乱歩の「陰獣」
あまり知られていないが、江戸川乱歩は猫が好きだった。
乱歩の自伝「探偵小説四十年」で、大略以下のような事を語っている。
「私の代表作「陰獣」は、”淫獣”のイメージでとらえられてしまったが、陰獣とは中国語で猫のことである。 家庭の事情で猫が飼えないが、本当は猫に囲まれて暮らしたかった。」と。
この作品には、ある美人の人妻を執拗に追いまわす大江春泥という探偵作家が登場する。
その人妻の家の天井裏に忍び込み、彼女の一挙一動を観察してそれを手紙に書いて送ったりする。
今で言うストーカーであるが、この人物の行動が猫的なので、陰獣というタイトルを付けたのだろう。
大正末に彗星のようにデビューした乱歩は、「二銭銅貨」「人間椅子」「屋根裏の散歩者」などの傑作を次々に発表し、あっという間に推理文壇の第一人者になる。
しかしアイデアの枯渇に悩み、昭和二年には休筆宣言をして放浪の旅に出る。
多くの読者は、”乱歩はどうしているだろう?”とやきもきしていたに違いない。
そこへ翌昭和三年、この「陰獣」を引っさげて颯爽とカムバックしたのだ。
これだけでも「陰獣」が注目されたであろうことが推測できるが、その内容がまた凝っている。
そこでは乱歩自身をモデルにした探偵作家=上記の大江春泥が登場し、「一銭銅貨」や「屋根裏の遊戯」などを発表した後突然筆を絶ってしまう・・・という設定になっているのだ。
乱歩の復活を今か今かと待っていた読者は、この作品にワッととびついたに違いない。
実際、「陰獣」を掲載した「新青年」は売れに売れ、雑誌としては異例の増刷までしたという。
この作品は乱歩の代表作の一つであり、今読んでもゾクゾクするようなサスペンスが感じられるが、本作を最も楽しめたのは、上記のようにリアルタイムで読んだ人だったように思う。
当時の読者がうらやましいと、つくづく思う。
これから「陰獣」を読む人は、初期の短編群を読んでから、そして乱歩の略歴を概観してからチャレンジすると,当時の読者の興奮を追体験できるのではないだろうか。
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雨夜のアンギラス
雨の夜になると、アンギラスが心に浮かんでくる。
「ウルトラマン」などの影響で、1960年代の半ばは怪獣ブームになり、
昔の怪獣映画がテレビでどんどん放送された。
1954年の「ゴジラ」も、ある日曜日の夕方に放送された。
またナイターが雨で中止になった時に、怪獣映画が放送される事もあった。
そうした一本に、「ゴジラの逆襲」があった。
その時の印象が強かったためか、夜に雨が降っていると、
この作品に登場するアンギラスを思い出すのだ。
この映画は「ゴジラ」の大ヒットを受けて急遽製作された作品で、
大阪を舞台にゴジラとアンギラスが激突する。
二本足のゴジラに四つ足のアンギラスをぶつけるなど、いろいろ工夫の跡は見られるが、本多猪四郎と伊福部昭が参加していないためか、今ひとつの感がある。
アンギラスはゴジラにアッサリ倒されてしまうが、「キエ~ン」という悲しそうな鳴き声が印象的だ。
数年前の「ゴジラ・ファイナルウォーズ」ではアンギラスが上海で大暴れしており、「逆襲」での弱々しいイメージを吹き飛ばして爽快だった。
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