JKだけじゃない!射程範囲は全世代恋愛映画『殺さない彼と死なない彼女』(2019)レビュー | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

本日鑑賞した映画は

恋愛をコミュニケーションの延長として哲学的にも語って見せる映画

『殺さない彼と死なない彼女』

公開日:2019年11月15日

上映時間:123分

 

退屈な学生生活を送っていた高校生の れい は、

自殺願望を持ちながら命を重んじる 同級生 なな に興味を抱く。

事あるごとに「死にたい」という なな に、

「殺す」という言葉でコミュニケーションをとっていくような れい。

2人は次第に一緒にいることが当たり前になっていくのだったが。

 



漫画家 世紀末 がSNSで発表し話題になった4コマ漫画の実写映画化。

主演は間宮祥太郎、桜井日奈子。

 


女子高生向けのティーンムービーのようなルックをしていながら、

幅広い年齢層から高い評価を受けたことでも話題になっていたので

鑑賞したわけですが、かなり感動的な映画でした。

 


あまりにもこの作品の「語り口」が好みだったので

映画鑑賞後に原作コミックを買ってみるとまたいろいろ驚く部分が。

 

ちょっと比較も入れながらレビューしていきたいと思います。

 


「自殺願望を持つ なな」と「殺すが口癖の れい」の物語をメインに置きながら

「愛に飢える きゃぴ子」と「幼馴染の 地味子」の友情劇、

「八千代くん」と「八千代に好意をぶつけ続ける 撫子」の恋愛模様を絡めていく

ざっくり言うと3つの物語の行き来で構成されています。

 

まぁ、とにもかくにも鑑賞してみると

おっさんには厳しい「青春感」が漂ってくるものでした。

 


スクールカーストの底辺にいる女子が

人気のあるオラオラ男子に興味を持たれて中を深めていくという

なな と れい の恋愛ドラマに加え、

恋愛体質な女子高生とその幼馴染の日常という

きゃぴ子 と 地味子 の若さに溢れた青春ドラマ、

意中の人に「好き」という行為を伝え続ける

八千代くん と 撫子ちゃん の初々しい感じなど

ある程度年を重ねた男には拒絶反応すら感じるスタートを切ります。

 

一枚「甘いレイヤー」がかけられたような

コントラストの低い淡い映像も表現も相まって尚更効きますね(笑)

 


なのですが、これが見進める内に普通の恋愛映画と異なる色を放っていくわけです。

 

劇中で展開される「3つの物語」には

一応にも「恋愛」というものが中心となっているわけですが、

非常に孤独と切なさに満ちており

繋がりたくても、仲良くなりたくても

「人との接し方に悩む若者」の物語が描かれているように思えました。

 

キャラクターの「心の声」が流される演出に加え、

日常会話から多少乖離したようなセリフ劇が

(特に「きゃぴ子と地味子」の物語に)展開されており、

個人的にはその自己言及的、哲学的に世界や愛を語っていくアプローチには

アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」、特に後半パートを思い出したりしました。

 

※承認欲求に駆られるきゃぴ子はまんま

 惣流・アスカ・ラングレーですしね!


「かっこよくて好きだから運命♡」みたいな甘い物語ではなく、

「この人になら本当の自分を見せられる」「自分でいられる」

そんな運命性を醸していく本作は

全然甘ったるさがなく、切なさに溢れていました。

 

なな と れい にしろ、

きゃぴ子 と 地味子 にしろ、

八千代くん と 撫子ちゃん にしろ、

どうみたって運命の人であるのがすごい。

変わりがいない感が凄まじい。


安っぽい、表面的な恋愛映画とは

ここが違いますね。


だからこそクライマックスは

涙腺を刺激してくるわけです。



とにもかくにも是非見てくださいとしか言えないわけですが、

ここからは漫画と比較しながらこの映画版の凄さを語っていきたいと思います。


 

まず大前提として、原作コミックが素晴らしいものでした。

深く、切ない物語でありながら「4コマ」という形式が

重たくしすぎずポップにも展開していくというバランスの良さは見事なもので、

可愛らしい画であるからこそ、深刻さが強く出てこないからこそ

見る者の心を締め付けてくるような作風にも驚かされました。

 

で、衝撃的だったのが「忠実な再現度」

作品理解が深められたうえでの「再構成」です。

 


本当にこれでもかというほど、細部の物語、セリフのニュアンスまで

まぁ~見事に漫画を再現していることに驚きます。

自分は映画→漫画で観たわけですが、逆であっても驚くことに違いないでしょう!

 

加えて、見事なのが再構成です。

原作では

⓵「きゃぴ子と地味子」の物語

⓶「八千代くんと撫子(原作では君が代)ちゃん」の物語

⓷インターミッション

⓸「殺さない彼と死なない彼女」

という順番で展開されていくわけですが、

これを映画版では並行して語っていきます。

 

この再構成によって個々のドラマではなく、

「学園性」「青春感」が強められている印象になっているわけですが、

この再構成をしたからこそ成し得る「映画オリジナルのギミック」を効かせてきます。

 

それこそ「パズル」的な要素ではあるのですが、

原作内のセリフや物語の重要なポイントをうまくドリップし、

鮮やかに混ぜ合わせていくようなアレンジとなっていました。

映画ならではの高揚感を付け足すと同時に

漫画よりももう一歩前向きで風通しの良いラストになっておりました。

 

漫画版も良いけど、映画版もいい!

そんな相互関係にある作品は久々でした。

 

そして、「再構成」のみならず

粋なプラスな演出、改変も見事な部分にまた驚きました。

 

原作の些細な一言から物語を拡大化する部分もあれば、

キャラクターの想い、感情をわかりやすくしている部分など

作品を一切汚さない、なんならよくする演出が数多く存在しています。

 


れい が ななに送る「あるプレゼント」の選び方。

「要望に応える」という形式にあった漫画版から

「れいの自発的なコミュニケーション」に変更している改変も良かったし、


 

作中で なな が れい に対して口にする

「リボン全然似合わないね」という漫画のセリフを

そのまま使用しながら、

映画オリジナルなシーンを加えることで

そのセリフが持つ意味をより大きくしている部分には衝撃を受けました。

 

あと、八千代くん が 撫子ちゃんのこれまでの告白を思い返すシーン

(原作の「僕」という物語)

 

八千代くんと撫子ちゃんの物語をざっくり言うと、

いつも「好き」と好意を言葉で伝えてくる撫子ちゃんに

困る八千代くんという物語になっているわけですが、

 

あるシーンで、八千代くんが

撫子ちゃんのこれまでの告白を思い返します。

 

八千代くんが撫子ちゃんの告白をと思い返す中で

八千代君が「いつの間にか僕は彼女を待っている」

という事に気づくわけですが、

 

漫画版は「4コマ」という事もあり、

1回目はこう思って、2回目はこうおもって、3回目は…

と言葉で説明するのに対し、

映画版は

1回目の告白シーン、2回目の告白シーン、

3回目の告白シーン...

と映像で羅列していくわけです。

 

「八千代くんが撫子ちゃんの告白を画も込みで思い出す」

というこの演出は、そのまま

「八千代くんが撫子ちゃんの告白を全部を覚えている」という事になっており、

八千代くんの好意がセリフ無くして語られるものになっていました。

 

他にも「きゃぴ子ちゃんの妄想シーン」など

映画だからこその演出が光っていました。

 

ちょっと作品レビューというより

漫画版との比較になってしまいましたが、

「どうせただの恋愛映画だろ!」

と思っている人ほど見てほしい作品です。

 

映画版だけでなく、漫画自体が素晴らしいので

超おススメです。