ダート3冠競走への期待と課題 | S-Trans

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明日、ついにダート3冠競走の第1戦、羽田盃が開催される。期待もあれば不安も多く、肯定的な意見もあれば否定的な意見も多いダート3冠。そこで今回はダート3冠を含めたJRA・NARの新体系をまとめてみたいと思う。

 

≪競走体系の変革≫

【ダート3冠】

ダート3冠体系についてのチャート表は非常にややこしいため、詳細はググっていただくと出ると思う。ここでは簡単に以下にまとめてみた。

 

羽田盃

ブルーバードC(船橋・Jpn3)1800m 中央3 地方11 1着馬に優先出走

・雲取賞(大井・Jpn3)    1800m 中央3 地方11 上位2頭に優先出走

 ・サンライズC(門別・H1)  1800m 1着馬に雲取賞への選定重視

 ・JBC2歳優駿 (門別・Jpn3) 1800m 上位1頭に雲取賞・京浜盃への選定重視

・スターバーストC(大井・OP) 1800m 1着馬に優先出走

・京浜盃(大井・Jpn2)    1800m 中央3 地方11 上位2頭に優先出走

 ・JBC2歳優駿 (門別・Jpn3) 1800m 上位1頭に雲取賞・京浜盃への選定重視

・クラシックトライアル(大井) 1800m 1着馬に羽田盃への選定を重視

 

東京ダービー

・羽田盃(大井・Jpn1)      1800m 中央馬は5着以内の上位3頭・地方馬は上位3頭に優先出走

・ユニコーンS(京都・G3)  1900m 上位1頭に優先出走

・クラウンC(川崎・SⅢ)    1600m 1着馬に優先出走

・東京湾C(大井・SⅡ)    1700m 1着馬に優先出走

・東京ダービートライアル(大井)2000m 1着馬に東京ダービーへの選定を重視

・ダイヤモンドC(盛岡・M1)  1800m 1着馬に東京ダービーへの選定を重視

・西日本クラシック(園田・重1)1870m 1着馬に東京ダービーへの選定を重視

 

ジャパンダートクラシック

・黒潮盃(大井・SⅢ)     1800m 1着・2着馬にジャパンダートクラシックの優先出走

・レパードS(新潟・G3)   1800m 1着馬にジャパンダートクラシックの優先出走

・不来方賞(盛岡・Jpn2)     2000m 中央5 地方11 1着馬にジャパンダートクラシックの優先出走

 

なかなかややこしいシステムになっているが、個人的にはよく組めたなあと感心している。ただこの表から分かることは以下の通りだろう。

 

1.地方競馬があくまで中心の体系であり、中央競馬はその補助(よく言えばお客さん、悪く言えば参加させてあげる)

2.最終的には大井競馬場で行われるが、園田や盛岡などにもある程度の機会を与えている。

3.中央勢の枠はかなり少ない。そのため中央のダート馬はかなり狭き門である。

 

 

【ダート短距離・マイル】

基本的な体系は大きく変わらないものの、5月中旬~下旬に開催されていたさきたま杯が6月中旬に移動。また5月上旬あたりに開催されていた1870mの兵庫チャンピオンシップが1400mに短縮となる。これにより以下のような短距離・マイルシリーズとなった。

 

2歳・3歳

全日本2歳優駿(川崎1600m)兵庫チャンピオンシップ(園田1400m)さきたま杯(浦和1400m)

北海道スプリントC(門別1200m)南部杯(盛岡1600m)JBCスプリント

         

4歳

フェブラリーS(東京1600m)かしわ記念(船橋1600m)さきたま杯南部杯JBCスプリント

 

大まかに書いたため、さらにこのルートからトライアル競走などが加わるが、おおむねダートの短距離・マイルはこのような流れになると思われる。ここから分かることは以下の通り。

 

1.短距離・マイルに関しては中央のレースが本当に少ない。

2.1400mのレースが多い。

3.短距離、マイルそれぞれのG1級がやはり少ない。

 

