HR33:「主人公が目立たない33話目」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 やれやれ。ポジションが決まったのは良いとして、僕とピカっちの関係が変な風にクローズアップされちゃってるや。参ったなあ、気になって練習に身が入るか心配だよ。


 「それじゃあ内容を改めて。この練習ではキュウコン監督が“ノック”を行います。内野のみなさんはゴロやバウンドでボールをキャッチしたら一塁に投げてくださいね。ノックをした瞬間、ランナーとして監督の“みがわり”が一塁に向けて走りますから気をつけてくださいね」
 『はい!!』
 「外野のみなさんは大丈夫ですね!普通の試
合のような動きをして構いませんので!」
 『OK!!』
 「複数の選手が守っているポジションでは、無事にボールをキャッチしたら次々にチェンジしてくださいね~!」


 練習前にシャズ先輩から簡単な説明が行われた。グラウンドに散らばったメンバーの表情が自然と引き締まる。経験者なメンバーでもそんな感じなのだから、未経験者なメンバーはますます表情が固いものとなってしまう。


 ちなみに余談だが、この“ノック”という練習方法はピッチャーはバッターに向かって直接投げない。その代わりバッターが自らボールをお手玉のように、ポンと軽く手元で投げて(この投げ方を“トス”って呼んでいる)打ち返す………そんなスタイルで行う。


 「緊張するなぁ………」


 ………とまあ、僕は自然と体が震えていた。昨日初めてキャッチボールをしたり、バッターボックスに立ったときの緊張感とはまた別物。いくら深呼吸をしても、自分に「大丈夫だ。しっかりするんだ」と言い聞かせても全然落ち着かない。どうすれば良いんだ。


 「カゲっちくん?最初は僕の動きを見ていてね」
 「え?…………あ、うん!」


 リオから声をかけられてもこの調子。完全に上の空になっている。この練習は同じポジションに複数の選手がいる場合、どちらか一方は背後からその動きなどを見ている………みたいな流れだった。もちろんプレーの邪魔にならないように距離を取ってね。


 「それでは練習始めますよ~!!」
 『オーーー!!』


 シャズ先輩の呼び掛けに改めて全員が力強く返事をする。いよいよ練習開始だ。最初はどこにボールが飛んでいくのだろうか。ますます緊張感が高まる。


 そんななか、これまでのように表情を一切崩さずにキュウコン監督がボールを上空に向けて軽くトスする。そして手にしていた黒いバットで、落下してくるボールにタイミングを合わせてスイングした。


    カーーーン!
 「…………ショート!!!」
 「よっしゃ!!オーライ!!」


 ボールが弾き返された瞬間、キャッチャーのラプ先輩からショートを守るブイブイ先輩に向かって指示が飛んだ。打球は地を這うような強いゴロ。指示を受けた彼はそのボールを体の正面でキャッチ出来るように回り込む感じで走っていく。こうすることで万が一キャッチし損ねてもボールが前に落ちるように出来るのだ。


 「行くぞ!ルーナ!」
 「来い!ブイブイ!」


 無難にボールをグローブに収めたブイブイ先輩。それを右前脚でしっかり掴むと、一塁ベースを右足で踏んで、体や赤いファーストミットをはめた右手を自分の方へ伸ばしてくれているファーストのルーナに向けて投げた!!


  パシッッ!!!
 「よっしゃ!!アウトにできたー!!」
 「飲み込み早いな!その調子!!」


 キュウコン監督がノックした瞬間に走り出した“みがわり”。それが一塁に到達する前にボールはルーナのファーストミットに収まった。これでアウト成立ということになる。
 初心者らしかぬ積極的な姿勢と、種族ゆえの身軽さを活かしてのブイブイ先輩の守備に「ナイスプレー!」「良いぞー!!」というように、各ポジションに散らばったメンバーから彼を盛り立てるような声が飛び交う。


 「へへ!どんなもんだい!!頼むぞピカっち!」
 「えっ!?あ、はい!」
 「緊張してるのか?大丈夫だって!君なら出来る。がんばって」
 「あ、は………はい。ありがとうございます………」


 それらの声を聞いてブイブイ先輩はドヤッと言わんばかりに胸を張る。そして背後で見守っていたピカっちに“バトンタッチ”という感じでチェンジした。急に声をかけられてビックリしたのか、ピカっちは慌てて彼と場所を変わったのである。


 (ブイブイ先輩、なんだかピカっちに馴れ馴れしいなぁ。ピカっちも困ってるじゃないか。僕だってそこまでベタベタしないぞ)


 僕はブイブイ先輩になんとなく嫉妬心を抱いていた。自分にはない堂々とした姿、軽いフットワークでピカっちをフォローしている姿に。別に彼女とは正式な恋人関係じゃないけど、今までずっとそばにいたりして彼女から安心感を貰っていた僕としては、自分以上に馴れ馴れしくされるとなんとなく悔しい。


