では、『海に棲むのは』編の続きを書いていきたいと思います。ようやく宮城を助け出す事に成功した日暮達ですが…。一応、基となる作品が実在しているのを使用して書いている『二次創作』。更には捏造要素も盛り沢山の『小説もどき』となっています。もし閲覧して下さる際には、その辺も察して頂けると嬉しく思います❗️

 

 

 

 

 

 

 

「…よし。何とか心拍が戻ったみたいね。もう大丈夫だと思うわ。」

「…!そっか。良かった!!」

数十分前まで海の中の、それも相当に深い所に潜っていた事。何より大切な友人を捕らえ深い所へ引きずり込もうとしてもいた『何か』と対峙する為とはいえ、自身の刀剣男士…『浦島虎徹』の力を暴走させようと自身は傷を負ったりしていたのだ。普通の人なら倒れ、命の危機も迎えていただろう。だが、その血筋から『人と異なる存在』である日暮には、まだ命の危機と呼ぶようなものは近付いていないらしい。現に海から出た後も宮城に対し胸部圧迫等を含めた心肺蘇生の処置を実行。心拍が再開されたのを確かめると安堵しながら、宮城に付き添っている刀剣男士の乱や皆にも聞こえるように声を発する。もっとも即死するような傷を負わなければ死なないだ

けで、霊力が宿った力による攻撃での負傷は一般的な刃物等で付けられたのとは異なり、なかなか修復されないせいか。その脇腹等からは血が滲み続け、体もふらつくようになってしまっていたが。

 

 

 

そんな時だった。日暮の背後から何者かが接近してきたのは。それだけではなく手にしていた物で彼女の体を貫こうとまでしてきたのは…。

「…っ。駄目だよ、浦島さん!これ以上、暴れたら!大事な主さんなんでしょう!?」

「…。」

「お願いだから止まって!僕の大切な主さんを助けてくれた人を傷付けないで!」

「…。」

疲労等が溜まっていても、反応が素早い者が少なくない短刀の刀剣男士の1振となる乱だからか。鳥居からの手入れで回復した後だったとはいえ、日暮を本体の脇差で貫こうとしていた浦島に対し素早く反応。その攻撃を受け止め声もかける。だが、元々戦力で見てしまえば浦島の方が優勢になってしまうせいか。何とか刀を受け止められても弾き返す事は出来ない。そして日暮の血を浴びた事による力の暴走状態は、海水で少しずつ弱まっていてもまだ続いていたらしい。それを示すように呼びかけに応えるどころか、攻撃しようと圧し続けている。圧し返されている乱が少しずつ後退していた。

 

だが、乱が倒される事はなかった。鳥居の所で結界の補佐や河江の保護も行っていた刀剣男士『大倶利伽羅』が離れたかと思うと、乱を援護するように浦島の刀を一緒に抑えてくれたのだ。そして…。

「ありがとう、2人共。もう大丈夫だから。」

「っ、君…。」

「そして…ごめんね、浦島。休んでて良いから。…『顕現解除』。」

「…っ!」

乱と大倶利が刀を受け止めている陰から2人へ感謝の言葉を口にしながら歩を進めていく日暮。体がふらついた状態のままだというのにだ。そして彼女の状態に2人だけではなく、今回の事件の真犯人である『森 絵莉花』や意識が戻っていない宮城以外の者も心配そうに見ている中で浦島へ接近。優しく声をかけたかと思うと、自身の血を拭った方の手で彼の体に触れる。すると触れた後に唱えたのが刀剣男士としての顕現化を解除する言葉で実際に術も発動されただろう。浦島の姿は人から本来のもの…1振の脇差へと変化し、日暮の足元へ落ちていって。それを拾い上げると鞘にも納めた。労るように優しい手つきで…。

 

 

 

こうして新たな脅威となりそうな者の姿が消えたからか。刑事と『河江 夏子』は刀剣男士という存在を理解していなくても胸を撫で下ろす。だが、同じように刀剣男士を理解していない者であっても森だけは、この展開に不満げな様子だった。河江を含めこの場にいる自分以外の者を始末出来ない。野望が打ち砕かれたように感じていたから…。

