彼だけではない。なんと真珠の持ち主であるバネブーまでいたのである。それももうぼくたちに頭が上がらないというような雰囲気で。


 「あ、ありがとうございます!ワタシ、この頭の上の真珠が無かったせいで………ここ最近もう落ち着かなくて………そこら中ピョンピョン跳ねまくり!おかげでもうアザだらけでしたよ………」


 ぼくは「そこまでなる問題なんだろうか………」という半ば引いたような表情をしていたと思う。確かにバネブーの体はまるでポケモンバトルをこなしたかのように傷が出来ているけども。でも、ソラやココロが真剣な眼差しでウンウンうなずいている様子から察するに、きっと“元人間”の自分にはわからないような理由があるんだろうと思った。


 「でもそんな心配もきょうから無くなります。本当にありがとうございました!」


 バネブーは終始笑顔で一定のリズムでピョンピョン跳ね続けていた。しかしまあ、単なる落とし物拾いだとソラが嘆いていたが、その簡単な仕事ひとつこなしただけでここまで喜んで貰えるなんて………なんて幸せなんだろうか。あまり意識はしてなかったけれど、自分の頑張ったことで誰かが喜んでくれる…………それって凄く報われた感じがするんだなぁ………なんてこのときぼくは感じた。


 「これはワタシからのお礼です。是非とも受け取ってください」
 「え!?こんなに………?しかもどれも珍しいアイテムじゃないですか!?」
 「はい。ワタシが持っていても仕方ないものですから。探検隊の修業を行っている”トゥモロー”さんの方がきっと役立てると思いまして………」


 ぼくには小さなビンの数々が何なのかさっぱりわからなかった。しかしココロいわく“タウリン”、“リゾチウム”、“ブロムヘキシン”、と呼ばれているこれらはどれもなかなか簡単には手に入らない物なんだと言う。どちらかと言うとぼくやソラのブレーキ役で、経験者である彼女が興奮したように言うのだから、多分嘘ではないだろう。…………しかもこれだけではない。


 「わわっ!2000ポケ!?こ、こんな大金貰っちゃっても良いの!?」


 ソラがびっくり仰天した表情をしている。バネブーいわく「どうぞどうぞ。真珠に比べれば安いもんですよ」とのことだが、目にしたことのない大金をいきなり受け取ると落ち着かない。それこそバネブーではないが、舞い上がってピョンピョンしちゃいそうである。


 「では…………」


 そんな歓喜に沸くぼくたちをよそに、バネブーは満足そうに立ち去っていった。


 「ススム!ココロちゃん!私たちいきなり大金持ちだよ!」
 「そうですね!あたしもビックリしました!」


 ソラだけでなくココロまでテンションが高い。自分にはまだポケの価値すら理解できてないというのに。なんだかそのときのボクには彼女たちが遠い存在に感じた。



 「オマエたち、良くやったな♪特に…………そこのカラカラ………ココロと言ったな?“トゥモロー”には途中入団だったらしいが…………まだ未熟な二人を上手くカバーしてくれたようで。ワタシからも礼を言わねばならないな」
 「いえいえ…………あたしの方こそお礼を言わなきゃいけないと思います。仲間に入れて貰えて幸せな時間を過ごすことが出来ましたし、そのことを正式に認めて頂いたのですから………」


 バネブーが去った後、ペラップがぼくたちの元へと近づいて話をする。彼の真摯な応対にココロが照れてしまう。ずっと独りで過ごしてきたって言うし、ここまで自分のことを称賛してくれる相手も存在しなかったことも理由なんだろうか?


