本日鑑賞した映画は
コミュ障東大卒男が銭湯で死体を始末することになる
ジャパニーズ・ノワール映画
『メランコリック』
公開日:2019年8月3日
上映時間:114分
東京大学を卒業後、定職に就かず
うだつの上がらぬ生活を送っていた和彦。
彼はたまたま訪れた先頭で
高校の同級生 百合と再会し、
彼女への好意から銭湯で働くことを決める。
しかし、和彦はある日、
その銭湯で死体処理が行われている現場を目撃してしまい...
殺し屋×銭湯という外連と説得力が見事に備わった設定と
コメディからサスペンス、ホラーから恋愛まで
多様な要素が入り組みながら
強いエンターテインメント色を放つ本作は
「第二のカメラをとめるな!」としても注目を集めました。
本作は主人公 和彦を演じる俳優 皆川鴨二さんの呼びかけで集まった
アメリカで映画製作を学んだ 田中征爾、
作中で和彦の相棒へとなっていく松本を演じながら、
アクション演出としても参加する 磯崎義知という
同い年3人で結成されたユニット「One Goose」の第一弾作品という事らしく、
本作の予算は300万円程度とも聞くわけですが...
めちゃくちゃに面白い作品です!
「銭湯」という日本特有の文化を見事なまでに取り入れた犯罪劇は
まさにジャパニーズ・ノワールたる装いに溢れていながら、
根本には青春ドラマのような喜びや温かみを放っており、
ヒューマンドラマとして着地する結末のフレッシュさ作品構造には
ホント正直に「下手な日本のメジャー映画より断然面白い」と思ってしまった。
一応にも核心に迫るようなネタバレは避けていこうと思いますが、
何も知らない方が面白いに越したことのない作品なので、
「殺し屋×銭湯」というアイディアに興味を持った方は
まず鑑賞することをオススメします。
まず個人的に共感しか抱かなかったのが
主人公 和彦が銭湯で働くまでの序盤の展開です。
「学校でも人気がなく、今もコミュニケーションがうまくないのだろう」
髪型や若干の猫背に、定まりづらい目の動きなどで
和彦 というキャラクターのバックボーンが語られていくわけですが、
「話しかけられただけで好きになっちゃう展開」と
「居場所がなくサラダを食べる同窓会シーン」に思いっきり共感してしてしまった。
ある日、和彦は銭湯を訪れるのだったがそこで
高校時代の同級生 百合と再会するわけですが...
百合の方から積極的に話しかけて来てくれるんですね。
百合が「明らかな好意を見せている」こともありますが、
この瞬間から和彦は百合に恋をして、彼女に会うために銭湯で働くことを決めます。
これモテない男ならわかるはずです。
学生時代まともに女子と交流をしてこなかった自分にはわかります。
女子から話しかけられることがどれだけの奇跡か!
この「恋の落ち方」こそが和彦の
しばらく女子とのコミュニケーションがなかった
=うだつの上がらない生活を送っていた描写になっていたかと思います。
そんな和彦は百合の誘いで高校の同窓会に行くわけですが...
もう気まずさMAXなわけですよ。この映画で一番見ていてつらかったです。
会場に行っても、誰からも話しかけられず、話しかけることも出来ず、
1人サラダをつまむのみ。
周囲の人は楽しそうに会話をはずませているわけです。
また、このパートをはじめ作品前半に聞いてくるのが
「東京大学卒」という和彦の設定です。
おそらく和彦ほどいい大学を出ていない同級生が社会での勝者となっており、
和彦は東大卒であるからこそ余計に敗北感や嫉妬心を味わうわけです。
「下剋上した側」ではなく「下剋上された側」の視点で描かれる
和彦の現状はあまりに息苦しく、この同窓会のシーンは最高でした。
そんな同窓会で声をかけてくれるのが 百合というのが王道でいいですね!
