14Days:「離れたり近づいたり~しめったいわば#6~」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 あんな些細なことでカリカリしちゃうなんてぼくもダメだな。ソラのことも傷つけてしまったし。“スペシャルリボン”を付けたときにちょっとからかって無理やり元気付けたけど、それで全て元通りって訳にもいかないだろうな、きっと。


 「あの…………さっきはゴメンね?」
 

 突然ソラが謝ってきた。ここは地下5階。あのあとぼくとソラは無事に階段を発見した。もちろん喜びのハイタッチを交わしたのだが、少々控えめだった。その前の出来事が尾を引いているせいで、お互いにまだ気まずい雰囲気だったのである。恐らく彼女はそのことを気にして自責の念に陥っているのかもしれない。


 「さっきのこと?気にしなくて良いよ。ソラのせいだけじゃないし。ぼくだって強く言い過ぎたんだから」
 「でも…………私がしっかりしてなかったから、せっかくの楽しい雰囲気を壊してしまった………」


 困ったもんだ。自分がどんなに語りかけてもソラは自己嫌悪を心の中からどかそうとしない。ぼくは思わずやれやれと呆れ半分頭を掻いてしまった。まあ、元々は自分が悪いんだけどさ。でも、なんだか少しイライラもしてくる。ソラ自身は周りのことを考えてるつもりなんだろうけど。女の子ってこういうところが本当にめんどくさい。ぼくは溜め息をつきながら彼女に告げた。


 「気にしたって仕方ないだろ。ぼくが良いって言っているんだから、それで済めば良い話じゃないか!そんなことで悔やんでる時間があるなら、他にもっとすべきことがあるだろう!?」
 「!!…………そうだよね♪」


 一瞬、彼女は小さな黒い瞳を目一杯真ん丸にさせた。そこからまた哀しそうな表情へと変わり、直後に笑顔へと持ち直した。きっとぼくの言葉の深意を悟って無理やりに作った笑顔だろう。それでもいい。やっぱり彼女には笑顔でいてほしいから。些細なことでスタートした小さな亀裂のせいで、負担をかけてしまうことになるけど。


 「さ、グズグズなんかしていられないよ。目的の地下7階まであと一息だ。だから良い?がんばるよ!」
 「うん!」


 ぼくの言葉にソラは力強くうなずいてくれた。自分も先ほどの反省、そして戒めとして彼女の前では自分の本音がどうであれ、元気で笑顔で居ようと決めた。そして彼女と一緒に“トゥモロー”として行動するときは楽しそうにしようと。


 そうすることで自らの不安な気持ちを振り払おうと考えたのである。アノプスやアーマルドと対峙したときの言動が自分の本当の姿なのではないのか…………という不安から。ソラにも少しだけそんな感じの………荒々しい雰囲気で接してしまったし。その不安でどうしようも無い感情を消すためにも、ソラのように探検活動を楽もうとする姿勢を参考にしなきゃいけない…………と、自らの心に圧力とプレッシャーをかけることにした。


 例えそれが作り物の姿だったとしても、自分のその姿を観てソラが安心できるのであれば………きっと自分はその道を選ぶだろう。やっぱり好きな子にはずっと笑顔でいてほしいから………。


 そんな気持ちを背負いながらぼくは道を歩く。目的地は近いのだ。ちょっと自分たちにトラブルが発生したとはいえ、今さら戻るわけにはいかない。
 しかしそんな想いも虚しく消えていった。と言うのも、いくつか広めのフロアを越えたときに行き止まりが生じた為である。しかも行く手を阻んでいるのはゴツゴツした岩………ではなく、ピンク色の大きな花のようなもの。一体これは…………?


 (何だろう。よくわからないけど………とりあえず花であれば、ぼくの炎で焼き切れるハズ!!えーい!!)