 (………だとしたら、ボクは幸せ者なんだろうな。元々人間だからこの世界には友達はもちろん家族もいないけど…………ソラが見つけてくれて頼りにしてくれたから、ココロみたいな寂しさを感じることもなかったわけだし………)


 ぼくは自然とソラへの感謝の気持ちが芽生えてきた。途中ココロの加入を巡ってトラブってしまったし、しかも強引に説得させられたこともあって、もしかしたら彼女の中ではボクへの不信感もきっとあるかもしれない。だからこそ余計にぼくはソラに感謝しなきゃいけない………支えてくれてることへの感謝を持たなきゃいけないな………なんて思っていた。


 「そうかそうか。それなら良かった。これから“トゥモロー”の一員としてキミも頑張るんだぞ」
 「はい、ペラップさん。こちらこそお世話になります」


 非常に和やかな雰囲気。ココロとペラップのやり取りを見ているぼくやソラもみんな笑顔で幸せを感じていた。


 ……………ところが、その幸せな時間はここからのペラップの一言によって、あっという間に崩壊することになる。


 「報酬も大した金額だな。でもお金は預かっておこう」
 『えっ!?』
 「ウソでしょう、ペラップさん!?」
 「ウソじゃないよ」


 ぼくとソラはペラップの発言に耳を疑う。ココロも信じられないっていうような感じで詰め寄るも、全く耳を傾けることはなかった。そればかりか彼はソラの手中にあった報酬の入った布袋をサッと翼でさらうと、そのままぼくたちに背を向ける形を取って次のように言ったのである。


 「ほとんどは親方様の取り分♪オマエたちは………このぐらいかな♪」
 「ええ~っ?200ポケしか貰えないの!?」


 十数秒後、ニコニコになったペラップから戻ってきたのは200ポケ。元金が2000ポケだったので10%しかぼくらに還元されないということになる。ソラがびっくりして大声で叫ぶのも無理はなかった。


 話は脱線してしまうが、このシーンを収録するにあたり、うちの作者がこんなことを言っていた。


 「君たちポケモンにはわからないかもしれないけれど、このシーンを目撃する度にお正月のお年玉を親が“子供にはこの金額は多すぎるから、こっちで管理するからね♪”と、自動的に謎の回収をされる子供のような気持ちになるんだよ」

 …………と。ところで作者さん、“お正月”とか“お年玉”ってなんですか?







 「ひどいよー!なんでこんなことするの!?」


 ソラが若干涙目になりながら、必死にペラップへと抗議する。だがそれも虚しく、「これがギルドのしきたりなんだよ。ガマンしな♪」と軽くあしらわれることとなった。


 「うう…………」
 (ソラ………)
 「ソラさん…………。元気出しましょう。しきたりなら仕方ないですよ」


 これにはソラもさすがにうつむいてショックを隠せないでいた。無理もない。あんなに一生懸命初めての仕事を頑張ってきたのだから。純粋に物事を受け止めてしまう彼女だからこそ、ますますそのショックは大きかったに違いない。ココロがそんなソラに寄り添い、慰めてる中、“リーダー”であるぼくはまたしても何も出来ずにいた。


 (こんなとき、ぼくはどうすれば良いんだろうな…………)


 そんなときだ。遠くから鈴の音と共に、チリーンの「ソラさん!ススムさん!それからココロさん!そろそろ夕食の時間ですよ~♪」という言葉が聞こえてきたのは。思わずぼくとココロの視線が合ってしまう。


 「…………もうそんな時間なんですね」
 「全然気づかなかったよ…………あ、ソラ!!」
 「ごはんだって!!二人とも早く行こうよ!」
 「…………仕方ないなぁ、もう…………」
 「アハハ…………」


 さっきまで落ち込んでいたのがまるでウソだったかのように、ソラはチリーンのいる方…………つまりギルドの食堂の方へと四つ足態勢でダッシュした。その切り替えっぷりにぼくもココロも苦笑いと浮かべるしかなかった。


 でも…………そういうソラの純粋さがぼくは好きだったりする。凄く可愛いなってますます感じてしまって、だからもっと笑顔が見たいな、頑張りたいなって自然に思う。好きな女の子を前にしたらきっと男の子の誰もがそういう「カッコ良さ」を演じようとするだろう。そんな気持ちにさせてくれる彼女と、明日もその先も一緒に探検活動ができる…………今はそれだけで幸せに思えた。


 



 『わあ~~!!』


 食堂に入るとギルドのポケモンたちが既にそれぞれの席に座っていた。長方形型の長いテーブルの上には、これでもかってくらいの木の実やリンゴが山積みになっている大皿が配膳されていた。「元人間」だったはずのぼくも見てるだけで食欲が出てきてるということは、多分そういうことなのだろう。


