映画レビュー「七つの会議」61点 顔面相撲ミュージカル開幕!顔が強い奴が強いんじゃ! | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

「七つの会議」




公開日 2019年2月1日
上映時間 119分

ーーーーあらすじーーーー
とある中堅メーカー東京健電の落ちこぼれ係長 八角民夫は、
トップセールスマンである課長 坂戸宣彦を突如パワハラで訴える。
部下からも、結果主義を掲げる営業部長 北川からも絶大な信頼受ける坂戸は
会社に守るだろうと思われていたが、彼には異動処分が下され、
その後も八角に関わった者が次々に異動を命じられていくのだった。
坂戸の後を継ぎ課長となった原島はその異様さに疑問を抱き、
真相を探りだすのだったが...


「半沢直樹」をはじめ、数々の作品が映像化される
人気作家 池井戸潤の小説を福澤克雄監督、
野村萬斎主演で映画化した社会派ミステリー映画。
香川照之、片岡愛之助、北大路欣也ら
これまでの池井戸潤作品キャストが集結する。


★★安定のエンターテインメント!分かりやすいドラマ演出★★
「これが観たかった!」と多くの人が満足する作品だろう。

数々の作品がTVドラマ化され、
日曜日の顔といっても過言ではない「池井戸潤作品」。
この作品を映画館に鑑賞しに来るほとんどの方は、
ひとつやふたつそれを見ているだろう。
そんなファンの期待を裏切らず、
ある種予想通りに、求められる娯楽性に応えているのが
この映画「七つの会議」とも言えるだろう。

絶大なる営業成績を誇る課長 坂戸の異動処分をきっかけに
落ちこぼれ課長 八角に隠された「真実」が明かされ、
その先で「汚職」や「隠蔽」を基軸としたミステリーを展開する本作は、
中高年世代が共感出来うる社会派作品としての重厚感を持つだけでなく、
「巨悪を挫く正義」というヒーロー性と
爽快感あるカタルシスを最後に放つ物語は
やはり誰でも気軽に楽しめる
娯楽エンターテインメントとしか言いようがないものだった。

結局、本作も「どこかで見た池井戸潤作品」であるわけだが、
だからこそ多くのファンは満足できるものとなっており、
その作家性には再度驚かされてもしまった。


そんな作品と相性がよく、
多くの人物が交差する複雑な物語を整理してしまうのが
分かりやすい「TVドラマ演出」。

人物の登場と共にその名前をテロップ表記し、
劇中に登場するホワイトボード上で
「人物相関図」を構築し、物語を整理して見せてもしまう演出には
「誰も置き去りにせず楽しませる」という優しさがあり、
それは映画ならではのスタイリッシュさにこそ欠けるものの、
老若男女が観に来るであろう池井戸潤映画としては
これ以上にない正攻法な演出であったと思う。

そして、またも物語を明確に、
時に「ホラー映画的な面白さ」を与えているのが
及川光博演じる課長 原島の視点で語っていくストーリーテリング。

事の渦中にいるのではなく、
その外から事を紐解いていくという原島の視点での語り口は、
作品のミステリー性を高めるだけでなく、
その「俯瞰的なアプローチ」そのものが物語を整理していくため、
ごちゃつくことなく、風通しが非常にいい。

原島の抱く混乱や葛藤と言った内面描写もナレーションで描写されることで
観る者は原島に感情移入でき、
彼と共に真相に近づいていくミステリーの面白さを味わえ、
また、会社や社会に振り回される原口の姿が
スクリーンに写し出される「会社」を「戦場」としても見せる。

そして、原島がいるからこそ、その娯楽性を一層高めているのが
幕を開ける「顔面ミュージカル」だ!