 ぼくはその謎の花に向かって“ひのこ”を飛ばしてみた。そこまで距離が離れていなかったこともあって、見事に技は命中。簡単に道は出来るだろうと思われた。…………しかし、ここからぼくたちには新たな戦いが待っていた。






 「!?なんでだ!?“ひのこ”が効かない!」
 「?」


 一瞬ぼくは動揺した。目の前にある花のような物体に炎をぶつけても何も変化が生じなかったのだから。自分の技の火力が落ちたままなのだろうか?いや、そんなはずはない。ソラが言うには一度落ちたステータスも、階段を昇ったり降りた時点で元に戻るというのだから。………だとすれば一体どんな理由があるのだろうか。


 「ススム……………。もしかしてこの“花”って………ポケモンかもしれない」
 「え!?本当に?」


 そのときだ。恐る恐るソラが話しかけてきたのは。“ポケモンかもしれない”という言葉に再度驚いてしまったが、そこは気持ちを落ち着かせて彼女の話に耳を傾けることにした。


 「うん、何となくだけど………見覚えがあるんだよね」


 彼女は自信なさげに答えた。いや、そうではない。何となくだけど自分のことを警戒してるのか、一歩引いたような………どこか余所余所しい雰囲気をぼくは感じたのである。さっきまでだったら手放したような笑顔で話しかけてきただろうに。でも、彼女をそんな風にさせたのは誰でもないぼく自身である。


 (まあきっと、ぼくの思い込みだろうけどね。ぼくも過敏になりすぎてるのかもしれない。こんなことじゃダメだ。ソラに対して“気にするな”って言ってしまった以上………自分もそれを実行しないと…………)


 ぼくは拭いきれない不安を無理やり振り払った。怖いのかもしれない。好きな子が自分の些細なミスで離れてしまうことを。だからこそ不安に感じることを深く考えるのをやめて、彼女の話に耳を傾けることを続ける。


 「一体………どんなポケモンなの?」
 「リリーラだよ………ウミユリポケモンって種族の」
 「その通りです」
 『!!?』


 背後から声がした。思わずぼくもソラも背筋がピンと張ってしまう。落ち着いているけど、冷徹な雰囲気を感じるその声。この場に他のポケモンがいないことを考慮すると、この声の正体は…………。


 「何を驚いているのです?特にそこのヒトカゲさん。あなたが悪いのですよ。意味もなく私に向かって攻撃をしてきたのですからね!!」
 「ぐあああああ!!」
 「ススム!!!何するのリリーラ!?ねぇ、放してよ!!!」


 一瞬の隙をつかれてしまった。リリーラがぼくに“からみつく”。ソラの悲痛な声が耳に届いた。そうか、あの花びらのように見えた部分は触手だったのか。これは迂闊だった。それじゃあ炎をぶつけても焼き切れるわけないわけだ。これで理屈が合った。しかしまあ、これからどうしたものか。


 「ぐううう!!この野郎………!!放せぇ………」


 ぼくは懸命に足をバタバタさせる。口を開いて何発か“ひのこ”を飛ばした。だが、いわタイプも混ざっているリリーラ。それもあってか、なかなかダメージが蓄積されているように感じられなかった。そればかりかぼくが抵抗すればするほど、絡み付くのがより強くなっている感じがする。圧迫感が酷くなる。


 「まだまだ。これでは終わりませんよ?」
 「え?」
 「“しぼりとる”!!」
 「うがあああああ!!」
 「ススム!!!!」


 ぼくはじわじわと体力をリリーラに奪われる感覚を覚えた。なんと表現して良いのかわからない。でも更にピンチを迎えているのは確か。だんだん声を出すことすら辛くなっていく。


 「ソラ…………うぐ!………」


 ぼくは視界にボンヤリと浮かんでいるソラに助けを求めた。とはいえ声を出すことすら難しい状況。そのためゆっくりと右手を伸ばすことで自分の意志を伝えようと試みる。








 「ススム!!!放してよリリーラ!!“でんきショック”!!!」
 「…………面白くないですね」


 私は目の前で苦しむ“友達”を助けるべく、赤いほっぺたからバリバリッと電撃を発射しました。ドーンという音を立てて、見事に技はリリーラへと命中。その結果ススムを拘束していた触手も離さざるを得なくなり、一言面白くなさそうに呟いたのでした。