【牝馬戦】

牝馬に関してはほとんど変わっていないといってもよいだろう。TCK女王盃が兵庫に移り兵庫女王盃になった程度である。ただしこの1つの変革、結構大きな意味を持っている可能性がある。あとで解説していくので、最後まで読んでお付き合いいただきたい。

 

≪ダート変革の期待と問題点≫

まずこれらの諸改革によって見えてくることは、南関東競馬(通称南関競馬)、特に大井競馬を頂点に据えたピラミッド型体制への変革である。

 

どういうことか詳しく解説していく。

 

【大井競馬を頂点とする競馬体制に】

これまでの地方競馬はそれぞれの競馬場(正しくはそれぞれの都道府県・市町村が管轄する特殊法人が運営しているが、ややこしいので競馬場という事で)が独自に施行してきた。それぞれの競馬場には3冠競走が存在し、また独自の重賞も設立している。そしてそれぞれの競馬場を仲介する役割を持っていたのが、地方競馬全国協会(NAR)である。日本中央競馬界(JRA)は中央競馬全てを統括しているのとは大きく異なる。余談になるが、すべての競馬場や競馬事業を統括するJRAは世界的に見れば画期的な組織だったのだが、それはまた別の機会に。

 

前述のとおり、全ての地方競馬が大井競馬を中心とする体系となる変革はどのような未来をもたらすのか。

 

まずメリットから考えると

1.国際G1競走を生み出しやすくなる

2.南関競馬は安定した収益を見込みやすくなる

3.番組のスマート化による新規参入のしやすさ

 

まず1であるが、大井競馬は地方競馬で数少ない国際検疫場を所有していることが挙げられる。これが大井競馬で行われている東京大賞典が国際G1の格を得ている理由である。川崎競馬も国際検疫場を保有しているが、未だ国際G1を開催したことがないため実績としては外国馬を迎え入れたことがある大井競馬場の方が大きい。今後ダート3冠や帝王賞の格が上がったとき、大井競馬場であればすぐに国際G1へ昇格しやすいと考えているかもしれない。

 

2について、現状ダートG1の多くが南関東競馬に集まっている。競馬のライト勢としてはやはり平場よりもG1級のレースに馬券を賭けるだろう。南関競馬としても自分たちのところにG1級が集まるのは収益的に見ても魅力的である。またそれ以外の競馬場にとってもそのG1級競走の前哨戦を行うことでその恩恵を受けられる可能性がある。

 

3について、これまで各地で行われていた3冠競走が、大井で行われるダート3冠を頂点とする体制になることで、初心者がとっつきやすくなる可能性がある。

 

ただし、現状は残念ながら課題点も多い。そしてそれに伴う弊害の可能性もまたある。1つ1つ解説していく。

 

南関東以外の地方競馬の衰退~園田・盛岡・門別以外は淘汰される可能性~

南関東を中心とする地方競馬体制になるという事は即ち、南関東に競馬が注目されるということである。小泉構文のようだがこれが重要で、逆に南関以外の地方競馬は衰退していくのではないかという心配である。

 

もう一度先ほどの新体系チャートを見ていただくと分かる通り、園田、盛岡、門別はその中に組まれているが、笠松、佐賀、高知、金沢、名古屋は新体系への関わりが希薄である。全くないとは言わないが園田、盛岡、門別に比べるとかなり格が落ちると言わざるを得ない。

 

また先ほどは南関でのG1級競走が地方に波及すると記述したが、それもどこまで影響するか疑問である。現在は参考レースもネットで検索すればすぐに出てくる時代である。実際に前哨戦を見て、それを賭けてまでする人がどこまでいるのか微妙なところであろう。もしかしたら南関競馬だけが勝ち組となり、それ以外は廃場する、なんて未来もあり得なくはない。

 

南関東競馬の中央化

南関東競馬とて勝ち組かというとそう単純ではない。その一つが南関東競馬の中央化である。

 

どういうことかというと、もう一度先ほどのチャートを見ていただきたい。中央所属馬よりも地方所属馬のほうが枠が広いのである。

 