「…当然よ。あなたは負けたんだから。まだ、それを理解していないようだけどね。」

「…っ、負けてないです~。私はまだ、あなた達を消す事が出来ます~。それを今から証明してやります~!」

「どうぞ?どうせ無理だと思うけど。」

「何を…っ!?」

宮城が海に呑み込まれ、それを日暮が助けに向かう直前に森は術で更に皆を追い込もうとしたが刑事に取り押さえられてしまった。しかも日暮が『手が要』と言い残していったからだろう。刑事により手首を思いっきり捻り上げられてしまった森は指も動かせなくなってしまうほどの痛みを感じていた。だが、苛立ちの感情はその痛みも忘れさせてしまったらしい。現に激しい痛みが走っているはずだというのに指が動く事に気付いたからだろう。術を発動すべく密かにその形を取り振ろうとした。

 

だが、森が再び術を発動する事は出来なかった。正確にいえば術は発動したのだが、自分以外の者達への攻撃が出来なかったのだ。少し前の時のように『海蛇のようなもの』は生み出せたのだが、標的にしたのは日暮達ではなく自分に向かってきたからだ。それも宮城が呑み込まれた時のように海水だけの攻撃ではない。『海蛇のようなもの』の本体であり海中で宮城を捕らえていた、黒い『何か』が現れ食い付いてきたのだから…。

「っ、止めて!噛まないで!溺れたく、ないです~!…っ、嫌あぁ、助けて~!」

悲鳴を上げて抵抗するが攻撃は一向に止まない。『何か』に何度も食らい付かれ、『海蛇のようなもの』が覆い被さってくる事で海水で溺れさせられる。更に森は気付けなかったが、いつの間にか自分の周囲には誰もいなくなっていて。誰もいない空間にて拷問と呼ばれる行為をずっと受け続けていたのだった。

 

だが、一方の河江達も動揺していた。自分達の前で森の様子がおかしくなってしまったからだ。日暮と対峙した後に悲鳴を上げ体を震わせたりと、明らかに何かに対し強い恐怖を示すようになったのだ。それも自分達の事が見えていなさそうな様子で…。

「…悪夢を見ているの。私の友人が体験した事を使った悪夢をね。」

「っ!?悪夢、って…。そんな事…。」

「その…大丈夫、なんですか?」

「さぁ?罪を意識して心の底から認めれば覚めるんじゃない?それがいつになるかは彼女次第だけどね。…大切な友人を殺そうとしたんだから、これぐらいの罰は受けるべきだわ。」

「っ、そうですか。」

森がおかしくなった原因を知ってしまった事。それを話す日暮の姿に『自分達では止められない』と思わせるほどの恐怖を覚えたのだろう。皆は困惑するばかりだ。だが、当の日暮の思考は既に森や彼女を案じる河江達ではなく、目が覚め始めた宮城の方へと向かっていたらしい。その事を物語るように宮城の方へと体を向け直すと、彼女へ歩み寄ろうと踏み出した。

 

 

 

そんな日暮だったが、宮城へと駆け寄るどころか声をかける事すら出来なかった。全身の脱力感を覚えた途端、急激に意識も遠ざかってしまったのだ。そして立ってもいられなくなり転倒。視界も一気に暗転してしまったのだから…。

「っ!?琴里さん!琴里さん!!」

目覚めた瞬間に、その光景を目の当たりにしてしまった宮城は声を張り上げる。だが、それに日暮は応えるばかりか、全く動かなくなってしまうのだった―。

 

 

 

 

 

 

 

 

…というわけで、シリーズ第14話目でした。

今回はシリーズの終盤らしく、『浦島虎徹』の事や『森 絵莉花』への罰について等を回収してみました❗️ちなみに『日暮の血を浴びた刀剣男士は暴走し易くなる』というのは、この『白審神者の事件簿』の初期の頃にも書いた(はずの)設定です。ただ実は浴びる血についても『出る箇所が命に直結する部位ほど暴走し易い』という設定もあったりします。なので首や心臓近く等から出た血を浴びてしまえば、今シリーズの浦島以上に暴走してしまうのです。そして暴走してしまえば『審神者』や特殊部隊。刀剣男士ですら止められない可能性が高かったりします。つまり『諸刃の剣』というヤツです。その辺の事も覚えていてくれると嬉しいです🙏

 

