映画レビュー「ミスター・ガラス」77点 すべてのヒーロー作品の前日譚となるオリジン | SayGo's 映画レビュー

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勝手に映画鑑賞して
ダラダラとレビューします。

「ミスター・ガラス」
原題 Glass




公開日 2019年1月18日
上映時間 129分

ーーーーあらすじーーーー
悪を察知する能力と不死身の肉体を持つデヴィッド、
24の人格が同居する多重人格者ケヴィン、
高いIQでありながら繊細な肉体を持つミスター・ガラス。
自分の能力を疑わない3人を拘束し、
政府は実験を始めるのだった。

「シックス・センス」などのM・ナイト・シャマランが
2000年公開作「アンブレイカブル」
2017年公開作「スプリット」をユニバース化し、その物語を完結させるサスペンス・アクション作。


★★待望のシャマラン・ユニバース完結作★★
多重人格サスペンスかと思われていた「スプリット」は
スーパーヴィランの誕生を描く物語に変貌し、
ヒーローの誕生を描いた映画「アンブレイカブル」と地繋ぎとされ、
ユニバース作品であることが明かされるという
衝撃的なエンディングを迎えた。

突如現れた「シャマラン・ユニバース」構造に
多くの人が完結編となる「ミスター・ガラス」の
公開を待ちわびたことだろう。

しかし、観客にとってこの上ない「サプライズ」であったこの「ユニバース構造」は、
「アンブレイカブル」製作当初から監督が
構想していたものでもあったようで、
「スプリット」と「ミスター・ガラス」が
自身の私有地を担保に融資を獲得し、
言わば、全額自費で製作されたことからもわかるように、
本作の公開、そしてユニバース化、その完結は
M・ナイト・シャマランがもっとも望んでいたことなのだろう。

長きに渡り、ついに完結を迎えた物語は
今や世界映画界を席巻する「ヒーロー映画」すべての前日譚ともなり、
ヒーローの誕生を描いた、まさに「オリジン」としか言いようがないものだった。


★★まさにヒーロー映画。超人対決★★
ヒーロー誕生を描いた「アンブレイカブル」、
そして、ヴィラン誕生話に変貌した「スプリット」。
その二つの物語がクロスオーバーし、
その「善悪」がついに相見える本作のオープニングは
アメコミヒーロー映画そのものだった。

不死身の体と悪を感知する能力を持ち
自警活動をしているデヴィット・ダンと
凶暴で超人的な能力を持つ「ビースト」を宿す
多重人格者ケヴィンが開幕早々にぶつかり出すオープニングは、
アクション演出の質の低さこそ感じさえするものの、
クロスオーバーが実現された瞬間と
2つの作品が産み出した善悪が、
ついに戦うという
アメコミヒーローもののクライマックスを見ているような興奮に心を持っていかれることだろう。

そのわかりやすい善悪構造から
作品は「ヒーロー」の存在を肯定しても見せるわけだが、
デヴィッド・ダンの生活ルーティーン描写から
同時に「ヒーロー」の存在を否定している部分も面白い。

彼はその超人的な能力で自発的な自警活動を行っているわけだが、
セキュリティー職という表の顔を持った上で、
あくまで裏で、世間の目から隠れるように世界を守ろうとしている。

彼の善なる行動を社会的な俯瞰視点でも見せることで、
ダンを「ヒーロー」というより「犯罪者」同等にも見せる本作には
まるで「バットマン」のような現実味のあるヒーロー像が存在し、
「アメコミ」というアイテム描写から
ヒーローが虚構として存在する世界=現実世界を描き出すため、
フィクションでありながらもリアリティーを担保されてもいる。

そんな主俯瞰的なアプローチで
ダンとケヴィンを「善悪」ではなく
「脅威」としても見せる本作は、
次第にマイノリティーたる存在を
肯定する側と否定する側の戦いに発展していくわけで。


★★マイノリティーを否定する世界と肯定するミスター・ガラスの★★
ダンとケヴィンは、
「アンブレイカブル」のラストでヴィランであったことが明かされた
高いIQを持ちながら繊細な体を持つミスター・ガラスが収容される
政府施設に拘束される。

ここから精神科医による実験が始まるわけだが、
物語に関して述べるとネタバレになってしまうので避けるが、
この実験は、彼ら3人のマイノリティーたる存在を否定しようとしていくのだ。

