ソラにはかなりキツイ態度で接してしまったけど、ゴメン…………許してくれ。それでもキミに対しての信頼感や気持ちが変化することは全く無いから…………。信じてくれないかも知れないけど…………。
「ふざけんじゃねぇ!!!周りにオレのこの気持ちがわからねぇだろ!?ぜってぇ許さねぇ!!!」
「ひぃぃ!!止めてくれ!!誰か………誰か助けてくれ!!」
「…………!?」
ススムさんからの“ひのこ”を浴びて一時的に気絶したあたし。そんな自分が意識を取り戻して目にしたもの…………それはススムさんがまるで別人のように声を荒げて、リーシャンを徹底的に追い詰めてる姿でした。
「黙りやがれ!!オレに逆らったてめぇなんかに、逃げる権利なんかねぇんだよ!!生きて帰れると思うなよ!?“きりさく”!!!」
「うぎゃあああああ!!誰か………誰か助けてくれえぇぇぇぇーーー!!」
(…………いけない!!)
過度の攻撃はかえって探検隊のイメージを悪くする………風の噂でいつかそんなことを聞いたことがあったあたし。そのときのススムさんの行動がその噂とリンクして、慌てて彼を止めなければって意識が働いたのです。
ガシッッ!!
「!!?」
「ススムさん!!ダメです!!もうやめてください!!」
あたしは無我夢中でオレンジ色の体に飛びついて、彼が暴れないようにガッチリ抑えたのです。その隙にほぼ“ひんし”に近い状態だったリーシャンは悲鳴を上げながら逃げました。
「…………!!?誰だ!!?離せ!!アイツを逃がしたじゃねぇか!!離せ!!離せ!!!」
「ダメです!なりません!あたしがそんなこと許しません!!!」
「ちくしょう…………なぜだ!?みんななぜそこまでオレのことを邪魔する!!ふざけんじゃねぇ…………うおおおおおおお!!」
「あ、あつい…………!!」
暴走する彼の感情が体に高温の熱エネルギーをもたらしているのでしょうか。必死に抑えつけてる彼は…………まるで高温に熱された鉄をつかんでいるような、そんな感じ。とてもじゃないけど、触れるだけでも辛い。「ジュー」という音が聴こえるように、下手をしたら自分の体も、それから肌身離さず手にしてる骨さえも、焼けて焦げてしまいそうな高温。
…………それでもあたしはススムさんの体をガッチリ抑え続けました。ソラさんのように明るい笑顔で彼の荒れている心に希望の光を与えて癒すことが出来ないけれど、彼の“心”と会話をして共感することならきっとできる…………そのように信じたい“心”が自分の中にいました。
(ここで離すわけには………………いかない!何となくだけど、ススムさんにはあたしの止まっている時間とか、人間に戻るためのカギを握っているような気がするから………!)
なぜ彼に対してこんなことを感じたのか、自分にもわかりません。でも自分が人間からカラカラになり、独り苦しんでもがき生きてきた時間のことを考えると、何となく暗闇の世界から抜け出そうな雰囲気がしたのです。だからソラさんに何と言われても彼と行動したい…………それが自分が導いた結論でした。
…………いや、自分が彼と共にいたいというのはそれだけじゃないでしょう。きっと今あたしの中には彼への気持ちが芽生えてる。そしてそれは女の子だったら誰でも起こりうるものでした。
(でも、このままじゃきっと持たない!………そうだ!“すいみんのタネ!”)
あたしはススムさんの体を抑えつつ、急いで手提げ袋から“すいみんのタネ”を取り出しました。そしてそれを彼の体にぶつけたのです。
コツン!!!
「………!?…………ZZzz………」
(やった…………こうしてから“いやしのタネ”を食べさせてあげて………と!)