それでは、また~🖐️

では、『海に棲むのは』編の続きを書いていきたいと思います。宮城を助ける為に行った作戦とは…。まだ5月なのに寒暖差でやられそうな奴が書いてます。皆さんも体に気を付けながら見て下さいね❗️

 

 

 

 

 

 

 

現代の主…『宮城 美亜』が海に引きずり込まれた光景を目の当たりにした時、『彼』は絶望を覚えてしまった。密かに立てていた『ある誓い』を、果たす事が出来ないと思ってしまったのだから…。

 

 

 

『彼』…『乱藤四郎』は短刀の刀剣男士で、その存在から新人の『審神者』でも招き入れ易い。更に大半の彼が明るく人懐こい性格をしているからだろう。身近に置いて貰える者も少なくないぐらい、どの『審神者』からも比較的受け入れられ易かった。そして傍に置いて貰えるからこそ、現代の主である『審神者』の性格や思考を見抜く事に関しても遅くない。この乱も初期刀…『歌仙兼定』の次に招かれたからか。主の宮城の事を『仕草に気品を感じさせる穏やかな性格』であり、悩みもあまり持っていない人物だと思っていた。

 

だが、初鍛刀の刀剣男士として身近にいる内に、宮城の性格等について一部見誤っている事に気付く。『気品を感じさせる穏やかな性格』という部分は間違っていなかったものの、苦しみや悩み等を抱えていても見せようとしない事をだ。『審神者』の世界の中で、特に女性が優秀な者が生まれ易い事で名が知られている『宮城』家出身が故に周囲から色眼鏡で見られ易い事。それを強く自覚している為に、養成所の頃から優秀でいようと日々奮闘していたというのにだ。更に『審神者』になってからも、その状態は変わらない。むしろ友人を含め周りには優秀な『審神者』が少なくなく、宮城に対する色眼鏡も益々強くなっていったせいか。休暇を与えられても現世

ではなく本丸で過ごし、気分転換らしい事もしない。だが、苦痛を一切見せずに穏やかな表情で居続ける。それほどまでに刀剣男士の自分達にですら、想い等を打ち明けてくれなかった。

 

そんな日々の中で『ある出来事』が起きてしまう。海に行った宮城が溺れ、命まで危うくなるという出来事がだ。その日は長期休暇の最中だった上、海の映像を観ていた彼女が行きたそうにしていたからだろう。現世の海に興味があった乱も表面上は護衛として一緒に行った。ただ、それだけだった。

だが、そこで悲劇が起きてしまう。最初は砂浜に近い所で一緒に泳いでいたはずなのに、いつの間にか宮城だけが沖の方へと流れてしまい海中へと沈んでもしまっていたのだ。幸いにも他の海水浴客が異変に気付き救助隊等に知らせてくれ、助け出されたおかげで一命は取り止められた。だが、昏睡状態に陥っていた時に一報を受け駆け付けた日暮が話してくれたのだ。宮城は水辺が好きで行きたがるが、とても溺れ易い事。その理由として『水に宿る存在に好かれ過ぎているから。』というのが考えられる事に…。

「『水に宿る存在』って…。」

「…あなたも見たんじゃない?海に沈んでいくのを止めて引き上げようとした時に何らかの異常、例えば…彼女に近付く『何か』の姿を。」

「…っ!」

「やっぱりね。だから注意するように本人にも言ったんだけどね。水辺に行く時には誰かと一緒にいる事や、言えそうな相手だったら伝えた方が良い事も。…あなた達は知らなかったのね。」

「う、ん…。」

初めて聞かされた宮城の体質。しかもあの時の海中では日暮の言葉通りの異常…『宮城の周囲に黒い霧状の『何か』がいる』という事が起きていたせいだろう。付き添いし続けていた乱は動揺しながらも何とか頷く。すると一瞬の間の後、日暮はこう続けた。

「…ここからは私の想像で考えでもあるから、正しいのかも分からないけど…。彼女は『そういう部分』を見せられないんだと思う。『あの家に生まれて育って『審神者』にもなれたのなら、弱い所を見せてはいけない。』『家柄の、血筋の恥になるような事は許されない。』とか考えたりして。それに…彼女の世代は優秀な『審神者』も少なくなかった。だから余計にね。」

