消費税増税が派遣労働者を増やす──そして行きつく先は… | TABIBITO

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消費税増税によって派遣労働者が増えると言う記事が、「東京」と「日刊ゲンダイ」に出ている。
 
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「東京」24日付は「消費税増税で派遣誘発 企業の『仕入れ』扱い控除」と題して、「来年4月の消費税率8%への引き上げで、派遣社員がさらに増大する恐れがある」と次のように説明している。
 
「企業は派遣社員を多く受け入れるほど、納める消費税の額が少なくできる仕組みになっている」「消費税率が3%から5%に引き上げられた後も派遣社員が増えた。消費税増税は国民の暮らしを苦しめるだけでなく、労働環境の悪化を招く可能性がある。」
 
「企業が納める消費税は原則として、売り上げにかかった消費税から、仕入れの時などに支払った消費税を差し引いた分を納税する。同じ取引への二重課税を防ぐためで、支払い分の対象に派遣社員を受け入れた際の派遣料も含まれる。
 企業にとっては、正社員、派遣社員とも雇えば人件費がかかるが、派遣社員分は経理上『仕入れ』。割合を増やすことで、労働力を確保して消費税を減らせる。税率が上がればメリットは膨らむ。
 例えば、従業員200人の企業が年間で1人500万円の給料を払っているとする。このうち100人を同じ金額で派遣社員にすると『仕入れ』は年5億円。単純計算で消費税率5%で2500万円、税率8%では4000万円の消費税を納めずに済む。
 制度としては派遣社員を受け入れた会社は、消費税分を含めて派遣会社に派遣料を支払う形になっていて、派遣会社がその消費税を国に納める。しかし、一般的に派遣会社の方が立場が弱いため、上がった分の消費税を派遣料に上乗せしにくい。企業側は事実上、負担は増えずに消費税の控除額だけが増える。」
 
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「日刊ゲンダイ」26日付でも「最悪事態 消費税アップでハケンが急増するゾ!」と題して、同じ内容を取り上げている。
「日刊ゲンダイ」の説明では、
「企業が納める消費税は、販売先から受け取った『受け取消費税』科ら、仕入れ時に払った『支払消費税』を差し引いた額を納税する。
たとえば仕入れに100万円を使った場合、支払消費税は5万円、売り上げが200万円なら、受取消費税は10万円だから、納税額は5万円になる。
 ポイントは、企業にとってハケン社員は経理上『仕入れ』扱いになるため、ハケン社員を増やせば増やすほど、納める消費税を少なくできるメリットがあることだ。
 それに比べ、正社員に給与を払っても当然、納税する消費税は減額されない。そこで消費税率のアップをきっかけに、正社員をクビにして『仕入れ』扱いにできるハケン社員に置き換える企業が続出しかねない、と心配されているのだ。」
 
労働総合研究所研究員の木地孝之氏(経済統計)が次のように語る。
「最大の懸念は、派遣労働者にシワ寄せがいきかねないことです。消費税が8%、10%とアップしても、派遣会社は立場が弱いために、増税分を転嫁できないと思う。となると、危険労働者の賃金を引き下げるしかない。派遣労働者の生活はさらに苦しくなりますよ」
 
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「東京」と「日刊ゲンダイ」の説明を少し言い方を変えるとこうなる。
企業は、消費税を納入する際に、年間の「売上げ高」に5%を掛けた額から、「仕入れ高」に5%を掛けた額を差し引いて、納税額を計算して税務署に納める。これが「仕入れ税額控除」である。
「仕入れ高」には、交通費、通信費、消耗費、家賃、修繕費、機械の購入費、外注費などが含まれる。
直接雇っている労働者の給料には消費税はかからないので差し引くことができないが、派遣労働者の場合は、派遣元に支払った派遣料の消費税分が「外注費」として控除の対象となり、その分企業の利益が増える。
当然、企業は、消費税が上がれば上がるほど、納める消費税を少なくするために、正社員から非正規雇用に、すなわち派遣=「外注費」に変えて、派遣労働者の比率を増やす。
派遣労働者の数が総体として大きい大企業になればなるほど、控除の額は莫大なものとなる。
 
 
しかも、輸出大企業は、「輸出戻し税」で、国から多額の還付金まで戻ってくるのだ。
また、下請けを抱える大企業の多くは、立場の弱い下請けに消費税分を払わせて、自分たちは実質的には消費税を払わない。
 
 
このように、消費税が8%、10%になっても、大企業は、痛むどころか、儲けが増えるところさえもある。
おまけに、これまでと同じように、消費税増税分が、法人税減税をはじめとした大企業優遇減税の財源につぎ込まれれば、まさに「一粒で二度おいしい」「一挙両得」ということになる。
 
