「もうひとつのラスト」  第20話 | ノベルの森/アメブロ

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香音さんを起こしたのは父さんだし、香瑠を起こしたのも・・・
そうか!この仕掛人は、「父さん!そうなんだろ父さん!」
ぼくが心の中で父さんに呼びかけていると、ガタっと音がした。

第19話 文末


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「もうひとつのラスト」  第20話



香瑠が立ち上がったのだ。

彼女はすでに涙でそのツヤツヤした頬を濡らし、口は左右に大きく開いていて、まるで子供のように邪気のない顔になっている。

もどかしそうにチェアを押しやり、両手を突き出すようにして歩き出した。だが今日の香瑠はミニスカートなのでいつものように早く歩けない。

香音も感極まったのか整った顔を歪めて、こちらは両手を広げて妹へ歩み寄った。
やがて二人はしっかりと抱き合った。まるで映画に出てくる感動の再開シーンを観ているようで、ぼくを含め、その場に居合わせた人たち全員が感動を分かち合っていた。多分、否、きっとそうに違いない。

香瑠は泣きながら

「姉さん、姉さん」と何度も繰り返してしゃくり上げた。

香音は

「香瑠、ごめんね。こんなに心配かけて、だめなお姉ちゃんでごめんね!許してね」

そうやって謝りながら、自分より少し背の高い妹の頭を優しく撫でている。








ここで少しだけ説明を加えると、香瑠が先に行っていた「あちらの不思議な世界」とは死後の世界ではなく、身体はこの世にあるけれど魂だけが行って安らかに安眠状態になる。

そしてこの世に想う人がいて、自分のことを忘れずにいてくれる、若しくはこの世から行った親しい人に起こされるかすれば、目覚めてこの世に残って横たわる自分の身体に戻れる。
一言で言うならば、心の優しい人が稀にかかる心の病を癒す異次元世界のことである。

それは、不可思議な世界の存在を認める人だけが行ける世界。
香瑠に遅れて行った香音は戻るのが遅くなった。当たり前ではあろうけれど、妹に寂しい想いをさせたことを、詫びる気持ちが強いのは姉であるが故なのだろう。







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