「…。」

「そして…自分の近くにいる者に対しても、そういう意味で意識し過ぎているんだと思う。相手は『人に見えても異なる存在』なのに。…誰の事なのか、何となくでも分かると思うけど。」

「それは…。」

日暮が口にした事に対し、乱は言葉を濁してしまう。以前、主の宮城から『大切な友人』として紹介された際、まとう空気等から日暮が自分達と似た存在である事。つまり今、言われた者が誰の事かを否応なしに察してしまったからだ。だが、思わず気まずそうにしてしまう乱の一方で、当の日暮は気にしていないらしい。現に雰囲気も普段と変わらないままだった。

 

その後、宮城は意識を取り戻し、『審神者』としての職務も継続する意志を示してくれた。自分達の主のままでいてくれる事を告げてくれたからだろう。本丸の皆は宮城を見守り支える事を決意した。特に乱は本体の刀種や初鍛刀という立場。何より海の中で宮城の周囲を漂う『何か』を一番近くで見たせいか。特に『大切な主を『何か』には奪わせない。』という想いが一際強くなったのだろう。『何か』から宮城を守る事を改めて決意する。それは彼女が水辺に向かおうとする際、真っ先に名乗り出ると行動を共にし続けるのだった。

 

 

 

そんな決意と誓いを持ちながら宮城の傍らに居続けたおかげか。水辺への警戒は必要だったが、あの時以上の悲劇は起きず比較的穏やかな日々が過ぎていた。だが、再び悲劇が起きてしまった。しかも『他人を守ろうとして海に呑み込まれる』という不可抗力の要素が強い事が原因だったせいだろう。自身も疲労していたとはいえ守れなかった事実と相まって乱は絶望。付喪神で強大な力を持つ戦士でもある刀剣男士だというのに立ち上がれないばかりか、宮城から視線を逸らすように無意識の内に俯いてもしまった。

 

その時だった。こんな声が聞こえてきたのは…。

「顔を上げなさい、乱藤四郎。そんな状態だと助けられなくなるわよ。」

「…。」

「彼女を…あなたの主を助ける為には、あなたの存在が必要なの。彼女を地上で引っ張り上げてくれる存在が。だから、あなたは手入れをして貰って準備をしておいて欲しいの。」

「っ、どうするの…?」

「私が浦島と一緒に海に入って、『捕らえている存在』から彼女を引き離す。そして海上近くまで連れてくるわ。」

「大丈夫なの?それって…。」

「大丈夫、とは言い切れないわね。多分、彼女を『捕らえている存在』は攻撃してくるもの。彼女を取り返そうとしてね。」

「…っ。」

日暮の言葉のおかげで気分が浮上する乱だったが、それは一瞬の事。彼女が続けてきたのが様々な戦場を経験してきた刀剣男士ですら無謀と感じてしまう内容だったからか。驚き以上の困惑により何も言えなくなってしまう。だが、乱の動揺に気が付いていそうなはずの日暮の様子はやはり変わらなくて。むしろ淡々とした口調で続けた。

「あなたが心配する必要はない。だって、これは私が勝手に立てた手段だから。油断してしまった事で起きた悲劇と結果を挽回する為の、ね。」

「っ、琴里さん…。」

「それに…この方法はあなたの自我を失わせてしまう可能性も高い。顕現化を解かなくてはいけなくなるほどに。自分の所の刀剣男士ならまだしも、他人のにはやりたくない。…大切な友人の刀剣男士なら余計にね。」

「…っ!」

「というわけで…皆さんにも理解と協力をお願い出来ますか?今から言う事に。」

「しょうがないね。何とか頑張るか!」

「…仕方ない。」

「わ、分かりました。」

乱と交わしていた話を聞いていた事で彼と同じような不安を覚える浦島達。それでも現状を含めて、彼女が考えた方法と手段が最良だと感じもしたからだろう。未だ動揺はしつつも浦島達は頷く。そして日暮の立てた作戦に耳を傾けた後、それぞれ活動を開始した。

 

 

 