財界や大企業が、消費税のアップを要求する理由がここにある。
 
 
イメージ 6一方で中小企業や下請け零細企業の多くは廃業に追い込まれる。リストラも行われるだろう。
派遣労働など非正規雇用がさらに増大するばかりか、賃金も下がる可能性がたいへん大きい。
 
派遣社員の場合、消費税の負担が、企業→派遣会社→派遣賃金へと転嫁されていくのだ。
 
 
 
「日刊ゲンダイ」では最後に、「いまや非正規雇用は、労働者の36%を占めている。来年4月以降、ニッチもサッチも行かなくなる国民が続出するのは必死だ」と述べている。
 
「東京」では、税法に詳しい青山学院大の三木義一教授が8%への引き上げの影響について「5%への引き上げ時にも、間接的に派遣増加に影響を与えた。今回も企業が正社員を派遣社員へとさらに置き換え、雇用がもっと不安定になる恐れがある」と指摘している。
 
消費税率が3%から5%に上がった1997年のときはどうだったか。
 
97年の翌年の倒産は、19171件、負債総額14兆3800億円と、戦後最悪を記録した。
そして、自殺者は前年比35%増の32863人、特に経営者や自営業の自殺が44%増の4355人だつた。
97年以来15年間連続で毎年3万人を超える事態となり、昨年2012年は、27858人と3万人を切ったが、来年4月に8%、2015年に10%に引き上げられる予定だが、一気に4万人、5万人と増えるのではないかとの予測もされている。
 
そして、非正規社員の割合は、97年まで20%前後で推移していたが1999年には25%(4人に1人)、2005年には33%(3人に1人)にまでに上がった。
97年増税を前後して、「労働者派遣法」も改正され、企業が派遣を使いやすくする法整備もすすめられていった。
 
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日本経済全体の「賃金コスト」も99年から04年にかけて12.9%低下した。
 
消費税増税によって、多くの中小・零細企業が倒産・廃業する、一方大企業などもリストラを行うなどして、雇用はますます“買い手市場”となる。
大量の失業者があふれる状況となると、「嫌ならやめてもらっていいんだよ」と安い賃金で無理な仕事も押し付けることになる。
 
さらに、働き口がない、なんでもいいから…となったときに目の前に出てくるのは「危ない仕事」である。
 
今、安部政権のもとで「集団的自衛権の行使」や憲法改正、秘密保護法制定など、戦争をする態勢が作られようとしている。
石破さんが「戦争に行かない兵士は、死刑か懲役100年」などと、超おっかないことを、これまた、超おっかない顔で、おおっぴらに言ってのける時代になってしまった。
 
そのことと、消費税増税──失業と派遣労働者増大──集団的自衛権行使と憲法改悪は、どこかでつながっている気がしてならない。
 
戦争と貧困は、いつも隣合わせだ。
 
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                         「日刊ゲンダイ10月28日付
 
ジャーナリストの堤未果さんが前に、「アメリカでは、たくさんの貧困層の若い青年が、派遣労働者として、イラク戦争など戦地に狩り出されている。そこで戦死しても、派遣の「兵士」は国から125万円ぐらいしかお金が支払われない。トラック運転手などの場合は戦地で死んでも1円も出ないし労災もない。ひどい労働環境で、過労死や自殺もある」と言っていた。
 
アメリカでは「貧困ビジネス」が国家的に行われているが、へたをすれば日本もそうなりかねない。
 
若者の2人に一人は非正規で低収入、正規労働者では過労死もしかねない長時間・過密労働、ブラック企業も横行している。さらに非正規化と低賃金がすすみ、戦争に駆り出されることになるとしたら踏んだり蹴ったりだ。
 
そもそも、消費税3%増税分で8兆円の財源ができるらしいが、同時に、景気の落ち込みを補うため5兆円の経済対策をするという。
復興法人税1年前倒し廃止、賃上げした企業の法人税減税、低所得者へ2400万人に1万円などだが、そんなことをするのなら最初から、もっと富のあるところに課税をして、ムダを削ったり、節約して3兆円をひねりだした方がいいのではないか。
 
おまけに、年に2兆5千万円の「輸出戻し税」が、少なくとも8%で4兆円、10%で5兆円も大企業を中心に還付されることを考えると、ちゃぶ台を思いっきりひっくり返してやりたくなる。
 
大企業栄えて民滅ぶ──亡国の消費税増税はやめるべきだ。
 
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