あたしの思惑通り、ススムさんは深い眠りに落ちました。それは彼の暴走が止まってリラックス状態になったことを意味し、高温状態だった体も通常の体温に戻ったのでした。それを確認したら、すぐにどんな状態異常でもたちまち回復させる効果のある小さな植物のタネ、“いやしのタネ”を彼に食べさせてあげたのです。
「…………ん…………う~ん?」
「気付きましたか?大丈夫ですか、ススムさん」
「は!?リーシャンは!?ココロ………大丈夫だった!?」
「はい、あたしは………なんとか大丈夫でしたよ♪リーシャンは既に恐れをなして逃げていきました。もう心配要りませんよ♪」
「そうか…………」
目が覚めるやススムさんはガバッと勢いよく飛び上がり、辺りを警戒してキョロキョロと見渡していました。しかしあたしの言葉を聞いて急に安心したのでしょう。彼の表情がそれまでの穏やかなものに戻り、力が抜けたのかその場にヘタヘタと座り込んだのでした。
「あ……………そのやけど…………」
「あ………これは」
そのときに彼から指差されたあたし。両手と体、それから手にしてる骨がちょっと焦げていたのです。
「別に大したことないですよ。次のフロアに向かえば自然治癒されてるのが、この不思議のダンジョンの特徴ですから」
「ごめん…………多分自分のせいだろう?」
さすがに彼も自分がしてしまったことだと認識したのでしょう。申し訳なさそうに何度もあたしに向かって謝り続けたのです。それを見たあたしはいてもたってもいられなくなり、
「うわっ……………///////!!?」
「お願いです、ススムさん!」
……………彼のお腹に向かって抱き付いたのです。そのときは彼の体から温もりが感じられ、込み上げてくる感情を抑えきれなくなりました。そしてまだ「でもアイツを追いかけなきゃ」みたいなことを呟いてるススムさんに、このようにお願いをしたのです。
「ススムさん!!もうあたしなら大丈夫ですから!!そこまで相手を傷つけないで!!」
「うん…………ゴメン」
気が付いたらススムさんもあたしのことを抱き締めていました……………でも、それがかえって新たな問題をもたらすことになったのです。
「…………ねえちょっと!!今の何!?二人して抱き締め合って!」
「ソラ!?」
「ソラさん………!」
私はもう怒りや悔しさ、そして悲しみも入り交じって気持ちはもうぐちゃぐちゃになっていました。ススムも、それからココロちゃんも自分の叫び声で驚いた様子でこちらの方を見ていました。
「どういうことなの!?何よ!!やっぱり私のことを仲間外れにしようって考えていたんでしょう!?」
「ち、違うよ!!!これにはちゃんと理由があるんだ!!」
「そうですよ!お願いですから話を聞いてください!」
「知らない!そんなこと知らない!」
私の悲しみにも似たススムへの怒り。慌てた様子で二人は話かけてきましたが、そんなの今の自分にはどうでも良いこと。悔しさのあまり、思わず合流するまでに拾った“ばくれつのタネ”を、ススムに向かって感情任せに投げつけてしまったのです。
「うわあああああ!!」
「ススムさん!!?大丈夫ですか!?」
爆発音が周囲に響きました。その中で悲鳴をあげるススム。慌てて彼に寄り添うココロちゃん。そんな二人の姿を見て、何故だか私は冷たく罵倒するような笑みを浮かべました。
「フフフフ…………」
「な…………何笑ってるんですか!?あなた自分で何したかわかっているの!?」
「わかってるよ。でも元々はあなたが邪魔に入ったことが原因でしょ?違う?」
「!!!?」
ココロちゃんの表情は怒りに満ちていましたが、私の言葉を聞いた瞬間、みるみるうちに青ざめていきました。その乱高下っぷりが愉快に思いました。そして、決して言ってはいけないセリフを彼女に放ってしまってしまったのです。
「………あなた、自分を勘違いしてるんじゃない?カラカラは“こどくポケモン”なんだから、おとなしく独り生きていけばいいの。ススムはあなたには渡さないよ?」
「……………なんですって!!!?」
…………その言葉にあたしは彼女を許せなくなりました。なんてひどい性格なのかと。ススムさんの前では可愛い姿を見せて、本音ではこんなことを考えてるなんて…………!!でもここで争いになってはいけない。せっかく自分の必死に自分に言い聞かせるのでした。
「ソラさん!あたしのことはいくら酷いことを言っても構いません!あなたの言うようにあたしが“トゥモロー”に加わりたいなんて言ったことが、こんなことになってるとは思います。でも今の言葉を…………ススムさんが聞いたらどう思うでしょうか?」
「え?」
あたしの言葉にハッとしたのか、我に返ったような表情をするソラさんがそこにいました。
「…………ススム」
…………私はココロちゃんの言葉で、急に自分のしたことに罪悪感を覚えました。ススムへの攻撃、そしてココロちゃんへの心ない言葉。いくら自分より彼女の方がススムと気が合っているのか気になってるとはいえ、感情任せにそれをぶつけたらいけないですよね…………。
ましてやススムの“パートナー”なんだって言うなら、彼の足を引っ張っちゃいけないのに。こんなこと彼に知られたら嫌われてしまう!