 (本当はカゲっちくんやチコっちちゃんも一緒のときが良かったけど…………でも、ちゃんと出来ると良いな…………)


 そんな僕の気持ちなんて知らないピカっちは、ただひたすらに緊張と不安と向き合うことになった。


 











 ちょっと練習から脱線したけど、話を先ほどのブイブイ先輩の守備をこなしたシーンに戻そう。実は打球が飛んできた瞬間、彼だけでなく他のメンバーも様々な動きを見せていた。



 まずサードのチック先輩。彼は打球が飛んできた瞬間、ショートのブイブイ先輩のそばに近づいていた。これは“カバーリング”という技術で、万が一ブイブイ先輩がボールを掴み損ねても………つまり“捕球エラー”をしてもすぐさまフォロー出来るように準備していたのだ。


 “カバーリング”という意味ではレフトのラージキャプテンも若干ではあるけども、ショートとサードの背後に動いていた。今回はブイブイ先輩も比較的キャッチしやすい打球だったため、そこまでピリピリする場面でもなかったが、ショートとサードの間………つまり打球が三遊間を真っ二つにしたり、三遊間が打球を掴み損ねて万が一外野にボールが転がってしまってもそのボールをすぐさま内野に戻せる準備をしてるのだ。


 ……………なぜって?その理由は簡単。ランナーは相手チームがもたついてるのを確認すると、次の塁を狙ってくる。つまり守っている自分のチームは余計ピンチに陥ってしまうことを意味しているのだ。それを防ぐ意味でも外野手のカバーリングは大事になるんだ。まあ、これもリオから聞いたことだけどね。


 キャッチャーのラプ先輩はファーストのルーナの背後へと動いていた。これはルーナがブイブイ先輩からの送球をキャッチし損ねたとき…………つまりショートの“送球エラー”や、ファーストの“捕球エラー”に備えてのカバーリング。同じ理由でライトのラッシー先輩もルーナのカバーリングに向かう。もちろんラプ先輩と交錯しないような位置に向かって。


 次にセカンドのリオ。彼女は打球方向を確認しながら二塁ベースへと向かっていた。これはファーストのルーナがキャッチし損ねたときに、一塁ランナーが二塁に向かって走ってきたときを想定してのカバーリング。自分の方へファーストかキャッチャー、あるいはライトからボールが飛んできた際、それをキャッチしてなおかつランナーにタッチしなきゃいけないからだ。
 もちろんランナーも二塁が間に合わないと考えたら一塁へと戻ろうとする。その際、一塁ベースにカバーリングに入った選手へ送球することも想定しなければいけない。


 今回のパターンで一番複雑な動きをしているのは、もしかしたらセンターのジュジュ先輩かもしれない。彼はまずレフトのラージキャプテンと同じように、三遊間のエラーなどに備えてカバーリングへと向かおうとする。それから何語もなくショートのブイブイ先輩がファーストのルーナへと送球したら、二塁ベースに入ったセカンドのリオのカバーリングへと向かったのである。
 ここでもし一塁へとランナーが戻ったりしてセカンドのリオが二塁ベースから離れたりしたら、二塁ベースに入ることまで考慮する必要性があるのだ。


 ……………とまあ、たった1球、たった1シーンでこれほどの動きが生じる。作者さん的には文字数が稼げてラクなのかも知れないが、ひとつひとつをナレーションしないといけない僕は大変だ…………。でもそんなこと言ったら、作者さんは頬っぺたつねるだろうし、某チコリータからは「男なんだから我慢しなさい!」と、“はっぱカッター”が飛んでくるだろうから静かにしてよう。読者の皆さんも僕のこのボヤき、みんなには内緒だよ?



 「次、行くぞ」


 あんなにグラウンドが盛り上がっても、キュウコン監督は一切感情にアクションを起こさなかった。淡々とした様子でこのように呟くと、再び自らトスしたボールをバットで打った!!


   コーーーン!!
 「………サード!!」
 「やった♪ボクの出番だよ~!」


 次に打球が飛んできたのは三塁ベース方向。ラプ先輩からの指示の声が飛ぶ。それを聞いたサードのチック先輩が、緊張感や不安とは全く無縁な笑顔で突っ込んできた。


 …………というのは監督がボールを叩きつけるようにスイング(バットを振ること)したこともあってか、先ほどと違って今度は打球も弱く、その代わりに高く弾む……………いわゆる“バウンド”という状態になっていた為である。そんな状態で一塁に向かって走っている“みがわり”をアウトにするには、ボールを待ってキャッチしてから送球するというプレーではとても間に合わない。だからチック先輩はボールに向かって無心で走ったのである。


 「え~っと…………こういうとき、私はどうするんだっけ…………?」
 (ピカっち…………)


 その頃ショートを守るピカっちはというと、若干パニックになっているのか、その場で何も出来ずにオロオロとしていた。本来ならば彼女はチック先輩が捕球エラーをしたときにカバーリングして、彼の代わりに一塁へ送球する………という役目なのだが、恐らくそこまで考えている余裕は無いだろう。


 僕はそんな彼女の姿がつい心配になってしまう。しかし今はそんな彼女のそばにはいない。だから優しい言葉で励ますことすら出来ない。今まで幼なじみとして過ごしてきた時間の中で、最も距離が離れてると思う。しかも今は練習中だ。自分勝手に動くことすら許されてはいない。


 (歯がゆいなぁ………。いつも助けられてばっかりのピカっちに何も出来ないなんて…………)


 僕は思わずギュっと手を握る力を強くしていた。今はただ心の中でピカっちに「がんばれ!」と励ますことしか出来なかった。


 ……………と、そのときだ。
 (あっ!!ブイブイ先輩!何してるんだ?)