そんなこんなで和彦は百合に会うため、百合の通う銭湯でバイトすることにします。
偶然にも同じ日に採用された 松本 という男と共に働きだすのですが、
この松本という男の「見え方の変化」こそが
本作の最たる面白い部分になっていきます。
まず、最初の出会いから面白い。
和彦は松本と面接の席で出会うのですが、
まともな履歴書も用意せず、志望動機を「銭湯が好きだから」という松本も
自分同様に採用になることに衝撃を覚えます。
テンポの良い編集によってコミカルチックなシーンとなっていますが、
このシーンには和彦の
「真面目な俺は採用されて当然だけど、なんでこんなバカも採用に!?」
という学歴差別に近いものを見せるわけですね。
東京大学卒に強いコンプレックスを抱きながら、
同時に人も見下してしまっているという人間味が描かれています。
この作品は和彦がどのように松本を見ていくか?
そこにこそ、成長劇や物語の本質が潜んでいるように思います。
終盤で2人が居酒屋で食事をとるシーンがあるのですが、
あのシーンの「生きることに対する考え」こそが
この作品の根本にあるテーマかと思います。
ともあれ、和彦は「俺は松本より使える人間だ!」と証明しようと
もう一生懸命に働いていくのですが、
その想いが先行しすぎた結果、銭湯のある秘密を目にしてしまいます。
それが深夜は殺しや死体処理の場として利用されているという事です。
和彦は秘密を知ってしまったことで、
簡単に言えば、共犯者になることを強いられるます。
映画でよくある「巻き込まれ型展開」であるわけです。
この手の「巻き込まれ型」映画であれば、
巻き込まれた主人公は何とかそこから脱出しようと奔走していきます。
絶望的な状況から脱することができるか?
そこに物語の推進力が設けられていくわけですが、
この「メランコリック」は
入りこそ「巻き込まれ型」ですが、
主人公 和彦は働き甲斐、もっと言えば生きる喜びを知ってしまうわけです。
死体処理を終え、ボーナスを手に銭湯から外に出た瞬間の表情の清々しさ、
茶袋の中身を確認し、茶袋を抱きしめながら寝る様子。
この作品は「初めて働いて、初めて給料をもらう喜び」というものが描かれるわけです。
これまでにあったジャンル展開を逆手に取ったフレッシュな展開は
めちゃくちゃ面白いものとなっています。
ちょっと余談が多く長くなってしまったので、ピッチを上げます(笑)
下に見ていた同期の松本がこの世界では格上の人間で...
そんな様にして、闇の世界でありながら、
社会と触れ合って成長していく和彦の成長劇に加え、
いつしか友情で結ばれていく和彦と松本のバディ展開で作品を盛り上げていきます。
「自分たちはヤクザに利用されるだけなのか?」
逃れられない組織図に対して、2人がどのような行動をするのか?
クライマックスでは若者の苦悩溢れる青春劇としても
日本の闇を描くノワール作品としても輝きを放ちます。
そして、なにより素晴らしいのが、ラストシーンですね。
和彦と百合が交わす些細な会話に加え、
ラストカットの「場所」「シチュエーション」そのもので
作品がテーマを打ち出して幕を下ろします。
あと、終盤で松本がうどんを食べて言う一言はいろいろ染みましたね。
その一言で彼のバックボーンは見えるし、
家族というものの温かみが出てて、感涙しました!
ここも個人的には必見シーンかと!
「殺し屋×銭湯」という異色ノワールでありながら、
1人の青年を通した不変的な人の「生と死」そして「喜び」を綴り上げ、
ヒューマンドラマとして着地させる本作は衝撃的でした。
また、役者陣が本当に素晴らしい!
長くなってしまったので一人に絞りますが、
主人公 和彦の恋人 百合を演じる吉田芽吹さん!
「美人ではないけどカワイイ」
あの感じ出せる女優さんはなかなかいません!
あんな人がいたら、確実に好きになってますね(笑)
そして、意外にもすごかったのが
アクションシーンです。
戦闘が始まる前、
簡潔に言えば「潜入パート」は
そのリアルな銃の構えが日本に馴染んでいない印象で
ダサさも感じてしまいましたが、
動き出すとそのすごさを痛感しました。
そこまでシーン数としては多くはないんですけど、
タクティカル技術もカメラワーク、編集といった演出も
非常にうまいものでした!
松本役であり、同時に作品のアクション演出をした
磯崎義知さんの功績はかなり大きいものに思えました。
まだまだ、書きたいことありますが
気づいたらなかなかな量になってしまいました。
この作品は見て損のない映画なので
絶対にオススメです。