「ファース・トマン」
原題 First Man
公開日 2019年2月8日
上映時間 141分
ーーーーあらすじーーーー
娘を亡くした空軍パイロットのニール・アームストロングは、
NASAの宇宙飛行士に選抜される。
家族と共にヒューストンへ移住し、
宇宙計画で圧倒的優位に立つソ連ですら成し得ていない
月面着陸を目指し訓練を始めるのだった。
月面着陸を成功させ、人類ではじめて月に降り立った
ニール・アームストロングの姿を、
「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督と
ライアン・ゴズリングで映画化。
★★徹底的なこだわりが映像にもたらすリアル★★
アポロ11号の月面着陸50周年に当たる今年に
偉大な功績を残したアポロ計画を
その立役者たるアームストロングの視点で描かれる映画が公開されるとなれば、
はたまた、それを「ラ・ラ・ランド」の
デイミアン・チャゼル監督とライアンゴズリングで製作されるとなれば
注目せずにはいられないものだ。
その期待からIMAXで鑑賞したわけだが、
本作は「IMAX」で鑑賞するに相応しい作品だった。
実物大で緻密に再現されたセットを作り上げるだけでなく、
実際に撮影された宇宙映像を投影したスクリーンをバックに
模型やキャストを撮影するなど、
CGに頼ることのないアナログとも言える映像表現がなされる本作は
クリストファー・ノーラン顔負けの「映像力」を持っており、
また、説明的な状況画を極力控え、
ロケットに存在する「小窓」から
アポロ計画や宇宙空間を語り見せていくような、
アームストロングの視点に観客を誘う映像演出は
大きな臨場感を産み出す。
まるで「アポロ11号」に同乗し、
アーム・ストロングと共にあの歴史的瞬間を
追体験しているような高揚感を味わえてしまうという
アニバーサリー・イヤーに相応しい作品だ。
そんな徹底的なリアルを追求したとも言える本作に
さらなる「リアル」をもたらすのが
「16mmフィルム」と「70mmフィルム」の混合使用だ。
ほとんどが16mmフィルムカメラで撮影された本作は、
そのピンが浅くボケてもいる不鮮明な映像の質感が
物語の舞台となる1960年代の空気感を見事なまでに再現し、
直感的なカメラワークが随所に散りばめられることで
ドキュメンタリー的な雰囲気も醸すという
伝記映画としてこの上なく説得力のある映像アプローチをみせている。
そんな「古びた」映像があるからこそ壮大に広がるのが「宇宙」。
70mmフィルムの高鮮明な映像で演出される宇宙シーンは、
16mmフィルムとの明らかなまでの差から一層美しさを纏い
クライマックスでたどり着く「月」を異世界として見せ、
壮大なスペクタクルを味あわせてくれる。
この作品はだからこそ、映画館で観るべきであろうし、
IMAXで観るに越したことのないものであると思う。
★★あまりに強引な映画化?ウィキペディア読んでる如く★★
そんなリアルを追求した本作は、
あまりにドラマ性のないアームストロングの人生を語っていく。
人類ではじめて月面に降り立った人物の伝記に魅力がないはずがない。
そう思っていたわけだが、これが想像以上に映画に向かないものであった。
危機にも動じず常に「冷静沈着」を突き通すアームストロングは
「宇宙飛行士」に最適な人材であり、
そんな彼がいたからこそ「アポロ計画」が成功したということは
この作品をみればわかることだろうが、
だからこそ、大きくドラマ性に欠けてしまっていた。
「人類最初の一人」になることを望む訳ではなく、
ソ連との宇宙競争に勝とうとするアメリカの
「歯車」として身を捧げるようなアームストロングの視点で語られる本作だが、
家族との不和にもなかなか表情を変えず、
絶対的な状況化においても冷静さを失わない彼には
なかなか感情移入する余地が存在していない。
これ以上にないアップショットの多用など、
アームストロングに寄り添っていく主観的な作品でありながら、
観る者を寄せ付けない本作のドラマは、
あまりに淡々とアポロ計画を語っていく。
まるでウィキペディアを読んでいるようなものだった。
ドラマ性がないからこそ、
月での「あの行動」、そこで流される「涙」にも
個人的には全くとして感動することはなかった。
家族との物語がアポロ計画に繋がり、
様々な危機を掻い潜って辿り着いた「月」で
彼の人生が大きく変わる。
そんなドラマチックなエンターテインメント作品を期待していると
かなり肩透かしを食らってしまうことだろう。
アームストロングの物語自体が映画化に向いいないと分かりながらも、
強引に映画化したというのが本作なのだろう。
アメリカにて残念な興行になっているのも、
このドラマ性の無さが響いているように思えてしかたがない。
★★どう見たって悲しいラスト。なんらな後味悪い★★
本作ではアポロ計画に身を投じるアームストロングの姿と共に、
「父親」として「一人の人間」としてのアームストロングの姿が描かれる。
しかし、前記したように彼と家族の物語には魅力がなく、
なんなら「マジかよ!」というような行動の目白押し。
冒頭こそ「子と遊ぶ」描写や「娘の病」に奔走する様で
父親たるアームストロングを見せる訳ですが、
あっという間にマシーンに変貌していきます。
家に帰って来ても、何が地雷となったのか
お茶を飲んで無表情にNASAに戻る「えっ!?」な行動や
「口ある?」と思うほど家族との会話を避けるような無口さ。
死ぬかもしれない月面着陸計画に行くことを
自分から子供に言わないという「子への無関心さ」にも驚くが
妻にこっぴどく切れられ、やっと子と話し出すも、
記者会見の如く「他に質問は?」と子供に投げ掛ける姿なんて...
同情の余地のある「家族不和」ではなく、
「お前らいらないよ」としか思えないアームストロングの姿には
常人であればやはり感情移入することが困難でしょう。
しかし、そんな本作も最後には「家族の物語」に着地します。
デイミアン・チャゼル監督作品には
「2人だけの世界における2人の物語」という印象を受けているだけに
この結末は予想していましたが、
そもそも本作における「2人」の夫婦にドラマがないため、
というより、アームストロングが妻に見向きもしないため、
「2人の物語着地」演出に驚きました。
そして、それがハッピーエンドとはあまりに遠いという後味の悪さ。
月面着陸を果たした後、隔離されている夫に会いに行く妻。
その作品唯一とも言えようエモーショナルなシチュエーションと
アームストロングの人たる感情の表れに
「あぁ~よかった」とも思ったのですが、
ふたりの間を遮る「ガラス」の比喩と
夫の行動に対して素直に喜べない妻の姿は、
修復しようのない関係性の悲しさが漂います。
まさに「時すでに遅し」といったことでしょう。
実際にアームストロングは妻と離婚するため、
このエンディングも「リアル」としか言えないのですが、
その妙な後味の悪さに帰りの足取り重くなりました。
そこだけでもハッピーエンドにして欲しかった。
★★総評★★
リアルがメリットにもデメリットにも作用したような映画。
訓練やアポロ計画をシーンの臨場感こそ魅力となるものの、
約2時間30分に渡りドラマ性のない物語が展開される本作には
多くの人が睡魔と闘うことになるかもしれない。
とは言え、映画館で観てこその作品であるため、
迷っていた観に行くべき作品だろう。
★★★