 僕は再び嫉妬心を抱くことになった。何故ならピカっちと交代したブイブイ先輩が彼女の近くに寄り、肩をポンと叩いたのだから。それだけなら多分何かアドバイスを送っているんだろうと思える。しかし、問題はそのあとだ。彼女が背後を振り向いたときにその手を握り締めて、しっかりと励ましている姿が目に入ったのだから。しかもその言葉を受けているピカっちが、若干赤面して嬉しそうに笑顔を浮かべながら頷いてる姿まで捉えてしまったら………………幼なじみとして嫉妬心を抱かない方がおかしいと思う。


 (ブ………ブイブイ先輩になんかに、ピカっちを取られてたまるもんか!)


 僕はなぜここまで嫉妬心を抱いてるのか、自分でもよくわからない。いや、わかっている。恋心とかじゃなくて僕の心境的にはただ、自分のことを“あの事件”から…………幼なじみとして、友達としてずっと支えてくれたピカっちを失うことが怖かったからだと思う。それに…………、


 (…………昨日観た夢のこともあるし。あのタイミングでなぜそれを観たのかよくわからないけど、ピカっちといれば何かわかる気がするんだ…………。だから…………)


 …………だから僕にはピカっちが必要なんだ。








 結局そのサードへのバウンドはチック先輩が上手くキャッチ、そこから一塁へ送球してアウトが成立した。やはり経験者ってこともあって動きも軽い。周りのメンバーの拍手や声を浴びながら、彼は「がんばって♪」と笑顔でひと声かけると、ララと交代したのである。


 「次、行くぞ!」


 選手交代が終わるのを確認すると、キュウコン監督は再び軽くボールをトスする。それを見たメンバーがリラックスして立っている状態から、スッと中腰体勢をとって気持ちにスイッチを入れてみる。もっとも四足歩行系統の種族にはこの動作も必要が無いので、代わりに彼らは利き手にはめたグローブを強く握ったり、あるいは地面を軽く蹴ってみたりして、気持ちにスイッチを入れているようだが。



   カーーーン!!!


 次の打球は内野を守るメンバーの頭上を遥かに越えて、大空に向かって飛んでいった。


 (この辺だな。余裕だ)


 素早くボールの落下点に到達したのはセンターのジュジュ先輩。特に戸惑うこともなく、慣れた様子でボールを鮮やかな緑色のグローブに収めると、そのボールを内野へと返球した。このようなフライなどの場合、打球が一度もバウンドしていないため、キャッチした時点でアウトが認められる。周りから拍手や自分を盛り立てるような声が上がっても、彼は特に大きく表情を崩すことはない。背後にいるラビーに「頑張るんだよ」と一声かけて、静かに選手交代するのであった。ラビーは小さく頷くのみ。少々不機嫌そうに彼がいた場所へと向かうのであった。


 ここまで3本ノックが終了した。少しずつ新入部員の緊張も解れて来てるのを感じる。無論ボクだって。


 (早く出番にならないかな!ウズウズしてきたよ)


 再びキュウコン監督から「次、行くぞ!」という声がかかる。周りのメンバーが「こーい!!」と、大きな声をあげる。ボクもリオのプレーに邪魔にならないような場所へと多少動く。そこから彼女のプレーを参考にしながら、自分の出番が来た時でも焦らないようにイメージを重ねていく。


 「また外野だ!」


 先ほどショートゴロを捌いたブイブイ先輩が叫ぶ。「カーーン!」という快音とともに打球がまたグングンと大空へと伸びていく。


 「うちが捕らなきゃ!!でも間に合うか!!?」


 ラビーがキャッチをしようと打球を追いかけるが、微妙なところ。野球をするのが初めてな彼女にとって、遠く離れた場所から飛んでくる小さなボールが落下してくる場所を瞬時に判断するのはまだ困難だった。それでも懸命に追いかける。周りが全員3年生という外野手レギュラーの視線、そして自分を野球部に誘ってくれたルーナのことが気になるが故に。


 (ブイブイならわかってくれるだろうけど、うちらのせいでルーナがあれこれ言われるのは頂けないからね!競技が変わろうと全力プレーは変わらないよ!!)


 果たして、ラビーは打球に追い付くことが出来るのだろうか。守備練習はまだ始まったばかりだ。


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