すると馬主の中にはこう考える人がいるだろう。「有力馬は地方競馬に登録し、調教は外厩に任せて3歳戦を戦う。そして3歳が終われば将来を見据えて中央に転入する」

 

実際南関東はノーザンファーム天栄が比較的近く、また南関競馬は自前のトレセンもそこそこ充実している。実際ノーザンファーム天栄を利用するキャロットファームのライトウォーリアが川崎記念(Jpn1)を勝っている。またJRAの所属のままだとしても、結局純粋な地方馬からすれば脅威であるのは変わりない。

 

本当にダート3冠はダートの頂点となるのか

そもそもの話となるが、2024年のダート3歳最強馬はどの馬かと言われたら、ほとんどの人が羽田盃登録馬の中から選ぶだろうか。10人中9人はケンタッキーダービーへ向かうフォーエバーヤングと答えるだろう。そう、ダート3冠とアメリカの3冠は丁度時期が被るのである。

 

それだけではない。羽田盃の前哨戦は多くが中東で開催される3歳戦と時期が被る。つまりケンタッキーダービーを目指す有力馬は羽田盃に出走することが叶わない。それはイギリスのダービーと日本ダービーも似たようなものと言う人もいるが、そもそも日本ダービーがそれなりに格を持ったのは海外遠征が容易ではない時期から国内で独自に歴史を積み重ねてきた結果であり、遠征が比較的容易になった現代ではダート最高峰、もっとも偉大な2分間と呼ばれるケンタッキーダービーを目指すのがダート馬を持つホースマンの目標となる。ダート3冠を勝利した馬が偉大な競走馬になるかもしれないが、少なくともレースの格としてやや片落ち感が否めない。そもそも全日本2歳優駿がケンタッキーダービーの選定競走になっているのだから、NARは既にケンタッキーダービーを中心とするレース体系の中に入っているのである。その中でこの3冠の設立は疑問が残る。

 

なぜ大井だけ、なぜ2000mを2回も

羽田盃1800m、東京ダービー2000m、ジャパンダートクラシック2000m、これらはすべて大井で開催される。

 

これに疑問を感じている人が多い。そりゃそうだろう。なんで全部大井なんだというのと、なぜ2000mを2回も行うんだという事である。

 

別に香港だってドバイだって3冠は同じ競馬場でやっていると言う人もいるだろう。ただそもそも3歳の3冠は何のために行われるの考えて欲しい。3冠は繁殖を目的として行うレース体系であり、それぞれ異なる距離、異なる競馬場で行うのは馬の総合力を判断するためである。ドバイや香港は繁殖を行わなず、そもそも競馬場の数も少ない。カナダの牝馬3冠は同じウッドバイン競馬場で開催されるが、距離は9ハロン、8.5ハロン、10ハロンと異なる。

 

さらにいえば右回りの大井である。世界のダートの主流は左回りであり、なぜ右回りの大井で3回もやるのかという声も聞かれる。

 

まずなぜ大井競馬場だけなのか。これには先に述べた理由の他に2つの理由が考えられる。

1.注目される3冠競走なので、収容人数が多く経済的に余裕のある競馬場で開催したい。

2.2000mがダートにおいてホットな距離なので、そこを重点的に行いたい。

 

まず1だが、ダート3冠は国内のダート競走で最も重要(にしたい)競走である。しかしJRAは既に番組が窮屈であり、これ以上の開催には法律の改正が必要となる。そこで中央に匹敵する規模を誇り、かつ経済的にも豊かで売り上げもトップの大井が選ばれたのだろう。

 

規模で考えるならばフルゲートが16頭以上で、また有利不利が無いようそれなりの規模(1600m、少なくとも1400mか)を持つ競馬場で開催したいとなると、国内には門別競馬場、盛岡競馬場、船橋競馬場、川崎競馬場、大井競馬場に絞られる。また収容人数だと門別は少なすぎる(1300人)、やはり1マイルは欲しいとなると船橋、川崎も候補から外れる。となると残りは盛岡競馬場と大井競馬場となる。しかし、盛岡競馬場は経営再建中(売り上げは伸びてはいるが)、そうなると大井競馬場しか残されていないのだろう。

