【5. 文献3 : (題名)フルート用金属材料】




(原題)Metallic material for flutes
(原文英語)
米国特許:US4,971,759

YAMAHAが米国に出願し、公開中の特許である。
(米国特許検索で上記の番号または発明の名称(原題)を入れれば原文を読むことできますよ)



US特許庁のURL

http://www.uspto.gov/index.html




銀合金にニッケル、鉄、銅などの金属添加剤を特殊な配合で添加することにより、ミドルからハイトーンのサウンドが素晴らしくなる。



‥というもの。




 ******以下【文献3】の要約******
(以下は概要を示したもので、特許の英和翻訳ではありません)



特許請求の範囲(概要)


1. 銀に、5から28重量%の銅、さらに、ニッケル、鉄、コバルト、クロムの添加剤グループから単独に、または組み合わせて0.05重量%から1重量%を添加した金属材料で製造したフルート。



2. 請求項1で説明したフルートであり、少なくとも前記材料の1部を構成する金属結晶の粒径が、20μmから45μmであるフルート。




請求項3から12まで、このような金属仕様が続く。



発明の背景




銀合金で作成されたフルートの音色を向上させる技術に属する。

フルートが発する音色についての近年の科学的研究成果によれば、材料硬度、金属結晶粒の直径、および結晶方位が音響的な特徴に影響を及ぼすと言われている。

この見地から、より柔らかで大きな結晶構造を有する材料がフルートの音色に悪影響を及ぼすと考えられる。


この件に関して有効な手立ては講じられていなかった。



発明の要約




本発明の目的は、銀合金製のフルートの音色を向上させることである。



一つの局面としては、銀に、5から25重量%の銅、さらに、ニッケル、鉄、コバルト、クロムの添加剤グループから単独に、または組み合わせて0.05重量%から1重量%を添加した金属材料で製造したフルートである。




また、別の局面では、銀に、5から28重量%の銅、さらに、マンガン、チタン、ジルコニウム、シリカの添加剤グループから単独に、または組み合わせて0.05重量%から1重量%を添加した金属材料で製造したフルートである。



発明の詳細な説明




上記の2つの局面に従ってテストサンプルをそれぞれ14本作成し(つまり合計28本)。
その製造工程の詳細を述べている。

また、作成したサンプルフルートの音色を、◎(とても良い)、●(良い)、○(普通:悪くはない)に分類している。






【感想】



すごくお金がかかっていると思われる実験。




物理学者が何を言おうと、世界のYAMAHAさんが大金を投じ、



「フルートが発する音色についての近年の科学的研究成果によれば、材料硬度、金属結晶粒の直径、および結晶方位が音響的な特徴に影響を及ぼすと言われている。

この見地から、より柔らかで大きな結晶構造を有する材料がフルートの音色に悪影響を及ぼすと考えられる。」




と仰るのですから、私ごときが何を言うまでもありません。



フルートの音色を◎(とても良い)、●(良い)、○(普通:悪くはない)に分類しているが、それは誰か1個人の主観なのか、それとも複数の人間がブラインドテスト(材料が判らないようにして音を出し、音のみで良否を判定する)を行い、その結果を平均したものなのかは不明。


それぞれの音色が、スペクトル分布としてはどのように現されるのか大変興味があります。





フルートの材質と音色 (その9)へ







5. 文献2: (題名)材料の違いによる音色試験】


(原題)THE TONE TEST OF MATERIALS

(原文英語)

JIM SCHMIDT
4480
North Academy ave. Sanger, CA 93657



http://users.cvip.net/~js210/tone.html


 物理学者たちが、「フルートの材質は音色に無関係」と公言することに我慢ならず、「材質と管の肉厚は、確かに音色に影響する」ことの検証を試みたフルート奏者の研究。



 ******以下【文献2】の要約******


 管の材質や管厚が音色に影響を与えるか否かの実験は数多く行われているが、音色の違いがあったとしても、それが材質によるものか、またはフルート製造上の微小な寸法誤差によるものかを区別するのは非常に困難である。



 たとえ全く同じ設計図で材質や管厚の異なる丸棒(フルートを最も単純化したモデル)を製造しても、ヘッドジョイントや唄口の製造/加工上の誤差は必ず生じる。


 そこで今回、0.5mm厚の純銀製キーなしフルート(重量:260g)を作成した。



 比較のために異なる管厚のフルートを製造すると、ヘッドジョイントや唄口の要因が入り込むので、フルート管の曲面にぴったり密着する約50gの鉛製パッドを2個製作し、クランプによってフルートに取り付けたり取り外したりすることでフルートの重量を変化させた。


