映画レビュー「THE GUILTY/ギルティ」80点 音がすべてを語る新感覚サスペンス! | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

「THE GUILTY/ギルティ」

原題 Den skyldige





公開日 2018年2月22日
上映時間 88分

ーーーーあらすじーーーー
警察官のアスガーはある事件を機に
緊急通報司令室のオペレーターの職務に着いてた。
そんな彼のもとに誘拐されている最中の女性から一本の通報が入る。

サンダンス映画祭での観客賞をはじめ、世界で様々な反響を呼んだ
電話を通した音と声で誘拐事件の真相に迫っていく
デンマーク発の新感覚サスペンス。


★★話題沸騰のワンシチュエーション・サスペンス★★
ワンシチュエーションで物語が展開される映画は
新人監督の登竜門とも言えよう。

低予算での映画製作が可能であり、
「アイディア」「物語構成力」「演出力」など
監督に必要とされる技量が試されるこのジャンルは
これまでも様々な監督の名を世に知らしめてきた。

「もうやり尽くされただろうジャンルだろう」
そうも思っていたワンシチュエーション映画だったが、
その隙間に入り込み、見事に風穴を開けたのが
本作「THE GUILTY/ギルティ」だ。

「電話を通した声と音で事件の真相に迫る」
終始そのレールから脱線することなく、
観客の想像力を逆手にとってミスリードに誘う本作のサスペンスは
「一級品」のエンターテインメントだった。


★★集中せずにはいられない88分!すべてがネタバレギリギリ★★
緊急通報司令室に勤務するアスガーのもとに
誘拐されている最中の女性から連絡が入り、
「声」とその背景にある「音」から救出を試みていくが...

それ以上にあまり書きたくないというのが正直なところだ。

何を言ってもネタバレすれすれであり、
一応にも核心こそ避けるが、
鑑賞予定のある人はこれも他のレビューもまず読まない方がいいだろう。


一切無駄なく展開されていく「88分リアルタイムサスペンス」は
その短い上映時間もあって集中力を途切れさせないわけだが、
没入感を高めるのは「画」と「音」の絶妙なバランスだ。

室内空間や他者の存在を同一画面に写し出すことで
緊急司令室で勤務するアスガーのキャラクター背景や
彼の室内での立場を描いていくわだが、
彼が電話を取るとアップショットで構成され
観客に「音」に集中させる計算がなされている。

情報量を削いだ「映像」によって
観客は唯一残された「音」の情報から
事態を理解せざるを得ない状況に追いやられ、
必然的に想像力が掻き立てられる。

視覚からの情報量が乏しくとも
脳内では「果てしなく外世界」が広がっていくため、
これといって画が変わらなくともまったく飽きることがなく、
また「音から探り、事を理解しようとする」という
観客の置かれるその状況そのものが
劇中でアスガーの置かれる状況とシンクロするため、
本作で展開されるサスペンスは体感度が非常に高いものとなっていた。


★★共通想像をもたらす音響効果の見事さたるや...脱帽★★
一種観る者の想像力に委ねる本作だが、
最低限の共通項、共通認識を与え、
観客をレール上から脱線させない音響効果が素晴らしい。

通話相手が何をしているのか?どこにいるのか?

ということを物音ひとつ、足音の変化ひとつで
的確に語ってみせる本作の音響効果は痺れるものだった。

環境音の中に「聞かせる」「印象に残す」音を仕込むことで
「誰かと誰かが同じ場所にいる」ことを断定させる技法や、
足音の質、環境音の厚み、声や物音の響き方が
通話相手がいる場所の「空間設計」を果たし、
それがキャラクター背景描写にも昇華されてしまう。

そんな本作の音響演出は、
「映像」を想像させる見事な力を有しているのはもちろんのこと、
観客に委ねた素振りを見せながら「一定の共通した想像」をさせ、
知らず知らずの間に確実なまでに
ミスリードへと誘って見せる巧みさこそが素晴らしいのもだった。

また、「音」から「映像」を想像させる本作は、
観客それぞれが持つ「恐怖」が反映させられもするため、
物語半ばに存在するある出来事は、
アスガーがスクリーンに映し出されているだけなのに、
目を背けたくなってしまった。

目を背けようとも、目をつぶろうとも
「音」が脳内に「惨事」が映し出すため、
逃れることすら出来ない。


★★偏見や決めつけ。タイトルの意味★★
クライマックスでアスガーは大きな過ちに気づくわけですが、
それはミスリードさせられたすべての人の過ちともなります。

この結末に自分はアスガー同様の「罪」の意識を持たされました。

「差別や偏見を持っていない」と思っていても、
この作品のレールに乗せられた人は、
少なからずその意識を持ってしまっていたことに気づくことになるでしょう。

エンターテインメントとしての「どんでん返し」となるだけでなく、
「無意識たる偏見」を観客に思い知らせもするラストの展開は
いい意味で劇場をあとにする足取りを重くもすることでしょう。


★★総評★★
間違えなく新感覚サスペンスでもあり、
クライマックスでは社会派映画にも成り代わる傑作。
映像的な派手さは一切ないわけだが、
「音」を味わえ、作品に没入できる空間である映画館で
見なければいけない一作。

★★★★