 

以外と2種類の競馬場でクラシックを行う国はかなり多い。オーストラリアやフランス、カナダなどがそうである。もし盛岡競馬場の経営が安定し、それなりの賞金が出せるようになればもしかしたらジャパンダートクラシックは盛岡での開催もあるかもしれない。またなんならもう1冠は国際検疫場を持ち、それなりに規模も大きい川崎競馬場で開催するというのも案としては面白いかもしれない。残念ながら西日本には規模の大きい地方競馬場が無いためダート3冠の開催は難しいかもしれないが、園田競馬にTCK女王盃(兵庫女王盃)が移設されたり、兵庫チャンピオンシップがJpn2に昇格したりしたのはもしかしからそういった意図があったのかもしれない。園田競馬は関西圏にあり、売り上げも(なんか今後心配だが)地方で2位になったこともある。

 

2の2000mが2回開催される点については改善の余地ありだろう。確かにダートの注目される距離は1800m~2000mだが、繁殖を目的とするなら様々な距離を施行するべきであろう。個人的には1600m、1800m、2000mと開催すると面白いかもしれないが、1900m、2000m、2400m(1900mが開催可能な競馬場ってあるのだろうかと探したら浦和競馬場でできるんですね)とアメリカの3冠を参考にするのも面白いだろう。大井競馬場オンリーで今後開催するとしても、それならせめて様々な距離で開催していただきたい。

 

そもそも3歳3冠って魅力ある?

これもまたそもそも論になるが、日本のダート馬は息が長い。それはダートが馬に優しい、繁殖を目的としていないため、そもそも長く使える馬が求められるなど様々な理由があるが、ウシュバテソーロやワンダーアキュートなど競走寿命が長い馬はダートに多い。

 

逆に言えばダート3冠は言ってしまえばダート馬の早熟化を推し進めることになるかもしれない。そうなるのは構わないのだが、そもそもダート3冠に目もくれずその先を見据えて馬の育成をする馬主や調教師もいるかもしれない。ダート3冠がホースマンの目標になり得るのか、それは今後にかかっているのかもしれない

 

短距離・マイルについては議論すべき

1800m~2000m以外の短距離についてはもっと深く掘り下げるべきであろう。中央競馬もそうだが、日本の競馬界は短距離、マイルについてやや軽視していると言わざるを得ない。ドバイゴールデンシャヒーンを見てても分かる通り、世界の一流ダート馬と日本のダート馬は短距離において大きな差がついている。ドンフランキーが2着に来たじゃないかという人もいるが、正直あのメンバーはレベルがかなり低いを言わざるを得ない。1着の馬はアメリカだと1.5軍クラスである。

 

なによりさきたま杯の距離が1400mである。別にそれ自体否定するつもりは無い。アメリカにだって1400mのG1は数多く存在する。しかしダート短距離のメインは1200mである。兵庫チャンピオンシップの1400mは構わないが、それならさきたま杯は1600mで行い、短距離は1200mが開催できる競馬場で行うべきであろう。1400mでマイルも短距離もまかなえると考えているならば大きな間違いである。ダートの1ハロンの差はかなり大きい。園田競馬の1230mならギリ行けるだろう

 

≪まとめ≫

わーわー書き連ねたが、私はダート3冠について肯定的である。たしかに大井の実で開催、2000mが2回も続く3冠競走なんて3冠競走じゃない!と言いたい気持ちは分かる。しかしまずは開催することに意義がある。そこから議論を詰めて改善していくことが重要なのではないか。

 

一方で大井を中心とするダート改革については改善する余地が沢山ある。まだ過渡期であると信じたいがダート短距離・マイルの軽視は回りまわってダート界の衰退にも繋がりかねない。多様な馬がいてこそ繁殖は盛り上がり、多様なレースがあってこそ多様な馬が出てくる。これからもダート競馬の行方をしっかりと見守っていきたい。