24歳のクリスマス

彼を追いかける日々が終わった

あの時わたしを見つけてくれた彼は
もうここにはいない
あの時彼に付いていったわたしは
もうここにはいない

同じ道を歩んできたつもりだったけど
きっと交わる事ができたのは
あの一瞬だけだった

X線のように
その先で交わることはなかったのに
Y線を辿っているかのように
互いを誤摩化していた

もしかしたらなんて
誰にもわからなかったから
この長い時間を
互いに責めることもなかった

でも、大きく開いてしまったX線を
誤摩化す事はもう限界だった

受け入れる時期だったんだと思う

皮肉な事に仕事は互いに順調で
周りからは、何故別れるのか意味がわからないと
言われたりもした

10年以上一緒だった彼は
本当の家族みたいなもので

悪戯っこみたいな笑い方や
次に口にする言葉
嘘をついている時の顔に
困った時におでこをかく癖

近所の犬に噛まれた傷跡まで知ってる

こんな日がくるなら
あなたに恋をしなければよかったのかな?

泣かないって決めてたのに
互いに涙を止められなかった

どうして別れる時には
いい思い出ばかり思い出すんだろうね?

やっぱり恋をして
幸せだったよ

あなたがいたから
今の私があるんだし

そうは思っても
心に空いたデッカいクレーターは
なかなか埋まりそうになくて

情けないけど
思いっきり縋り付きたかった......

私を抱きしめてくれたこの腕も
私を呼ぶ声も
私が作ったご飯をバカみたいに食べる顔も
私がコケるからって差し伸べてくれてた手も

全部....ぜんぶ
無くなってしまうんだね

発狂しそうな中で、ふと彼の言葉を思い出した

「バカな女だけにはなるなよ」

泣いてるのに笑いが込み上げてきて
最後の大芝居

「もう十分だよ、今までありがとう」

彼の部屋に合鍵を置いて、その場を離れる事ができた

涙が止まらない
息が苦しい

きらびやかだった東京の街が
暗黒に見える

もうひとりぼっちじゃないのに
私の中のあなたの居場所は
他の誰にも埋められないんだって
思い知らされた


でも、もうおしまい


間違いなんて何もないはずだから......





































彼は増々、脚光を浴びていった

幼い頃からの夢以上のものを
手にしていたのだろう

名誉 脚光 自尊心

一見、自信に満ち溢れていた....

けど、その影で
葛藤している心が
抱かれるたびに伝わってくる

どんな世界でも同じだろう

脚光を浴びるということは
いつまでも続かない

必ず終わりがきて
そこから先も歩いていかなければならない

自尊心の強い彼は
それを言葉にする事は無いと解っていたから
私から聞くことも、話題にすることもなかった

それでも、伝わってくる
夢を叶えたはずなのに
その先の闇の不安が.....

夢を叶えたからといって人生が終わるわけじゃない


一度でも甘い蜜を吸ったものは
それ以上を求めてしまう


まぁ、何とでもなるさ

たまにそんな事を口にしていたけど
そんな時、
女よりも男の方が脆いという事を
幾度となく目にしてきたから
心からの本音ではないとは感じていた

こんな時、どうしてあげればいいのだろう?

変に気を遣えば、彼の自尊心を傷つける
彼が決める事なのだから
その時、黙って側にいればそれでいい
それ以外何の術もないだろう
あとは、それを掻き消すようなセックス


そんな想いとは裏腹に
彼の姿を私は、反面教師にするかのように
着実に繋がっていくものばかりを選択するようになっていった

眩しいような光を浴びる事はないけれど
突然、闇の中に放り出されることもない


光を浴びる者
見限られて捨てられる者
そして
また新しく光を浴びる者がやってくる


それを横目で見ている


慣れれば慣れるほど
それは冷酷に...残酷に....

そんな仕事をしている人物に言われたことがある

甘い蜜を吸えるのはね
あの子の存在を
バックアップしているからなの

悪い言い方をすれば、操作している
あの子は「あやつり人形」と同じ

価値が無くなればゴミのように
捨てられる

人生はそんなに甘くない


縁の下の力持ちとは良く言ったものだ

決して知名度があるわけではないけれど
打算的で最終的に笑ってるんだろうな......