こうして不安要素が消えないまま決行された作戦だったが、結果的には成功を納める事が出来た。海中で日暮の血を浴びた事で浦島は自我を失ってしまったが、暴走させた力がいつもより強大なものである為に宮城を捕らえていた『何か』を一時的でも制圧。その隙に宮城を取り返す事に成功したのだ。更に海上近くまで何とか泳いでいけば、そこには作戦通りに乱が待っていて。その彼が最後は強く引っ張ってくれたからか。海から完全に上げる事が出来た。そして海中深くに沈んでいた事で呼吸と心肺も停止していたが、日暮が蘇生を施し乱の祈りと呼びかけの効果だろう。宮城は命を取り止められたのだった。

「…改めて誓わせて。今度は油断しない事。絶対に守り抜くって事を。」

まだ命の危機を脱して間もない為か。宮城の目は覚めていない。それでも乱の誓いの言葉は不思議と、だが確かに届いていたようだ。その事を物語るように彼女の表情は緩んだものになっていく。乱からの誓いの言葉で感じた幸せを表すように―。

 

 

 

 

 

 

 

…というわけで、シリーズ第13話目でした。

今回は刀剣男士の『乱藤四郎』目線の話を主に書いてみました❗️普段は明るく、あまり自分の考えや想いを表に出さないイメージが強い彼。ですが、やはり刀剣男士ですので色々と考え、時には苦しんだりもしている。そして『審神者』との距離を縮め易い性格である為、その『審神者』の人間性も見抜く事が容易な立ち位置にいる。だからこそ『今の主となる『審神者』に関する悩みが意外と深いんじゃないかな~?』と思い、今話にて改めて書き出してみたのです。その辺も含めて乱の事が少しでも伝わりますように🙏

 

それでは、また~🖐️

では、『海に棲むのは』編の続きを書いていきたいと思います。前回、自分を助けに海に入ってきた『日暮 琴里』がやられてしまうという、絶望的な光景を『宮城 美亜』は目の当たりにしてしまい…。妄想を煮詰めている『小説もどき』、そして基は存在しても捏造を練り込ませた分野となる『二次創作』の一品です。良ければご賞味下さい❗️

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ…こっちの方は任せたから。後はさっき話した通りにお願いするわね?」

そう言い残すと彼女…『日暮 琴里』は海に入っていった。友人の『宮城 美亜』を助けに向かったのだ。だが、向かった先となる海は直前の出来事と相まって、明らかに異常だと分かる状態になっているからか。付喪神で歴史を破壊しようとする脅威に立ち向かえるはずの『刀剣男士』ですら恐怖のような感情が湧いてしまったせいで、簡単に動く事が出来ない。現に宮城と日暮の友人である鳥居の本丸にいる打刀の大倶利だけではなく、今の主が海に呑み込まれ苦痛を感じているはずの短刀・乱もただ見守るだけになってしまっていた。

 

そんな彼らの恐怖や不安の感情は更に大きく膨らんでしまう事になる。海に入った日暮が一向に浮上してこない。むしろ宮城の姿や気配もほぼ感じられない状態が継続しているのだ。宮城が未だ助けられていない状況である事を否応なしに察してしまった乱の気分は浮上してこない。それは自身の手入れを鳥居が行ってくれたおかげで傷が癒えたというのに苦しげな様子のままでいるほどで…。

(っ、駄目だ。チャンスを逃さないように集中しないと。)

海に入る少し前に日暮が告げてきたのは宮城を助ける為の作戦で、乱にも協力を求めるものだった。だが、それはタイミングが重要である事も含んだ内容でもあったからだろう。その時のやり取りを過らせる事で乱は何とか我に返る。そして失敗しない為にも、彼は主がいるであろう海を真っ直ぐ見つめるのだった。

 

 

 

一方その頃。未だ宮城が呑み込まれた状態の海では乱が危惧していた事が当たってしまっていた。『海蛇のような波』を生み出している存在が宮城を離さなかった事。彼女を助けにきた日暮を痛め付け、瀕死の状態にまで追い詰めていたからだ。しかも日暮がほぼ動かなくなると、それが野望を叶える為の好機だと捉えたようだ。その事を示すように宮城を改めて捕らえると更に海の深い所へ引きずり込もうとした。

 

