沖縄での生活はとにかく自分にとって心地の良いものだった。

真栄田岬や大渡海岸でシュノーケルをしたり、カフェを巡ったり、グスクを回ったりと東京とは全く違った生活だった。

そんな生活スタイルがとても新鮮で、素敵だった。

物に困る事もなかったし、これ以上何か欲しいということもなかった。

誰かと自分を比べる事もないし、色んな人の生き方をみて、色んな価値観だったりを学んだと思う。

こう生きなきゃいけないって思ってた自分の考え方は、沖縄に来て色んな人と出会う事によって、変わっていった。

もっとラフに考えて今を楽しんでもいいんじゃないだろうか。

もっと自分の好きな生き方を選んでいいじゃないだろうか。

そう思うようになっていった。

自分が選んだ沖縄移住という事。

ずっとやりたいと思っていた事を実現させてみて、確かに失ったものもあるけど、素直に良かったと感じた。


「人生は船の積荷を降ろしていく作業」


アキから聞いた言葉。

色んなものを積み重ねていくのが大事だと思ってたけど、目的地に向かう為には、荷物を降ろして整理していかなきゃならないって事を教えられた。


沖縄の生活は、いつも気張って見栄を張ってなきゃいけないと思ってた自分にとっては、とても気持ちが楽だった。

好きな場所に居られて、色んな人に出会って、とても新鮮で刺激的な日々だった。

心穏やかでいられる、自分らしくいられる、そんな場所に辿りついたようだった。






徐々に仕事に慣れてきてはいたが、その中でもしんどいこともあった。

密閉された空間に一人残されているのは、まるで監獄にいるようだったということもある。

まぁそれは一人の時間を楽しんで、気ままに出来たって言う意味では良かったのかもしれないが。


周りの人達ともうまくやれていたけれど、唯一苦手だったのが、東京出身の副店長さん。

休憩時間がどーのとか、なんで?ってとこで怒られていた。

自分には嫌がらせにしか感じられなかった。

まさか沖縄に来てまで、東京の人にストレスを与えられるとは思わなかった・・・

この人は、最後まで苦手だった。

仕事と関係のない所でやたら指摘してきたり、感じの悪い言い方してきたり。

なんでこんな嫌がらせするのか不思議でしょうがなかった。

何が気にくわなかったんだろうか・・・

まぁ女性だらけの職場でヒステリックになっていた部分もあったんだろうけど。


そんな副店長から一言を浴びた日は、非常に気分が悪かった。

いらいらした自分は帰りにトロピカルビーチで大きな空を眺めたり、夜に海浜公園をジョギングしたりして、気分転換をしていた。

少し暑さも収まった夜の海浜公園は、海からの風が吹き、とても気持ちが良かった。

音楽を聴きながら、ジョギングをしていると少しは気分が紛れるのだった。

一周走り終わった後は、広場で大きな夜空を眺めて、気分を解放していた。


仕事のストレスで鬱になった私は、それが原因で沖縄に渡ったのに、沖縄でも東京の人からのストレスを浴びるのであった。

沖縄でも仕事は仕事だなぁと痛感した。

この職場は今でも色々問題があるみたいだけど、ちょっと変わったとこだったんだろうなと思う。




仕事にも生活にも慣れてきて、沖縄での生活が日常的なものへとなっていった。

休みの日には、沖縄中をバイクで走り回った。


『浜辺の茶屋』で佇んでみたり、グスクを回ったりして、東京には無い自然を感じる事が、とても好きだった。

目に入る全ての光景が新鮮で、自分には新たな発見がいくつもあった。

沖縄の風を切って、走るのは最高に気分がよかった。


砂辺の『ふぁぶ』で、海に沈んでいく夕日を眺めながら過ごす時間は至福の一時だった。


今まで行ったことがなかった沖縄のローカルな部分を色々見て、よりいっそう沖縄という物を感じるのだった。

移動手段がバイクしかなかったので、遠方まで行くことが出来なかったのが少し残念だったが。


3月4月は特に急な雨が多く、しかもスコールのような強い雨が降る。

バイクしかなかった私は、通勤中によくびしょぬれになっていた。

さすがに辛いなと思った私は、預金通帳を眺めながら車の購入を検討し始めた。

雨でも出かけられる、大きな買い物もできる、北部とかさらに遠方にも行ける。

自分にとって車の入手は、とてもメリットのあることだった。

ただ大金が出ていくので、バイクの時とは違って非常に慎重になった。

仕事の行き帰り、休日は中古車屋巡りをしたものだ。


なかなか良いのに巡り会えず、入手するまでは結構時間がかかったと思う。

宜野湾の中古車屋が並ぶ通りに何度も足を運んだ。

車選びにはあーきーにも手伝ってもらった。


ネットで見つけたパジェロミニを目当てに一件の中古車屋に出向いた。

私が到着した時には、運の悪いことにちょうど売れてしまった後だった。

そこで横に展示されてあった車が目に入った。

真っ白なホンダ『Z』。

一目惚れだった。

即決で決めた。

軽なんだけど、大きいタイヤに後ろも結構大きくて荷物も入る。

RV好きの私には、ぴったりだった。

今でもこいつは沖縄ナンバーを付けて、一緒に関東を走っている。


こうしてやっと車を手に入れた私は、これからの生活の便利さを考えるととてもテンションがあがった。

これでさらに色んな所に行ける。


車を手に入れてからは少し離れた名護や南部などに良く足を運んだ。

車の中で好きな音楽を聴きながら、流れゆく景色を眺め、沖縄の道を楽しんだ。


こうして移動手段を手に入れるまで、色々やることがあったので、鬱という状態にはさほどならなかった。

とにかく全てが刺激的で新鮮だったということ。

そして色々とやらなければならないことが多かったということ。

そのおかげで余計な事を考えなくて済み、単純に生活を楽しむことができた。

特に沖縄の空の下でする洗濯は、とても好きだった。


鬱は、こうして自分から徐々に離れていった。

ただ依然として不安だったので、心療内科には通っていて、レキソタンとドグマチールは服用していた。

それのせいもあるだろうけど、沖縄での生活が進むにつれ、自分が普通に戻れていることを感じた。

笑って過ごすことができるようになっていった。

沖縄の自然を心から楽しむことが出来ていた。


ふと寝る前にこう思った。

『寝床も食べる飯もある。

仕事もあるし友人もいる。

好きな場所に居られて全てが揃っている。

これってかなり幸せだな』と。


沖縄で普通に生活出来ていること、それ自体に幸せだと感じる事ができたのだった。