堤幸彦監督、良い職業監督になってきたんでは!?映画『望み』レビュー | SayGo's 映画レビュー

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SayGoです。

本日は息子が同級生の殺人事件への関与を疑われたことを機に
境地に立たされ望みを失っていく家族を描いたサスペンス映画
『望み』をざっくりレビューいたします。

公開日:2020年10月9日
上映時間:108分

監督:堤幸彦(「人魚の寝る家」「SPEC」シリーズ)
出演:堤真一 石田ゆり子 岡田健史 清原果耶

殺人事件への関与が疑われた息子の無罪を

 

家族はどこまで信じることができるのかを描く

社会派サスペンスにして観終わった後にずしっと来るヒューマンドラマ。

 

 

 


<犯罪者家族への誹謗中傷><報道責任>といったテーマを
その被害者視点で描いていく作品やそういった演出は

昨今そう珍しいものではなくなってきているわけですが、
<疑惑を掛けられた息子をどこまで信じることができるか>という一点を巡りながら、
家族という<小さな物語>で語り上げていきます。

 

冒頭からすでに家族とコミュニケーションを拒絶するような息子 健士の姿や
<刃物>というアイテムを密かに購入していたという展開こそ
事件の真相を巡るミステリー作品のような要素が散りばめられるわけですが、

 

面白いのは、それら健士の素行によって
<息子の捉え方を幾多も変化せざるを得なくなってしまう>
父、母、娘の姿を描く部分にあったと思います。

 

<信じたいけど信じられない>という感情の起伏を見せるために
ミステリーが用いられているような作品という印象を受けました。
 

警察の描写に関してはステレオタイプが過ぎるようにも思える部分がありましたが、
何が起こったのかを探ろうとも警察にはうまくはぐらかされ、
世間からの評価を一方的に受動することしかできない<出口なき地獄>

強いられる家族の姿が8割を占める本作。

真実に迫っていく、目まぐるしく事態が変化するわけでなく、

家族が家族を見つめるような構成、展開を見せていくので
エンターテインメント的な展開に乏しいわけですが、


報道や世間、噂によって感じていた息子に対する疑念が掘り起こされ、
次第に<世間から一方的に突きつけられる評価>
家族の考えも重なっていってしまう=息子の無実を信じることができなくなる、

意図せず疑心暗鬼にならざるを得ないというヒューマンドラマを

味わうことができる一作かと思います。
 

答えないのではなく、答えられなくなっていく堤真一演じる父親の描写、
殺人犯であるかではなく、生きて帰ってくることに<望みの方向性を変える>ことで
母親である自分を保とうとする石田ゆり子演じる母親の描写は
揺らぐ家族を見事に表現していたかとも思います。

決定的に物語が動き出すのはクライマックスです。
息子に対する最大の疑念となっていた<ある物>と

 

<あるメモ>が間接的に父と息子のコミュニケ―ションとなり、

それによって疑念を晴らされた父が公然の面前で行動を見せるワンシーン。
 

様々な形で<被害者と加害者>が対比されていくこのシーンは
報道と報道に影響される世間という構造を持っているわけですが、
そういった社会性ではなく、<疑われた息子を信じることができるか>という
ヒューマンドラマを完結させた場面だったかと思います。

その後に本作は事件の顛末を明かすわけですが、
そのあまりの悲惨さに胸を締め付けられながら、
確かに<望みを捨てなかった><最後に息子を信じることの出来た>
<家族の姿>が刻印されている印象で、

 

しっかり家族のドラマに落とし込んだからこそ感動させられたように思えます。


作品のワンシーン目にことのきっかけとなる<事件>シーンを持ってきたり、
オープニングとラストカットを対にする演出を用いて、
映し出される<写真>が一層重要な意味を内包する構成など部分も良かった印象です。


レンズフレアが多用される画のルックや
不安を演出するカメラワーク演出など好みが分かれる部分も多いと思いますが、
最近の堤幸彦監督作品がソリッドな作りに傾いてきた印象すら受けています。

何度も擦られてきたテーマを
社会性より家族の小さい物語からアプローチし、
事件の真相を求めるミステリーではなく、
<信じられるか、信じられないか>という一点から
家族のドラマを描き上げた一作。
おススメです。