 「やった!!ありがとう、ソラ!助かったよ!!」
 「え?…………う、うん///////。どういたしまして♪大きなケガも無さそうで良かったよ!」


 彼は久しぶりに満面の笑みで、自分のことを褒めてくれました。その嬉しさと恥ずかしさで私はちょっぴり恥ずかしくなり、一瞬顔が赤くなってしまったかもしれません。だって、好きな人から褒められるなんて、これ以上に嬉しいことはないから。でも、今はまだちょっとすべてを受け入れるには早すぎる。だからその気持ちを隠すため私もニッコリと笑って、彼の無事を喜んだのでした。


 …………しかし、彼の表情は途端に厳しいものへと変化したのです。


 「ソラ、危ない!!」
 「えっ?」
 「くそッ!!ぐあっ!!」


 私はススムのことで頭がいっぱいで、すっかり油断していました。そのせいで彼がまた自分から少しだけ遠くなることを知らずに。


 「はぁ………はぁ…………大丈夫………だった?ケガとかしてない?」
 「ススム…………」
 「……………は!?あっ………ゴ、ゴメン!!!そんなつもりはなかったんだ!!」


 ぼくはリリーラが繰り出した“いわなだれ”からソラを庇おうと、自分の身を投げ出して飛び込んでいた。少し体が汚れてしまった程度で、なんとか自分も無傷で済んだ…………そこまでは良かったのだが、無我夢中だったため気がついたらぼくは彼女を強く抱き締めていて………しかも目と目を合わせて見つめあっていたのであった。しかも赤面して涙目。これは完全に嫌われたかもしれない!


 …………何やってんだ、ボクは!!


 ……………違うよ、ススム。ゴメンね、勘違いさせちゃって。


 私はそのままの方が良かったのかもしれません。だってさっきの出来事で彼のこと、少しだけ本当は怖い人なのかもしれないって簡単に判断してしまったのですから。でもやっぱりそれはきっと思い違い。だって本当に怖い人だったら、自分の身を呈してまで相手を護ろうなんて考えるでしょうか。それに強く抱きしめられていたときのあの温かさ。久しく忘れていた安心感そのものでした。


 ……………夢を叶えるために払った代償。今の自分には一番遠くて、だけど一番求めているもの。それをなんだか思い出しそうだったから、彼が離れていくような今の出来事にちょっぴり寂しさを感じたのです。


 「あああああああああああ!」
 「うるさいですね。でもこれは私には大きなチャンス…………!もう一度“からみつきます”よ!」
 「そうはさせないよ!!“アイアンテール”!!」


 ススムの混乱に乗じて再びリリーラは拘束しようとしていました。その事に気付いた私はそうはさせまいと咄嗟に跳び跳ね、花びらの部分のようになっている頭部に向かってしっぽを叩きつけたのです。それも岩石に近い性質を持つ堅い体質でも関係なくダメージを与えられるように、技エネルギーを利用してしっぽを鋼鉄のような性質に変換させて。


   ガツン!!
 「きゃあああああ!!」
 「え!?」
 「やった!!」


 直後にバトルの決着はついた。彼女が無心で繰り出した一撃は見事にリリーラへと命中。結果的にそれが決定打となり、リリーラもその場に倒れたのである。


 「……………うかうかしてられないよ。先に進もう」
 「え?うん…………」


 ぼくはすぐに彼女の手を取ると、倒れたリリーラの体の上を登り下りしてその先にある道を急いだ。本当はそのような失礼なことをすべきではないってことくらい、自分でもよく理解している。表情を見る限りソラだってきっと嫌だろう。でも今はそんなことを言えるだけの余裕は無かった。自分たちに与えられた役目を全うしなければいけないのだから。この相手ポケモンを踏みつけてまで進まないといけない体験も、一流探検隊を目指すうえでの修業のひとつなんだと、そうやって言い聞かせるしか無かった。


