田口ランディの本の上では、いつも事件が起きている。


私が初めて田口ランディの本を読んだのは、

月経随伴性気胸を患い、肺の中から子宮片を摘出し、切除する手術の為の入院の時だった。


むかしから、本を読むのは好きだった。


中学・高校と勉強をするのが嫌で、勉強しているフリをするのに好都合だったのが、『読書』だったかもしれない。

子供ながらに、自分は大きくなったら作家になるんだ、と思っていた。



でも、実際大学も文学部に行ったのに、いざ書こう、と思ったら書けない。


正直、小説は何篇か書いた。

文学賞にも投稿した。


でも、ランディさんの小説を読んで、

ああ、あたしの書きたかったものは、こういうものだったんだ、って思った。そして、その領域には到底追いついていないということがわかった。


私も、「精神病」類のものにはすごく興味があった。


実際、人がならないような病気を患って、その興味はますます増徴された。


だけど、まだまだ文章を作る能力がまだまだ下手くそなのだ。





文章なんて、簡単、と思っていたフシがあって、ナメていた。

言葉の羅列を組み合わせて、自分の気持ちを伝えるということは、

当たり前の行為で、至極簡単であると思っていた。


でも、そうじゃないんだ。

言葉ひとつひとつが持つ力、っていうの。圧倒される、その力。

一文読むだけで、「うーん」と止まってしまう何かがそこにあるから。


『入院』という、世間と切り離された状態、ましてや病院という生と死がすぐ隣り合わせの場所で、

私は、ランディさんの言葉に集中した。

何か神がかり的に飲み込まれて、没頭した。


いつも見える景色が違って見えた。

そうか、そういうことか、私は、こういう世界を創りたかったんだ、って気づいた。

不思議な体験だった。


退院後、日常生活はあっという間に、「通常」に戻った。


悲しいくらいに繰り返される日常の出来事に、我を忘れ、とにかく明日目覚めて仕事に行くことだけに集中する日々。

あっけない束の間の休息はすぐに破壊され、私は元に戻った。


だけど、私にはもう、一瞬だけでもスポットに戻れる魔法の方法を見つけた。この本を読むことだ。


それくらい不思議な力がある。