 「ぼくたちは出入口付近になるんだね」
 「そうだね♪私、ススムのそばに座ろうっと♪」
 「あ、ずるい!!ソラさんだけ良い想いしないでくださいよ!!」


 自分たちの座席を確認するや否や、ソラがぎゅっとぼくの右手を握りながら座った。幸せそうな笑顔を振る舞いながら。ココロもそれに負けじとぼくの正面に座る。ココロの気持ちなんて知らないぼくは、なんで彼女がそこまでソラに対抗心を燃やしているのかわからなかったけど、まあにぎやかなのも悪くないかなぁとか思っていた。


 しかし、ただでは食事にありつけることはない。なぜならここでぺラップの話が始まったからである。


 …………長い。とにかく長い。お腹が減ってどうにかなりそうだった。みんなもきっと同じ気持ちだろう。それぞれの仕事をこなしてお腹がペコペコになってるせいもあって、段々とぺラップの長々とした挨拶にイライラしている様子だった。そして遂に弟子メンバーが限界を迎えることとなる。


 「おい!いつまで話してんだよ!!」
 「そうでゲス!早く食べさせて欲しいでゲス!」
 「ぺラップはワタシたちを飢え死にさせる気ですわ~!!きゃーーーー!!」


 そんな弟子メンバーの中でもドゴーム、ビッパ、キマワリの3匹の叫び声が一際響いた。でも悪い。キマワリ…………それはかなりオーバーじゃないか………?まるで「ムンクの叫び」のような姿になってるんだけど…………って心の中でぼくがツッコミを入れたことは内緒である。


 「お黙り!!親方さまがワタシの話に感動されているというのに、なんて無礼なんだ!!」


 ここまで言われたらぺラップも黙っていられないだろう。彼らを対面している席…………とは言ってもかなり離れてるけど、とにかく自分の席のところでバサバサと激しく翼を動かしたながら、怒りを露にした。そりゃそうだ。意味もなく彼だって話をしたい訳じゃないんだから。まとめ役としては当然っちゃ当然だけど、情に流されてはダメなところがある。だってギルドメンバーが一人前になるまではちゃんと守っていかなきゃならないのだから。それに十人十色、色んな価値観を持っているポケモンたちを同じ方針に向いて貰うためにも、誰かを特別扱いって訳にもいかないのだ。その結果彼の意向を面白くないと感じるメンバーから嫌われものになるのは仕方ないだろう。


 (ぼくもきょうの探検活動でまとめ役の難しさみたいのを感じたからなぁ…………)


 ココロの加入でソラの機嫌を悪くさせたことを思い出す。結果的には強引に納得させてしまったストレスも。彼女はぼくの隣からは離れていないけど、ちょっと馴れ馴れしく振る舞うことは出来ない。だって彼女に嫌われてしまうのは、ぼくにとって何よりも耐え難いショックになるから。


 (まあ…………そんなこと今は考えたって仕方ないや。それよりもお腹が減って目が回りそうだよ…………)
 「ちょっと………ススム!」
 「まあ………ススムさんってば………しょうが無いですね」


 ぼくはとうとう空腹に耐えることが出来なくなった。テーブルにへばりついてしまったのである。それを目撃したソラが赤面して小声ながらも叫ぶ。ぼくの真向かいに座るココロはそんなボクの姿に微笑んでいる。慌てたソラは黄色い小さな手で。ココロは大事な骨でチョンチョンとつつくようにして。そうして彼女たちはペラッブに気づかれないように気を付けながら、二人で一緒にぼくを起こそうと試みた。


 …………だが、やはり物事は上手くいかない。いや、上手く事が進んでしまったら物語として面白味が無いのだろう。ここでもさっさとこの食事のシーンを終わらせれば良いのに、うちの作者さんは余計なことをして話を混乱させてくれる。


