今年の秋に某児童書の読者プレゼント企画の依頼があって『賢者の石』ギフトを制作しました。
(天氣後報http://sayanet.ameblo.jp/sayanet/entry-10154468455.html に関連写真)
賢者の石はツクリモノではなく、実在する鉱物をそれに見立てようということで、当初いろいろな標本を集めて検討会議を行っていたのですが、その中にこの辰砂もありました。恐らく、この辰砂の結晶が鶏卵よりも大きなサイズで、予算範囲内で購入できれば辰砂に決定したと思いますが、母岩付きの小さな結晶しか予算的にも標本的にも無理だったので採用はされませんでした。
辰砂が候補に挙がったのは練丹術の鉱物だったということもあります。
「丹」というのは純度の高い辰砂のことで、つまりは辰砂の化学組成式であるHgS(硫化水銀)のことです。
赤の顔料としても重宝されましたが、その色が血液を想像させるからでしょうか、中国では不老不死の霊薬として研究をされていました。丹から仙丹を作ろうというわけです。仙丹とは不老不死の薬。錬金術の賢者の石が転じてエリクサーの意味合いを持ったことによく似ています。
しかし、水銀が有毒なのは現代にあっては周知の事実で、恐らくは秦や唐の時代の中国でも認識されていたはずだと思うのですが、多くの研究者や不老不死を求めた皇帝たちが水銀中毒によって死亡した、あるいは死期を早めたといわれています。
鉱物の鑑定で辰砂と似ているとされるものに「鶏冠石」があります。辰砂ほど赤くない(辰砂が深赤とするならば、鶏冠石は朱赤)ので、いくつか標本を見比べれば区別がつきますが、この鶏冠石も硫化鉱物です。辰砂が水銀と硫黄なのに対して、鶏冠石は砒素と硫黄。いずれにしても毒っぽい……
関連記事は『きらら舎第壱標本室ノート』に記しています
http://kirara-sha.kilo.jp/mineral/?tag=%E8%BE%B0%E7%A0%82%EF%BC%8FCinnabar