密室護送車で囚人と襲撃者に板挟み!?骨太サスペンス・アクション『薄氷』レビュー | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

おつかれさまです。
SayGoです。

本日はNETFLIXにて配信中の
スペイン発の傑作B級サスペンス・アクション映画
『薄氷』
をざっくりレビューしていきたいと思います。

上映時間:106分
監督:ルイス・キレス
主演:ハビエル・グティエレス


新しい部署に赴任してきた中年警官 マーティンは、
刑務所から6人の囚人の移送任務にあたることになるのだったが、
その最中、護送車が何者かによって襲撃を受けてしまう。

護送車というシチュエーションを用いた密室劇が大半となる本作は、
囚人と襲撃者の双方に板挟みされる中年警官の闘いを骨太に描く
スペイン発のサスペンス・アクションとなっている。

主人公 マーティンの<ルールから脱しない>真面目なキャラクター性を
同任務につく気性が荒い同僚であるモンテシノスとの対比で印象付けながら、
護送のための<荷物検査>で6人の囚人が何者かを整理していく序盤のテンポの良さ。
寄り道な<護送車が走り出す>本作はこの時点でジャンル映画としての期待を募らせます。

護送車はその最中で何者かの襲撃を受けるわけだが、
明確な襲撃から始めるのではなく、
本部や他の車両と<無線連絡が取れない>という演出で不吉な雰囲気のみならず
クライマックスで醍醐味となる<寒さ>を色とその孤独な状況で見せていくのもうまいところ。

はじめから<単独犯による襲撃>が匂わされる本作において、
「なぜ護送する時間がわかったのか」「なぜあの情報をつかめたのか」など非の打ちどころはあるが、
終盤に至るまで犯人の素性、目的を明かさないというベールに包む演出によって紛らされているので
それが引っ掛かりになる方も少ないかと思います。

その襲撃を機に襲撃犯はもちろん、囚人も脱獄に動き出し
護送車の<中でも外でも二転三転>事態が目まぐるしく展開していく。
この中盤のドライブ感は凄まじく、
襲撃犯から囚人からも板挟みとなり、立場を剝奪されていく主人公 マーティンの姿に
物語の緊張感、緊迫感が高められていく。

<目的のみを要求する>という襲撃犯のスマートさには
事態に反してペラペラ喋り出す邦画のようなリアリティ欠如演出は皆無であり、
多くを語らないことで<犯人の動機はなにか>というミステリーを物語に組み込む構成力も見事。

また、6人の囚人の人物背景を目まぐるしい<護送車内の勢力図変化>の中で紐解きながら
<ドヤ顔パズルギミック>をやるわけでなく
あくまで<後の展開を暗示する>に止める脚本の絶妙な匙加減も光る部分で
事が大きく展開していく中盤は先の読めないエンターテインメントを展開していきます。

そして、この作品はクライマックス、結末までその勢いを保ちます。
護送車内での密室劇は<水>を用いた絶望的な展開
クライマックスでまたアクセルを踏み込み、
見る者に悪寒すら体感させる映像でもう一山盛り上がりを見せます。

ついにクライマックスで<襲撃犯の動機>が明かされるわけですが、
登場キャラクターが絞る演出により、主人公の<正義の天秤の揺らぎ>が
映画的な絵語りで明確に描き出していきます。


<刑事としての正義か、親としての正義か>


マーティンは激しく葛藤しながら目の前の事態を収めようとするわけですが、
場に響いた<ある言葉>にマーティンの天秤は大きく傾きます。

ラストでマーティンが取る行動はジャンル映画として申し分ない
カタルシスを放つわけですが、
それも序盤から彼の<ルールから脱しない誠実さ>が描かれてきたからこそのもの。
強烈なゴア描写が立場を超えた人としての<怒り>となっているのも印象的です。

しかし、そんな彼の行動をこの映画は称賛しません。
映画の主人公としては素晴らしくも、客観視すればルールから逸脱した者。
マーティンを冷ややかな視線で映し出して幕を閉じる部分に
個人的には骨太なサスペンスを見た満足感を味わいました。

106分という時間に見事に収め切った傑作サスペンス・アクション。
是が非におススメです!