 「コラ、オマエたち!!何やってるんだ!」
 「わわわ!ごめんなさい!!」


 ドゴーム、ビッパ、キマワリの3匹と争っていたぺラップが遥か彼方、ぼくらの方の異変に気づいたのである。再び大きく翼をバサバサと大きく動かして怒号を轟かせた。これには腹を空かせた他のメンバーからの目線も鋭く冷たいものに感じてしまう。「なんてことをしてくれたんだ………新入りの癖に」みたいな。そのせいもあってソラは萎縮して涙目になった。ココロはそんな彼女のことをまるで姉のように心配そうにする。ぼくはと言うとドゴームにも負けないくらいの馬鹿でかい声に、一気にピシッと姿勢を正していた。


 「前代未聞だよ、こんなの!!まさかの新入りにも親方様に無礼を働くヤツが出てくるとはね!!!」


 そのとき誰もが思った。「お前の話が長すぎるからだろうが!!」と。一体何をやってるのだろう、このギルドのみんなは。これじゃ探検家修業所ではなく、コメディ芸人修業所である。ぼくたちもここを卒業したときにお笑いの技術が卓越してるのでは無いだろうか。「あさぽけ」の某泣き虫ダメダメヒトカゲではないが、彼の言葉を借りるのであれば「不安だ~」である。


 …………と、ここでトドメを刺されてしまう。プクリン親方によって。


 「ぺラップ、まだ話は続いているの?ボク、もうお腹ペコペコなんだけど………」
 「あ………………」


 その一撃のような言葉にぺラップは、まるで“しばられのタネ”をぶつけられたかの如く、その場で固まってしまった。再び誰もが思った。「やりおった…………」と。そこから少し間を置いて、咳払いをしてからぺラップはこのように言った。


 「……………という訳だ。しっかり腹ごしらえして、ゆっくり体を休めるんだぞ!それじゃ、」
 『いただきま~~す!!』


 ようやくありつけた夜ご飯。みんな一斉に山盛りになった木の実やリンゴを、ガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャと食べていく。もちろんぼくもソラもココロも例外なく…………ね。捕捉説明になるが、食事中に理由はわからなかったけど、プクリン親方は頭の上でサーカスの曲芸のように巨大なリンゴをくるくると回転させて遊んでいた。


 『ごちそうさま!!』








 食事を終えるとみんなそれぞれの部屋へと戻っていく。もちろんぼくたち“トゥモロー”も。でもここで一つ問題が浮上した。いや、大したことないって言えばそれまでかもしれないけど。でも「男」であるぼくにはかなり重大な問題だった。それは……………………、


 (きょうからどうやって寝れば良いんだろ…………)


 ソラが楽しそうにココロをぼくたちの部屋を案内している訳だが、考えてみてほしい。三匹いる中でぼくだけが「男」という状態なのだ。もちろんこれが逆の状態でもかなりまずいと思うけど、ここまでそんな大事なことを気にせず過ごしていたのである。


 (きのうのソラと寝るときだってめちゃくちゃ気まずい感じになったのに、きょうはココロも一緒になるんだぞ…………。絶対他のメンバーから茶化される………。どうしよう…………!!)


 ぼくは馬鹿なことをイメージしてるせいか、顔から火が出るほど恥ずかしさを感じていた。いやいや!読者のみなさん………笑ってるじゃないよ、本当に!!


 「着いたよ、ココロちゃん♪」
 「わぁ~!!本当に私の分までベッドが準備されていますね!嬉しい!!」
 「良かったね!!あ、見てよ!ココロちゃんの分のスカーフとバッジがベッドの上に置かれているよ!?」
 「本当ですか!?嬉しい…………本当に“トゥモロー”の一員になれたんですね、私………」


 藁のベッドの上に置かれたバッジと青いスカーフを見たココロの表情が感激に満ちたものへと変わる。元々独りで探検家目指しての鍛練をしていたことも関係しているのだろう。こうして仲間に入れることがどれだけ嬉しいことで幸せなのかは、周りにはそんな簡単に分かることじゃないのかもしれない。


 「そうだよ。ココロもぼくたちの大切な仲間。これからがんばって一流の探検家になろうね!」
 「ス…………ススムさん…………!」
 「……………!!!」

 次の瞬間、ぼくの言葉を聞いたココロが突然抱きついてきた!!ビックリしたし、勢いもかなり強かったので、バランスを崩してその場に押し倒されてしまいそうになってしまう。それを見て顔を赤くしながら逆に目を真ん丸にして驚いてしまうココロ、そして「何するの!?」って叫んで四つ足体勢で走ってきてサッとぼくを背中から支えに来たソラ。


