彼は増々、脚光を浴びていった

幼い頃からの夢以上のものを
手にしていたのだろう

名誉 脚光 自尊心

一見、自信に満ち溢れていた....

けど、その影で
葛藤している心が
抱かれるたびに伝わってくる

どんな世界でも同じだろう

脚光を浴びるということは
いつまでも続かない

必ず終わりがきて
そこから先も歩いていかなければならない

自尊心の強い彼は
それを言葉にする事は無いと解っていたから
私から聞くことも、話題にすることもなかった

それでも、伝わってくる
夢を叶えたはずなのに
その先の闇の不安が.....

夢を叶えたからといって人生が終わるわけじゃない


一度でも甘い蜜を吸ったものは
それ以上を求めてしまう


まぁ、何とでもなるさ

たまにそんな事を口にしていたけど
そんな時、
女よりも男の方が脆いという事を
幾度となく目にしてきたから
心からの本音ではないとは感じていた

こんな時、どうしてあげればいいのだろう?

変に気を遣えば、彼の自尊心を傷つける
彼が決める事なのだから
その時、黙って側にいればそれでいい
それ以外何の術もないだろう
あとは、それを掻き消すようなセックス


そんな想いとは裏腹に
彼の姿を私は、反面教師にするかのように
着実に繋がっていくものばかりを選択するようになっていった

眩しいような光を浴びる事はないけれど
突然、闇の中に放り出されることもない


光を浴びる者
見限られて捨てられる者
そして
また新しく光を浴びる者がやってくる


それを横目で見ている


慣れれば慣れるほど
それは冷酷に...残酷に....

そんな仕事をしている人物に言われたことがある

甘い蜜を吸えるのはね
あの子の存在を
バックアップしているからなの

悪い言い方をすれば、操作している
あの子は「あやつり人形」と同じ

価値が無くなればゴミのように
捨てられる

人生はそんなに甘くない


縁の下の力持ちとは良く言ったものだ

決して知名度があるわけではないけれど
打算的で最終的に笑ってるんだろうな......


汚れていると
そう言って逃げてく者たちもいたが
私はそんな人間を
賢くて魅力的で
私もそうでありたいと
思うようになっていった

仕事に没頭してゆく中で
増々人脈は広がってゆき

彼と連絡が取れなくても
彼がどこかで誰かを抱いていても
平静でいられた

「いい目してる」

色々な場所でそう言われる事が増えてゆき
仕事にもやりがいを感じていた

これといった夢もなかった女が
ただ、彼の後ろを追いかけ続けていた女が
足掻き続けて、やっと小さな光を掴みかけていた


でもそう思った時には
原点の欠片を失ってたんだ


「おまえ、どんどん遠くなってくな」


久しぶりに逢って
彼が呟くように言ったその言葉に
胸をえぐられるようだった

何言ってんの?
あんたがこんな私にしたんじゃない.....

いや、違う
全ては私が選択してきたんだ


でも、私はどうしたらいいかわからなかったんだよ


部屋を出てゆく彼の背中を
ただ呆然と見送った

別れの言葉じゃなかったけど
きっとこの時に
別れるまでのカウントダウンがはじまっていたんだと思う