そんな時だった。日暮の口角が僅かに上がったのは。そればかりか『ある物』を仕込んでいた背中から引き抜くと呟いた。

『頼むわよ。…浦島虎徹。』

「…。」

触れながら心の中で呟けば、その姿は1振の刀…脇差から青年へと姿を変えていく。明るい髪色が特徴的な刀剣男士…『浦島虎徹』へとだ。だが、その髪色や容姿を含め明るい性格の者が多いのに、今の彼は無言な上に瞳も虚ろという様子をしていて。親しみ易いと感じさせる姿とは真逆のものだ。それは意識をほぼ失いかけている状態の宮城ですら我に返させるほどの恐怖を与えてしまったのだろう。現に彼女は目を見開くと、自身の知っているのとは異なっていた浦島を見つめ体を強張らせていた。

 

だが、当の浦島の状態がそこから変化する事はない。むしろ宮城や今の主であるはずの日暮にまで攻撃をしそうな雰囲気を漂わせ続けている。それでも日暮の意思は微かに残っているのか。ただ単に現状、脅威になっているのは宮城を捕らえている『何か』だったのか。脇差を改めて握ると身構えもする。そして…。

「…消えて。」

『…ッ!?』

1つ呟き霊力をまとった刀を振れば、水中であっても衝撃波が発生。それは迷う事なく自分達へと向かってきたからだろう。宮城を捕らえていた『何か』は動揺しながらも彼女を解放した。だが、付喪神からの攻撃に叶うはずもなく『何か』は損傷。しかも海中は自分達の領域の為に本来なら回復も早いはずだというのに、それが一向に進んでいない事にも気付いた為か。『何か』の中に荒々しい感情が芽生えていた。

『オノレ…我ラノ野望ヲ…。似タ者ニ、ナリカケテイルクセニ…。許サヌ…許サヌゾ!』

「…。」

そう漏らしてしまうほどに『何か』は荒ぶるが、刀剣男士は付喪神の中でも『人の為に、その想いに応える為に生まれた。』という存在である影響なのだろう。『審神者』の宮城を捕らえていた『何か』に対し、始末する対象と見なしたらしい浦島からの一撃をまともに受けてしまう。それも浦島の攻撃は浄化の力も含まれていた為に復活までには相当の時間を要する事にも気が付いてしまったのか。『何か』は不満を漏らす事は出来ていたが、少しでも早く復活しようと動きを停止させるのだった。

 

こうして何とか宮城の解放には成功した。だが、安心ばかりもしていられない。少なくても留まり続ける事は出来ないのだ。この場所が海中である事。彼女を捕らえていた『何か』が停止しているのは一時的なものだった事。何より今の浦島にとって他に強い力が宿っている『審神者』も標的にしまう可能性が高かったのだ。実際、一時的でも『何か』の制圧に成功した事を認識すると、宮城だけでなく自分の主であるはずの日暮の方へと向きを変換。先ほどよりも遅いとはいえ、2人に向かってきたのだから…。

(っ!?どうして…。)

自身の本丸に浦島はいるが、今の彼は知らない姿だった。日暮の所の彼を含めてもだ。それは宮城の体を石のようにさせてしまうほどの動揺を生み、現に彼女の体は益々硬直させた。それでも日暮が手を引き泳ぎ続けてくれたおかげだろう。確実に彼女達は浮上していった。

 

そして…。

「主さん!」

『っ、乱さん…。』

海面が近付き明るさにも気が付いた頃に、大切な刀の1振で刀剣男士の声が聞こえてきた事。更に声の主は海に飛び込み、日暮と同じように海上へ引いてくれているのにも気が付いて。今度は安堵により宮城の意識は再び遠ざかっていく。それは地上で待っていた鳥居達の手も借りながら引き上げられ砂浜に寝かされても気付けないほどの深い安堵だった―。

 

 

 

 

 

 

 

…というわけで、シリーズ第12話目でした。

今回は宮城が助けられた時の事を一気に書いてみました❗️ちなみに最初に考えた際には『乱藤四郎』も日暮と一緒に宮城の所へ向かわせようかとも考えました。ただ海上近くで宮城の事を強く引っ張り上げてくれそうな存在が欲しかったので、乱にこういう動きをして貰ったのです。

あと日暮の『浦島虎徹』がおかしくなったのには、ちゃんと理由があります。それと宮城を救出する為の作戦や、向かっている間の鳥居達との事も含めた話は後日改めて書くつもりです。なので、待っていて下さると嬉しいです🙏

 

それでは、また~🖐️