 「大丈夫、ススム?」
 「あ………ありがとう、ソラ」
 「す、すみません!!私ってば、つい嬉しくて…………!!」
 「ハハハ…………。大丈夫だよココロ、ケガとかも特に無いから」
 「良かったです…………本当にごめんなさい」
 「本当だよ!?なんで抱きついたりしたの!?勝手なことするからこんなことになるんだよ!!気を付けてよね!!」
 「まあまあ、ソラもそんなにムキにならないでよ。ココロだってわざとじゃないんだから」
 「もうっ………………」


 ココロにまたムキになりそうなソラのことを、ぼくは止めにかかる。それで落ち着いてくれたのかどうかは知らないけど、なんとなく不機嫌なままソラはココロを見ていた。ココロはずっと申し訳なさそうに下を向くばかりだった。まぁそんなことは良いとして、本当に今夜からどうやって寝ようか………なんて考えていたそのときである。


 「ススム♪きょうは一緒に寝よう♪」
 「あ!ずるいです、ソラさん!!自分一人だけ!」
 「だって私はススムの“パートナー”だもん!だから一番そばにいなきゃ………!」
 「それは探検活動のときの話じゃないですか!今は関係ないですよ!それにたった1日ススムさんと出逢った時間が違っただけで、そんな距離を離されないといけないんですか!?」
 「ちょっと二人とも…………!!」


 なんだか女子二人でヒートアップし始めて来た。さすがにこのままではマズイと判断したボクは仲裁に入って彼女たちを止めようとするが、


 「どういう意味!?ちょっとココロちゃん、ススムが庇ってくれてるからって調子に乗りすぎじゃない!?」
 「そんなことないですよ!!言いがかりはやめてください!」
 「おい!!二人とも!!やめろって言っているだろう!!?」
 『!?』


 バッと二人の間に入り、ぼくは両手を広げて彼女たちを引き離した!!普段は仲の良い二人なのに、どうもぼくのことが絡んでくると対立してしまう。本当に参ったものだ。いや、内心は嬉しかったけど!でもさすがにこう頻繁に食い違いが起きてしまうのも困る。これからのことを考えても、ここで何かしら手を打つべきだろうなと思った。だから、ぼくは決断した。


 「そんなに争うなら、別の場所で寝るよ。それならソラもココロもぼくが気にならなくなるから良いだろ。それにぼくだけが“男”だけだし、やっぱり“女”のキミたちとは一緒の部屋にはいられないよ…………」
 「そんな!!?」
 「私、そんなこと気にしないよ!ススムがいてくれると楽しいから…………!寂しくならないから!」


 ココロやソラの言葉を最後まで聞くことはなかった。ぼくはスカーフも脱ぐことなく部屋の外へと飛び出したのである。もちろん行く先があるわけでもないし、どこで休もうともきっとちゃんと体の傷や疲れを完璧には癒せないだろう。きっとぼく自身が一番後悔しているはずだ。


 “ヒトカゲ”になってしまった今、たったひとつ孤独や寂しさを感じずに済む場所を自ら棄てたことを。


 …………いや、あなただけじゃないよ?私やココロちゃんも後悔しちゃった。だってエネルギーを貰える相手がいなくなっちゃったんだから。特にココロちゃんの落ち込み具合が凄かったよ。そうだよね。だってせっかく正式に私たち“トゥモロー”のメンバーになれたのに、そのお祝いの日にメンバーがバラバラになっちゃったから………。私だって寂しいよ。やっぱりススムがそばにいてくれないと不安なんだ。でも仕方ないよね。だって恥ずかしいもんね、ススムが。女の子二人と一緒の部屋を使うなんて…………。


 (明日はこんなことが無ければいいな………)


 私は窓の外、暗闇からの寂しげな波の声を聴きながら丸くなって夜が開けるのを待つのでした。ススムがいなくて温もりがイマイチ足りないこの部屋で。



           …………21Daysに続く。