本日紹介する作品は、
2000年にフジテレビ系にて放送されたスペシャルドラマ
「学校の怪談 呪いのスペシャル」内のトラウマ作品
『恐怖心理学入門』
上映時間:24分
監督:矢口史靖(「ウォーターボーイズ」「サバイバルファミリー)
出演:安藤政信
人は暗示によって幽霊を見るようになるのか―。
大学生の佐藤はゼミの田中教授に頼まれ、
集団心理学の実験に協力することになる。
偽の心霊写真を撮影し、でっち上げた怪談話を話すなどして
実験に協力していく彼だったが、
やがて不気味な黒い女の霊が出没するようになるのだった。
テレビドラマ『学校の怪談』から派生したスペシャルドラマの1作品。
不気味な余韻を残して暗転するラストカットは
当時の多くの子供にトラウマを与えただろうホラー作品。
◆廃盤&レンタル在庫なし。トラウマラストシーン◆
<平成一桁世代>であればこのドラマがトラウマになっている人もいるかもしれない。
自分もそのうちの一人で、『恐怖心理学入門』のラストシーンは今でも脳裏から離れず、
幾度となく思い出すものでした。
残念なことに現在は探した限り見られる場所が見当たらなくなっており、
<都内のTSUTAYAにはレンタル在庫なし>、
<DVDも廃盤につきプレミアムなお値段>に。
それでも最高のトラウマ思い出には勝てず、購入しました。
今回、初めてこの作品が「ウォーターボーイズ」や「サバイバルファミリー」などコメディ要素のある作品を多く生み出してきた矢口史靖監督作だということを知りましたが、
見直すと確かに矢口監督作品らしいルックの作品となっており、
ホラー作品としてはその陽気さのある異色性にも驚きましたが、
やはりトラウマを植え付けられたラストシーンは健在でした。
◆怖がらせない。ルックは大学青春劇◆
思い出補正もあって、かなり怖いホラー作品の印象を持っていたが、
その期待を大きく崩しに掛かるThe 矢口史靖監督作品でした。
<人の暗示で幽霊を見るようになるのか>という
心理学実験に面白半分に協力をしはじめ、
仲のいい同級生4人と言わば心霊を話題に遊び始める。
藤井隆をはじめ、キャスト陣の陽気なテンションや
振り切ったオーバーアクトなど
あくまで大学生の若さに溢れた青春模様を描こうとする
矢口史靖監督の演出が、ホラーに身構えるこちらの姿勢を崩しにかかる。
「学校の怪談」という低年齢層もターゲットに入れたコンテンツとして
題材こそ心理学と若干難しいものの、バランスはかなりいいように思える。
そんな怖くないホラーにプレ値をはたいてしまったという事実に
後悔がないと言ったらうそになってしまうわけですが...
◆ツイストのある物語のエンタメ性◆
本作は意外と物語もエンターテインメント性を持っている。
ホラージャンルとしては「事故物件もの」であるわけだが、
冒頭に説明される<心理学実験>というものが
物語の後半で物語の伏線を回収していくギミックとして作用しており、
衝撃的な展開とまでいかずとも遊びがある。
また、面白いのは主人公 佐藤の立場の変化だ。
<友人を騙すため幽霊の存在をでっち上げる>という
俯瞰的に物事を見て、楽しむ立場だった佐藤が
次第に黒い女に翻弄され、失脚させられていく。
その落差ある物語展開が恐怖の切迫感を助長しており、
また、行き着く安堵感が恐怖の助走としても聞いてくるため
終盤で明かされる<種明かし>との相性がいいのも見事なものです。
◆急に来る正統Jホラー演出に鳥肌◆
この作品のルックは見心地の良い青春劇。
随所にホラー映画を思わせる演出がちりばめられているのですが、
それもホラー映画そのものをパロディするような側面が強く、
怖さというより、コミカルに思えるものが多いです。
しかし、それは矢口史靖監督が意図的に仕掛けたホラー演出にも思えた。
とにかく淡々と時にマヌケさすら感じるバカっぽさで
物語を演出していくわけですが、
その作品ルックに慣れだしたころにこれぞJホラー的演出で
見るものを仕留めにかかるのがこの作品だ。
見るものに不自然さを感じさせないカメラワークで死角を作り出し、
想像外から恐怖を描く演出、その後の歯切れのいい編集の妙。
人物の背後で静かに変化を持たせて不気味さを演出すれば、
「見る側と見られる側の逆転」に近い恐怖表現を
キーアイテムとなるビデオと部屋というシチュエーションを用いてやってみせる。
Jホラーらしい静の中にある不気味さや恐怖が的確に配置された作品です。
そして、極めつけがこの作品のラストシーン。
先ほども言ったように、この作品はあるギミックが用意されており、
一旦すべてを終わったように繕うわけですが、もうひと捻りが用意されています。
衝撃的な事実を淡々と語る演出も不気味なのですが、
主人公 佐藤を映し出すラストショットの絵力が凄まじく、
おそらく所見では想像できないだろう角度のものとなっている。
<犬>という伏線回収も見事だが、特出すべくは絵作りと編集のテンポ。
カメラが動かないフィックスでしかも、
広い画角と暗部も多くないため、見ている側は恐怖が起こるとは思えない。
にもかかわらず、何かが起こり、世界が閉じられる。
そして、絶妙なテンポで暗転することで、
見たものは画の混乱から恐怖をじわぁーと覚え始めます。
誰が何と言おうとJホラーの名シーン、名ラストだと思っています。
ただ、ホラー映画に必要不可欠なリアクション芸が
オーバーアクトに加えてリミテッドアニメーションさながら
動きがないのは痛いところです。
◆総評◆
正直、プレ値に値するホラーかと言われれば
YESと断言することはできないですが、
所見であればこのラストは楽しめるかも。
とはいえ、思い出補正の強い作品のため
冷静な判断はできませんでした。