★★顔面ミュージカル開幕!顔面カーストが放つ爽快なカタルシス★★
この作品は豪華キャストとしか言いようがない。
しかも、ただ豪華なだけでなく、
一度観たら脳裏に焼き付くような顔面力を有する
「オールスターお祭り映画」とも言えるだろう。

香川照之、その上に鹿賀丈史、その先に北大路欣也...
企業内のカースト構造をその顔面力の強さひとつで語り、
それこそが最たる説得力ともなってしまっている本作は、
社会派ミステリーでありながら「ヤクザ映画」の如き迫力に満ちる。

「顔が強い者こそ強い」という会社カーストを、
野村萬斎演じる八角が登り、時に倒した相手を仲間にしながら、
ラスボスたる御前様の君臨する最上階に辿り着くという
「顔面相撲トーナメントバトル」。 面白くないわけがない。

顔の表情で表も裏も語り、
その変化で勝敗までもが決されてもしまうこの作品は
「顔面ミュージカル」とも言えよう。

そんな顔面力の強いキャスト陣の中で
ポッと花を咲かせるのが及川光博演じる原口の存在だ。

他に比べ明らかなまで劣っている及川光博の顔面戦闘力と
睨まれ、詰められようものなら嘔吐を催し、
常にビクビク身を震わせているような
原口のキャラクターはもはや「ヤムチャ」だ。

しかし、そんな彼の「リアクション」があるからこそ、
顔面ミュージカルは一層派手さを纏う。

ホラー映画が醸す「恐怖」が
霊の存在や登場だけでなく、
それに遭遇する人物のリアクションによって完成されるように、
「強い顔面」に遭遇し、怯え敗北する
原口をはじめとする「弱き人物」のリアクションがあるからこそ
「顔面カースト」、繰り広げられる「顔面ミュージカル」は
派手なものとなっており、
そのリアクションによって造り上げられる「巨悪」を
砕くからこそクライマックスは爽快さに満ちている。

一歩間違えば笑ってもしまいそうな(いや、笑う!)
顔面演技バトルロワイアルは大スクリーンで観る価値絶大です。


★★集団演出と「ネジ」を用いた結束描写★★
この作品を「TVドラマ的」とも言ってしまったわけだが、
時々映画的な語り、映像表現を見せるのも印象的だ。

多くの人が働く「東京健電」を舞台する本作は、
部署ごとの対立、戦いも描かれるわけだが、
その勝敗を時にミュージカルを彷彿とさせる
集団芸で彩っても見せているのは面白かった。

その集団演出が見せる「多くの部下を背に立つ八角」の姿は、
彼が会社の前に人の人生を重んじている人間であることを描写し、
それが私利私欲で個として戦おうとする人物たちや、
人よりも会社を重んじるように
「メーカー名を背に写される御前様 徳山」の姿と比較されることで
八角の持つ「正義」「ヒーロー性」を映像的に高めて見せている。

また、痺れたのは「ネジ」を用いた「結束」の描写だ。

本作において「ネジ」は巨悪に通ずるキーアイテムとなっており、
それを手にした香川照之演じる営業部長の北川は
八角とともに「正義」を貫こうとするのだが、
同時にこれ以上にない「恐怖」に手を震わせる。

そんな震える手を八角は握りしめ、北川も決意を固めるのだが、

八角と北川が交わす「固い結束」を
物と物を繋ぐ「ネジ」というアイテムで見事に比喩し、描写する。

「ネジ」が「正義」と「悪」の象徴ともなり、
「ネジ」が人物の結束を的確に描写してしまうこのシーンは
見事なものだった。


★★驚愕のエンドロールには賛否!?★★
大きなカタルシスを放ち、物語は綺麗に終息していくのだが、
ラスト、聴取を受ける八角の現代社会に対する持論で幕を下ろす。

八角の言葉には、多くの人が少なからず共感できるだろう正論と
現社会問題を考えさせられるメッセージ性を有しているのだが、
「正論の押し付け」とその「説教染みた言葉」に
個人的には「言われなくてもわかってるよ...」とも思ってしまった。

少なからずその八角の言葉は
劇中の物語から察することのできるもので、
そこは観た者それぞれに見終わったあと
考えさせるくらいの余韻にしてほしかった。

この最後が「原島の言葉」であったら、
少し違ったのかもしれない。


★★総評★★
この上なく安定感のある池井戸潤社会ミステリーを
TVドラマ演出の親しみ易さで楽しませ、
豪華絢爛な役者陣の顔面力で
映画に相応しいエンターテインメント性を担保する娯楽作。
それはファンの期待を裏切らないものだろう。

★★★★