「………………」
「ソラさん?」
ココロちゃんは不思議そうに自分の姿を見ていました。罪悪感によって自分の種族、ピカチュウの持ち前の明るさから暗闇と虚無感に支配されたような表情だから、無理もないと思いますが。でもきっとそれよりもそのあとの行動の方が、彼女を驚かせたかもしれません。
「何をしてるんですか!?」
「あなたには関係ないでしょ?」
「いいえ!そんなことしてはいけません!ススムさんがガッカリすることになります!」
「そう…………」
…………必死にあたしは彼女へ訴えかけました。だってそうでしょう?公式な探検隊のシンボル、バッジ付きの青いスカーフをソラさんは外して…………更に肩から提げていた道具箱も下ろしてしまったのですから。
「だって私よりココロちゃんの方がススムと上手く出来そうだもの。私がいる方が迷惑になる。だからチームを脱退する………「馬鹿言ってるなよ!」」
「!?」
あたしもソラさんも驚いてしまいました。理由は…………もう言う必要ありませんよね?そう、あたしがもうその言動がカッコ良くて仕方ない…………“彼”がそこに立っていたのですから。
「馬鹿言ってるなよ!!自分の住んでた場所から飛び出してようやくたどり着いた夢、そんなことで諦めるのかよ!?まだ宝物だって取り返してないのに!!」
「だけど…………私はススムに酷いことしたんだよ?仲間なのにケンカして攻撃までして…………。ココロちゃんにだって傷付けることを言っちゃったんだよ?」
ぼくはまたソラに怒鳴り付けていた。彼女のことが好きで好きでたまらないのに、なぜか接する態度が厳しくなっていく…………。こんな自分が嫌で嫌で仕方なかった。勿論ながら彼女は反論する。何をやっても自分の意見を汲み取ってくれない悔しさからなんだろうけど。…………でも、どうしても彼女にはわかって欲しかった。
「だからどうしたって言うんだよ!?それでもぼくやココロの中でソラの評価が変わることは無いんだよ!ぼくはソラが探検隊に誘ってくれなかったら独りだった!キミがそんなぼくの
闇に包まれて見えない道に光を与えてくれたんだよ!?」
「あたしは…………確かにまだ出逢ったばかりで何もわからないけど、独りでいることの辛さを知っているから、二人が離ればなれになってしまう姿を見るのが嫌なんですよ。さっきまでの協力して助け合う姿…………見せてほしいんです……………」
ココロも自分の気持ちをソラへと必死に訴えかける。ぼくは更に続けた。
「ソラ。キミは昨日ぼくに言ってくれたよね。あの夕暮れに染まる海岸で。まさかもう忘れちゃったの?」
ぼくの頭の中に昨日、彼女がその言葉を伝えてくれたときの光景が浮かんでくる。一定のリズムで聴こえてくる「ザザーッ」という波の音や、夕焼けに照らされてハッキリと見えなかったけど、ニッコリと笑う彼女の姿が。
<私たち絶対良いコンビになれるよ!!さっきはあんな負け方しちゃったけれど、お互いのこと良くわからないままでも、あんなに頑張れたんだから!!よろしくね、ススム!>
「ぼくはその言葉を信じてるんだ!それに、ぼくの方こそきっとソラをガッカリさせてると思う!昨日だってドガースやズバットを前に何も出来なかった。キミの大切な宝物だって取り返すことが出来なかった!まだぼくはキミに対して何一つ出来てないんだよ!だから…………」
……………ぼくのそばから離れないで!
(ススムさん凄いな…………。自分の気持ち、あんなに強く伝えられるなんて…………)
ススムさんのその言葉にあたしはますます尊敬の眼差しを向け…………、
「え……………?」
私はなぜか顔の付近が熱くなるのを感じました。勿論そんなつもりで彼は言ってるのでは無いことは十分理解しています。…………でも、私の中で芽生えている彼への恋心を刺激するのには十分過ぎるものでした。
「ソラ!ぼくのそばから離れないで……………“いっしょにいこう”………/////!!!」
「……………////////!!!」
彼はそのように言うと、そっと私の手をとってくれたのです。まるでプロポーズをされたような気分でした。
(やっぱ…………カッコいいなぁ。良いな。ソラさんが羨ましい……………)
自分はそんな二人が羨ましくてたまりませんでした。そしてさっき「二人が離ればなれになるのが嫌だ」と、自分の本音から目を背けるような発言をしてしまったことを悔やんでいました。多分ススムさんのソラさんへの気持ちは本物じゃないでしょうか。彼の目の輝き方が今まで自分と話しかけてくれたどんなときよりも違っていたし、顔も少し赤くなっていましたから。
(そうだよね。この想いは初めから叶うものじゃないよね…………。あ~あ、あと1日早かったどうなっていたのかな?)
時間というのはときに残酷なものでした。せっかく芽生えた儚い想いも、もどかしい程に壁を作ってずっと届かなくしたり、いつまでも育たなくしてしまうのだから。
(…………でも、まだあの二人が永遠に結ばれた訳じゃないんだから。諦めちゃダメよ、ココロ。なんとかソラさんに負けないようにしなくちゃ!)
一足先を歩く二人からやや遅れたあたしも………小さく気合いを入れてから「待ってー!」と、あとを追うのでした。