 (カッコいいな…………)


 そんなぼくたちの後を追うポケモンがいることも知らずに………………。








 「ところでさ」
 「どうしたの、ススム?」


 その地下5階の冒険もかなり進んだ頃、ふとぼくはソラと話したい気分になった。別に話題は特に無かったんだけど。彼女にはそんなぼくの気持ちは伝わっていないだろう。それまで話しかけられたときのように、ただニッコリと笑って反応するだけであった。


 「ソラの家族とか友達って何してるの?」
 「え?」
 「いや、なんとなく…………。ほら、ぼくはさ元々人間だから…………この世界に家族も友達もいないから…………ソラの家族や友達はどうなのかなって。別に答えにくかったらいいよ?」


 手をつないで歩くソラは、自分の質問になんとなく答えにくそうにしていた。その様子を気遣ってぼくはなんだか変な動きを見せてしまう。ぼく自身そんなことを聞いて何も得することは無い。自分自身、なんでこんな質問をしてしまったんだろうと不思議でたまらなかった。


 「クスッ。ススムってさ、変なこと聞くんだね?」


 彼女はそんなぼくの姿に小さく笑った。そりゃあそうか。普通ならもっと別のなんか楽しそうな話題を聞くだろうし。


 「私の家族や友達は………ずっと離れた場所で暮らしているんだ。平和にのんびりとね。森の中で争いをすることもなく………ただのんびりと」
 「のんびりと…………」
 「ウソだって思ってる?」
 「そんなことないよ!馬鹿正直なキミに限って変なウソはつかないだろうし…………」
 「それってかなり私のこと馬鹿にしてるよね…………」
 「あ…………。すみません」
 「アハハハ」


 自分の何気ない一言で、ぼくと手をつなぎながら歩くソラは若干膨れっ面になった。それを見て、ぼくは慌てて彼女に謝る。そのオロオロしている姿に彼女が再び笑いだす。なんなんだこれ。


 「私はそんな環境があまり好きじゃなかったの。不満ではなかったんだけどね。みんな仲良くしてくれるし、お母さんもお父さんも愛情たっぷりに育ててくれた。でも、なんだか物足りなくなって………」
 「それでいつしか外の世界に憧れを求めたってわけ?」
 「ざっくり言うとね。探検隊ならきっとその憧れも自分のものに出来るかなって思ったし」
 「ふーん…………」


 一緒に歩きながらちょっぴり恥ずかしそうに、苦笑いを浮かべながら自分の話をしてくれるソラ。確かに平和な環境というのは何でも満たされていて、命や生活が危険にさらされることも何も無い。逆に言えば全ての未来が決まりきっているような……………そんな身動きのしにくい世界でもあった。



 「でも反対された。女の子だからって理由で。ほら、探検隊って危険なことが多いし。当たり前のことなんだけどね。だから女の子に生まれてかなり損した気分にもなったよね。私がもし男の子だったらみんな喜んで背中押してくれただろうし、現にそんな友達も見てきたから…………。ちょっぴり女の子に生まれたことが悔しかった」
 「なるほどね、それで自らひとりで出てきたんだ?」
 「簡単に言えば…………だけどね。でも時間が経つに連れて自分って恵まれていたんだなって感じたし、ひとりでいることが寂しかったし、自分って想像以上に臆病なんだなって…………」
 「ギルドの入門ひとつさえも怖がっていたもんね?こんな体をブルブルさせて」
 「もう!!それってどういう意味!?」


 ちゃかすぼくにソラは再び膨れっ面。でも少しだけまた彼女のことを知れて良かった気がする。疑問は残ったけど。


 …………果たして彼女は、ぼくと出逢えて良かったのだろうかと、果たして彼女はぼくと過ごす時間を…………表面上では無く、心の底から楽しいって感じているのだろうかと……………なぜかそんな疑問や不安が自分の気持ちを支配していた。



           …………15Daysへ続く。