汚れていると
そう言って逃げてく者たちもいたが
私はそんな人間を
賢くて魅力的で
私もそうでありたいと
思うようになっていった

仕事に没頭してゆく中で
増々人脈は広がってゆき

彼と連絡が取れなくても
彼がどこかで誰かを抱いていても
平静でいられた

「いい目してる」

色々な場所でそう言われる事が増えてゆき
仕事にもやりがいを感じていた

これといった夢もなかった女が
ただ、彼の後ろを追いかけ続けていた女が
足掻き続けて、やっと小さな光を掴みかけていた


でもそう思った時には
原点の欠片を失ってたんだ


「おまえ、どんどん遠くなってくな」


久しぶりに逢って
彼が呟くように言ったその言葉に
胸をえぐられるようだった

何言ってんの?
あんたがこんな私にしたんじゃない.....

いや、違う
全ては私が選択してきたんだ


でも、私はどうしたらいいかわからなかったんだよ


部屋を出てゆく彼の背中を
ただ呆然と見送った

別れの言葉じゃなかったけど
きっとこの時に
別れるまでのカウントダウンがはじまっていたんだと思う












 












































管理栄養士の資格を取ったからといって
スポーツトレーナーになれるわけではない

就職先などは主に、病院や学校
または開発などの会社関係が主だった

特殊な仕事というのは
「コネクション」がついてまわる

それは時として金であり
人脈がものをいう

私にはそんな金はない
そんな産まれなわけでもない

例えば彼から人脈を分けてもらう
できない話ではなかったが
そんな事は一番自分的に受け入れられないことで

今思えば、この大学生活の中で
勉強よりも没頭していたのは
人脈集めだった

どこにでもいる
田舎の女が
必要とされる特別な人材になる為

人脈は最大の武器となる

ありとあらゆる知識だけを詰め込んで
自分を売り込んでいく

そんなものを得る為の恰好の場所のひとつとなったのが
クラブという夜の水商売の世界だった

大学は入ってしまえば
かなり時間に余裕のある場所で
それはかなり都合が良かった

彼が東京で夢を叶えていたから

私も次へ行く場所は東京だと
おのずと決められていた

東京は住むところじゃないって言う人がいる

でも、私にとっての東京は
この上なく居心地のよい素晴らしい街だった

変なやつがたくさんいて
普通という言葉なんてもんが存在しない
知らないやつにはとことん冷たくて
殺伐とした空気が心地いい
嘘という名の仮面をまとった人種が
ゴロゴロしている

ちょっと変わってる?
っていう方が評価されたりして
そんな人間達と出逢うことで
癒された
そして、彼らに私は活かされた

でもそこから先は
能がなければ、容赦なくぶった切られる

頭をつかい
ここで生き残るんだ

冷めてる中のギラギラとした空気に
挑発されているようだった

大学生生活の中で
私が用意した物差し


管理栄養士と調理師の資格
ソムリエ

NYで覚えた英語
イタリアで覚えた料理と語学


クラブでナンバーワンという地位


一体何者だよ?
自分でもそう思う
よくそこまで没頭できたなと....
これが若さゆえの
無知のパワーなのだろうか

興味のないところには全くといっていいほど
努力という言葉の欠片もなかったが

興味のあるものには
努力という言葉というよりも
依存するように没頭していった


でもその影で
本当はわかっていたんだ

これだけ何かに没頭してたのは

どんどん遠くなってゆく
彼への焦りと不安

ありのままの自分っていうものが
わからなくなっていた

何も持たない私は
何の価値もないんじゃないだろうか?

ものすごい背伸びをして
それを悩む時間を必然的に避けて

自分さえも
一体何者なのかわからない自分を
作り上げていった

そしてそんな自分を
面白いと思ってくれる人達がいたのが
東京という場所だったから
そんな自分を増長させていった....


きっとこの頃から
私と彼はすれ違っていた


彼の呪縛から逃れるように
他の事に没頭して
それが皮肉にも
彼との距離を広げてしまっんだ

どんな時でも
一番に想ってたんだよ

でも、いい女ってあなたが言った
その言葉の呪縛に

バカな私は
はき違えて、方向不明になってしまった


スポーツトレーナーを目指していた18の頃

21歳になった私は
フードコンサルタントという
他の職業の道を選んでいた

華やかな場所の裏の世界に
惚れてしまったから