多少の強引さはあるものの、
彼らの能力を理屈的、合理的な見解で
「偽物」「思い込み」と論破していく精神科医の存在と、
自由を奪うようなシステムによって
ダンとケヴィンはそのアイデンティティーを否定されていく。

要するに政府は人知を越えた超人というマイノリティーを否定することで、
言わば世界の秩序を保とうとしていくのだ。

そこで、頭角を現し出すのが、
イライジャ=ミスター・ガラスだ。

幼少期に出会ったアメコミに魅入られるも、
脆い体に生を受けたイマラジャは
同時にそのアメコミに存在価値を否定される。

そこで彼はヒーローを探し、
そのヴィランとなることで
自分の存在意義を見い出そうと
様々な悪行を繰り返し、
ついに不死身の体を持つダンを
見つけ出したというのが「アンブレイカブル」だ。

「アンブレイカブル」は
ダンというヒーローの誕生談だけでなく、
それを望み、そのヴィランたる
「ミスター・ガラス」になることで
自らの存在価値を見いだそうとする
イライジャの物語でもあり、

イライジャの「俺はミスター・ガラスだ」
という叫びに
見向きもせず去っていくダンの姿で
幕を下ろしたその結末は、
悪としても認められなかった、
存在すら認めてもらえなかった男の
寂しさに溢れていた。


そんなイライジャにとって、
ダン、そしてケヴィンという
超人を否定しようとする政府は
自らの存在をも否定する存在となっていく。

だからこそ、彼はアイデンティティーを
否定され、自らを疑い出したダンとケヴィンに
再びアイデンティティーを与え、
そして、ある計画を実行しようとしていく。

自分の演じられないヴィランをケヴィンに託し、
ケヴィンという「悪」から
再びダンという「ヒーロー」を誕生させようと
画策していくイライジャ。

イライジャはダンとケヴィンを戦わせる
真のヴィラン=ミスター・ガラスになることで
自分の存在価値を見出だそうと
しているかのように思えたわけですが...

そこにはには大きな真実が隠されていた。


★★ヒーローの誕生と世界の覚醒★★
クライマックス想いもよらぬ
方向に作品は舵を取り出します。

政府機関の正体が明かされ、
その圧倒的な力の前に、
ミスター・ガラスの作戦は
最悪の結末を迎えたかのように描かれます。

しかし、その後明かされる「真実」、
そして物語がたどり着く「真の結末」は
ミスター・ガラスの見事なエピローグを語るとともに、
すべてのヒーロー作品の前日譚とも
すべてのヒーローの誕生の原点、
オリジンとも見ることのできる
壮大なプロローグとなり、
新世界の幕をこじ開けます。

ミスター・ガラスが取った行動は
「アンブレイカブル」においても
本作においても
とても肯定できるものではないわけですが、

彼の「悪事」を「必要悪」と肯定しきり、
多くの犠牲を払ってまでも
世界を変えた「偉人」、
もはや「神」たる存在として
描いても見せる潔さがあるからこそ、
このラストは綺麗にもまとまっています。

ダン、ケヴィン、イライジャを救うような
それぞれのサイドストーリーの感動的な着地は、
観る人によって「全然良い話じゃない!」と
拒絶反応を起こすとも思いますが、

イライジャという人間の執念が実り、
それが世界を覚醒させるというラストは
「ミスター・ガラス」という
タイトルにふさわしい見事な結末で、
個人的には「最高!」の一言でした。

今後どのヒーロー作品を見ても
「ミスター・ガラス」の存在を
連想してしまいそうなほど
強烈な印象を残すこの完結編は、
自分の存在意義を探し求めていた
イライジャのストーリーを
見事なのものまでに完結させているとも思え、

また、彼の物語は
様々なマイノリティーに悩む人の
背中を押すようなメッセージ性をも携えているようにも思えた。

★★総評★★
中盤はその画変わりのなさから退屈感を覚えたが、
最悪とも言える結末から一転、
壮大な物語の全貌を明るみになるラストは、
すべてのヒーロー作品のオリジンとも見えてくるという、驚くべく作品。

キャストの演技は言うことがなにひとつないほど素晴らしく、
また、「列車」が走り出してすべての物語が始まり、
すべての物語が「駅」に辿り着いて終わるという
蓋を開けてみたら見事な構成であった部分にも感動した。

★★★★