「 約 束 」
「疲れた」と言い寝床に臥した「きく」さんの
願いはひとつ
「わたしが眠るまで、枕元で本を読んで聞かせてください」
約束どおり、夫はきくさんの好きな小説を読み続けた。
きくさんが眠りにつくまで・・・
7日目の朝、夫の呼ぶ声にきくさんの返事は無かった。
70年前の記憶が甦る。
あの日、雨の夜、ずぶ濡れになってきくさんは
この家にやってきた。小作農家のこの家に。
「明日のお見合いはやめにする!
わたしはやっぱり作ちゃんじゃないと嫌だ!!」
追いかけてきた庄屋さんも娘の決意に負けて、許した。
あれから70年、
「きくさん、ありがとう・・・」
手を握りしめて顔をのぞき込んでも
きくさんの顔は涙でぼやけて見えない。
「きくさん、そんなに長くは待たせないよ。約束するから・・・」
・・・・・作治さんは約束通り、2週間後、
きくさんの元へ逝かれました・・・・・