お疲れ様です。
SayGoです。
本日紹介する映画は、
邦画界異例の制作費が投じられた人気漫画の実写映画最終作
『るろうに剣心 最終章The Beginning』
時は幕末。
倒幕派の人斬りとして名をはせた緋村抜刀斎は
ある日、謎の女 雪代巴と出会う。
激動の時代を共にする中で互いに感情が
芽生えはじめた2人だったが、
巴の正体を知った剣心は自らの罪と向き合うこととなる。
公開日:2021年6月4日
上映時間:137分
監督:大友啓史(「龍馬伝」「るろうに剣心」シリーズ)
出演:佐藤健/有村架純
和月伸宏の人気コミックを大河ドラマ『龍馬伝』の大友啓史監督、
佐藤健主演で映画化した『るろうに剣心』シリーズ最終作。
アニメジャンルを超えて名作と称される
ビギニングにあたる物語が史実と地繋ぎなリアリズム溢れる世界観で描かれる
◆完璧な実写映画。アクションのみならず時代劇も塗り替える◆
時代劇研究家である春日太一氏が
「全時代劇トータルで考えてもベスト10には入る」と太鼓判を打
アニメというジャンルを超え時代劇として名作と称されるのが
OVA「るろうに剣心-明治剣客浪漫前日譚-追憶編」。
ユーモアを徹底的に排除したシリアスなテイストが貫かれ、
主人公 剣心のトレードマークである
十字傷に秘められた物語を紐解きながら
切なくも美しいロマンスを綴り上げている。
そんな作品が真っ向から実写映像化された。
これ以上を考えられない追憶編の映像化だ。
アクション映画の新たな指標を幾度となく提示してきたこのシリーズは
最後に時代劇のメルクマールまで示してくる。
こんなにも贅沢な邦画がしばらく見れなくなってしまうのが残念で仕方がない。
◆徹底されるリアリズムがもたらすキャラクターの生◆
これまでのシリーズもリアリズムの取り入れ方がうまく、
漫画『るろうに剣心』の要素を確実に残しながら、
それを実写世界、明治という歴史に馴染ませる
作品デザイン力、調合バランスに優れたシリーズだと思っています。
それもこれもリアリティを追求してきた大友監督の方針だろう。
そのリアリズムは『るろうに剣心』史上最も
歴史と地つなぎ物語、世界観を見せるこの追憶編で最大限に発揮されている。
原作がそもそもリアル志向ということもあるが、
キャラクターデザインからは奇抜性が排除されており、
画面から感じるルックが
漫画の実写映画ではなく時代劇、歴史映画であることを打ち出す。
歌舞伎者という側面を強めた新選組の衣装も解釈自体が面白い。
そんな作品デザインで史実を織り交ぜながら
物語を語っていく本作は必然的にリアリティラインが高い。
桂小五郎や高杉晋作、新撰組など実在した人物だけでなく
緋村抜刀斎や雪代巴ら創造されたキャラクターにまで
実在したと感じさせる生を与えるほどにだ。
映画『るろうに剣心』シリーズのリアリズムがここに極まり、
ついに実世界と地つなぎに感じるまでとなった本作は
シリーズ集大成と言うに相応しい作品かと思います。
◆ロマンス性をほんの少し強める改編◆
この実写版は改編やサイドストーリーの削除が行われている。
剣心とその師匠 比古清十郎の物語や
後に新政府転覆に動き出す志々雄真実の登場など
オリジナルからオミットされている部分があり、
るろ剣シリーズとの関連性はオリジナルよりも薄いとも言えるでしょう。
史実との関連性を強めた部分も見事だと思いますが、
巴が緋村の頬に傷をつけるシーンの改変が感慨深く、
また、スタッフ、キャストのこの作品に対する解釈の深さを感じる。
※些細ではありますが、ネタバレを含みます。
巴の短刀が偶然、剣心の頬に傷を与えた漫画版。
巴が頬に向けた切先を剣心がなにもせず受け入れたOVA。
それに対し本作は
巴に切先を頬に向け、その手に剣心が手を添えながら傷が刻まれま
これまで以上に剣心と巴の関係性が強められた描写となっております。
冗談抜きで<ケーキ入刀>を自分は連想ししましたし、
このハンドアクションは剣心と巴が結ばれる夜と重なる描写となっ
愛と罪、罪と愛と言った切ない感情がより強調されたように思えます。
あの名シーンを見事再現して見せた技量もさることながら、
新しい解釈で2人を描写して見せたこの演出は
シリーズの中でも白眉たるものかと思います。
しかし、この演出には残念な部分も感じています。
それは巴が発する<あなた>という言葉の意味合いです。
追憶編においてあなたは剣心と巴の許嫁だった清里明良を示してい
巴が死に際に放つ<ごめんなさい、あたな>という台詞は
剣心に対しての裏切りの罪と同時に
清里明良に対して別の男性を愛してしまった罪を、
謝罪する言葉だと自分は思っているため、
2人の関係性の強調と引き換えに
そのダブルミーニング性、居た堪れない残酷さが