 これにより、全く同一のヘッドジョイントや唄口を使用して、異なる重量のフルートの音色を確認できることになる。



 フルートの重量を変化させたときに音色も変化しているとすれば、異なる密度、重量、管厚などフルート材料の違いによって音色は変化することの証明になる。



 製造したフルートは下記。



AKIRA F くまのブログ


 キーパッドなどのメカ部分を有しない丸棒、総銀製フルートである。


 この丸棒にランダムに鉛のパッドをクランプで取り付け、吹奏感を確認する。



 クランプを取り付けてフルートの重量を変化させたとき、吹奏のために手に持つと重量変化を感じてしまうので、正しいブラインドテストにはならない。


 そこで、フルートの両端を吊るし、唄口に唇をあてがうだけで吹奏できるようにした。


 また、演奏者は目隠しをした。



 実験状況を下記に示す。


AKIRA F くまのブログ


実験結果



 演奏者に判らないよう、ランダムに鉛パッドを取り付けたり取り外したりして吹奏し、音色の確認を行った。


 その結果、音色の「暗い/深い」または「明るい/軽い」の違いを確認することができた。



 この違いは、専門家にとっては明瞭な違いとして認識されると思われるが、初心者にはあるいは困難かもしれない。


 今後の課題として、


 1. 異なる重量を有するフルートの音色スペクトル分布を測定したい。


 2. 各種材料の丸棒に簡単に取り付けられるプラスチック製ヘッド(唄口付き)を製造し、より公平な条件で異なる材料の音色を確認したい。




【感想】


 「物理学者には判らないかもしれないが、芸術家には判ることもある」


 という切実な(?)想いを証明しようとした意欲的な実験。


 ただし、音色の違いを誰が見ても判るような客観的な形(例えばパワースペクトラムなど)でレポートできていないことが残念。



 また、何回の試験を行い、正答率が何%あったのか、しかもその正解率は、確率的に偶然正解する数値を十分上回っていたのかを証明する統計的データが無いため、残念ながら判断のしようが無い。


 是非今後の課題を実行に移してレポートしてほしいと思う。




フルートの材質と音色 (その8)へ



































****** 以下【文献1】の要約 ******


 実験に使用したフルート:


 同一メーカの銀メッキ製、総銀製、9金製、14金製、24金製、プラチナメッキ製、総プラチナ製の7本。

 価格幅:42万円から1000万円(!)


 フルート奏者:


 ウイーンフィルハーモニーオーケストラ所属の7人のプロ奏者を含む15


 音色判定者: 111



実験12は、音色のスペクトル分布解析である。



 スペクトル分布解析とは、音色の中にどのような周波数成分がどのくらい入っているかを解析してグラフにしたもので、声紋鑑定などに利用されるほど、音色の違いを見るのに優れた分析方法です。



実験1


 実験1では、1人の奏者が7本の異なるフルートを吹いたときの音色のスペクトル分布を比較。


 

 結果の1例は下記。


 1人の奏者が7本の異なるフルートを吹いたときの音色のスペクトル分布
 

 実験結果は上記URLの図7Fig.7)をご覧下さい。





 図より、1人の奏者が材質の異なる7本のフルートを吹いた場合、音色の違いは周波数スペクトルの0から16Hz上で最大0.5B以下であった。




実験2


 1本のフルートを7人の奏者が吹いた場合のそれぞれのスペクトル分布を比較。



 結果の1例は下記。



 実験結果は上記URLの図8Fig.8)をご覧下さい。


  図より、7人の奏者が1本のフルートを吹いた場合、音色の違いは周波数スペクトルの0から16Hz上で最大7Bの差異があることが判る。



 上記実験1と実験2のスペクトル分布図から明らかなように、フルートの音色は材料による違いよりも演奏者による違いのほうが圧倒的に大きいという結果になっています。




 実験34は、あらかじめCDに録音したフルートの音色を音色判定者に聴かせ、それぞれ材質を当てる実験。


実験3

 一人の演奏者が7本の異なる材質のフルートをでたらめな順番に吹いて、判定者がそれぞれの音色がどの材質かを投票。 


 これを7人の演奏者が順に行う。

 投票結果を集計したところ、全ての判定者が正しく材質を当てたケースは1件も無かった。

 結果の一例:


 ・ 24Kフルートは22%の正解率

 ・ 34%がプラチナフルートを9Kフルートと判定

 ・ プラチナフルートの正解率は6.8%

 


実験4

 1本のフルートを7人の演奏者が順に吹き、音色鑑定者が音色の良い順番に順位を付けていく実験。(1が最高点。5が最低点)


 7本のフルートを順不同で吹いていった。


 結果は下記。



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 順位の高い順に並べてあるが、数値間の差異が小さく、材質間に統計的なばらつき以上の優位性は認められない。



【感想】

 有名オケ所属のプロ演奏者と100人以上の音色鑑定者のスコアを集計した大作と思う。


 要約すると、ブラインドテストの結果、音色が材質によって変化していることは証明できなかった。


 ‥となる。



 疑問点があるとすれば、完全なフルート(非常に複雑なメカ構造を有する)を使用して実験を行っているため、データの中にフルート製造上の差異や部品誤差も含まれていると思われること。


 材質と音色のみを問題にするのであれば、キーやトーンホールの無いシンプルな円筒で比較するべきと思う。




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