弱まってしまっている部分には残念さを
構成の変更でウェットに持っていく改変などもありますが、
ラストシーンの演出などこの作品の改変は見事としか言いようがない。
◆美しすぎる剣心と巴◆
佐藤健氏と有村架純氏のキャラクター体現には脱帽する。
鬼たる狂気から満身創痍な悲しみまで
紆余曲折する剣心の感情を体現する佐藤健氏も素晴らしければ、
これ以上に考えられないミステリアスな色気と
その美しさで雪代巴を演じて見せた有村架純氏には驚かされた。
このキャスティングは奇跡的なものでしょう。
少し話はずれますが、
<剣心と巴だけ顔がきれいすぎる>というものがあります。
リアリズムの追及された大友啓史監督の世界では
確かに2人の存在は異様なまでに浮き立つ美しさとなっております。
しかし、これは見事な演出だと思っています。
オリジナルにおいても
剣心と巴は浮世離れしたような異質な存在感を放っており、
また、2人の物語に焦点を強めた本作においては
剣心と巴の関係性をその美しさで強調して見せたのだと思っています。
また、暮らしを共にする後半では多少とはいえ
農作業や世界つの中で顔や衣服を汚していきます。
それと同時に2人は人間的な感情を表すようになっていく。
美しさは汚れで人間性の芽生えを演出する土台だったようにも思えます。
剣心と巴の異様なまでの美しさには
個人的に演出の意図を感じることができたため
全く気になることはありませんでした。
◆モノクロにしても美しいだろう絵のリッチさ◆
息をのむほどに美しい画で構成されているのも
この作品の特出すべきポイントでしょう。
特に印象深いのが暗部表現でしょう。
全体のトーンもさることながら、
照明で作り出された滑らかな陰影、
シャドウからブラック部分の艶っぽさや豊かさは
豪華なセットや細かな美術、俳優陣の演技を
よりリッチなものへと昇華しています。
この作品自体はカラーですが、
その明暗と濃淡があまりに美しいため
モノクロにしても美しいだろうなと妄想せずにはいられませんでし
そういった意味でも自分は時代劇を連想させられてしまう画力を感じました。
画のクオリティを取っても日本では最高峰でしょう。
誰も異を唱えることがないだろうクオリティです。
◆<叩く>から<斬る>へ。シリーズ史上最も残虐な殺陣◆
<不殺の誓い>を誓った後の物語が主となっていた
これまでの剣心のアクションは必然的に<叩く>ことが中心のもの
それが『るろうに剣心』特有のアクションでもあったわけですが、
今回は急所を斬る<擦る>アクションへ変貌しており、
人を殺すことを強調した描写となっている。
これまでの超人的なアクション性が排除され、
地に足を着けながらるろ剣らしいスピード感が演出されていく本作は
時代劇と現代アクションのハイブリットたるかっこよさに溢れているが、
やはり驚かされるのが佐藤健氏の身体能力の高さ。
流れるように刀を振るいながら体幹をブラさない身のこなしは
緋村の異様なまでの剣術と鬼たる存在感を見事に示す。
佐藤健氏の剣劇は世界でもトップでしょう。
そして、血の雨が降る残虐性も印象深い。
血が画面を着飾っていくカッコよさも良く、
その残虐性が善悪のないこの時代の中で
様々な深みをもたらしている部分も良い。
また、クライマックスの剣心の満身創痍な状態を
アクションで説明していく演出力も見事なもので、
剣心の視力が塞がれたことを、
大木に刀を引っ掻けてしまう描写などで語る上品さは
流石の大友啓史監督といったところでしょう。
口に咥えた刀で拘束された状態の剣心が多勢を斬っていく、
漫画「NARUTO」の桃地再不斬を彷彿とさせ
村上虹郎氏演じる沖田総司と一騎打ちでは息をのませる緊張感を演出する。
間合いをはかる静の探り合いが演出されていくこのシーンは
シリーズ史上最もリアリズムが重視された殺陣となっており
とても漫画原作とは思えない、誰が見ても時代劇となっていました。
◆完璧なラストシーン◆
ラストシーンは完璧としか言いようがありません。
多くは言いませんが、シリーズが1つの物語として形作られる
感動と興奮を最後に味合わせてくれます。
スターウォーズのあの作品のラストに近いものがありましたね。
そして、驚かされるのが、このシリーズのクオリティが
最初から高かったことを否応なしに痛感させられること。
ここまで制作された年を感じさせないシリーズは他にないでしょう。
この『るろうに剣心 最終章The Beginning』は
独立した作品として見事なまでに成立していますが、
このラストの感動を味わうために一作目は見ておくほうがいいでしょう。
◆総評◆
完璧な追憶編の実写化にして、
完璧なシリーズの完結作。
『るろうに剣心』シリーズの凄みを
改めて感じさせられるラストシーンも見事でした。