9.最後はファーストクラス〜帰国へ その2
搭乗から最初のミールサービスまで
ANAファーストクラスは、ボーイング777−ER先頭部に横4席2列8名分のみ設けられている。東京からの就航路線は北米6都市9便(ニューヨーク2便、シカゴ2便、ロスアンジェルス2便、ワシントンD.C、ヒューストン、サンフランシスコ)、欧州2都市3便(フランクフルト2便、ロンドン)そしてシンガポール(現在は撤退)と限られている。ビジネス需要にターゲットを置いて、全便満席でも1日100名少しの乗客ということになる。
ボーディングブリッジから機内に入ると、
「こんにちは、C様。お席はこちらです」
とCAさんに1K席(右窓側)に案内された。
指定された席に着くと、
「C様ご搭乗ありがとうございます。私Kと申します。早速ですがリラックスウエアにお着替えされますか」
「お世話になります。お願いします」
広い方の化粧室には着替え用のボードがあり、ジャージとパジャマの中間の様な肌触りの良いリラックスウエアに着替える。着ていたジャケット、シャツ、パンツはKさんが預ってくれた。
席に戻ると、ウエルカムドリンクの希望を聞かれた。シャンパンをお願いすると、ヴィンテージシャンパン「クリュッグ」がグラスに注がれた。グラスに口を付けると、香り高く強い味に少し驚く。時々飲むノンヴィンテージ(モエやポメリーなど)は軽い感じでグイッと飲めるが、ヴィンテージ物はそうはいかないようだ。少し落ち着いてきたので、周囲を見回すと搭乗者は4名で全員が窓側のA・K席だった。ファーストクラスサービス担当のCAさんは2名で、1名が2人のお客を担当する厚いサービス体制である。
クッション付きのベルトを締めて寛いでいると、定刻にANA(NH)001便東京成田行きはプッシュバックを開始、誘導路から滑走路に入り離陸した。成田までの約13時間フライトがスタートした。私は通常旅したアメリカに対しての惜別で感傷的な気分になることが多いが、そうした気分より未知なるサービスへの期待感の方が上回っていた。
上空に達し安定飛行に入るとファーストクラスのサービスが始まった。Kさんがレストラン同様の料理と飲物のメニューブックを置きながらシャンパンを注いで行く。
続いて「アミューズ(突き出し)」が運ばれて来た。アミューズを食べながらメニューブックを開き、その内容を見て和食か洋食どちらにしようか少し悩んだ。
アミューズは4種盛りで、干しイチジク生ハム巻き、キノコのマリネ、シュリンプカクテル、チーズスティックだった。中でも生ハムとチーズスティックはシャンパンにとても合っていた。
「お食事はどうなさいますか」
「和食を頂きたいんですが、主菜の魚が苦手な物なのでそれだけ洋食のステーキに出来ますか」
私はわがままを言ってみた。
「勿論ご用意させていただきます」
「ありがとうございます」
有り難いことにわがままが通ってしまった。私はビジネスクラスでも和食を選んだことがないので初和食の機内食がとても楽しみだ。
「前菜盛り合わせ」
粒雲丹、蛍烏賊沖漬け、鮭手毬寿司、トロロ芋千切り、鶏肉八幡巻きなど。その中で蛍烏賊沖漬けと粒雲丹が美味かった。シャンパンは和食珍味にもしっかりと合った。
「お椀/浅蜊真丈梅素麺」
出汁の風味と薄めの繊細な味付けにほっとした気持ちになる。真丈は浅蜊と魚のすり身のバランスが良くて美味しい。お椀は和食の華というのが良く分かる。
Kさんが次のワインの希望を聞いてきたので、和食に合いそうな山梨甲州種白ワインをお願いした。実際に飲むと和の食材を引き立てる感じで料理と合っていた。
「造り/鯛昆布〆焼き霜造り」
ワサビではなく柚子胡椒とポン酢でいただく。昆布〆で軽く熟成されて、歯応えよりネットリとした食感と鯛の旨味を感じた。
「酢の物/あん肝ポン酢」
コクがあって想像以上に美味しかった。添えられたオニオンスライスがさっぱりとして肝の油を流してくれるようだ。
「煮物/ロブスター味噌煮」
米国積込なので伊勢海老ではなく調達しやすいロブスターで調理されている。少し歯ごたえのある身と薄めの味噌味が美味しかった。
「主菜/USプライムフィレステーキ」
旅の最後に大好きなステーキで締めたかった。お願いしたミディアムレアの焼き加減も丁度良かったと思う。米国産赤身肉は柔らかいだけでではなく、牛肉らしい香りと溢れる肉汁を楽しんだ。パンにバターとオリーブオイルが添えられていた。
「デザート/アイスクリームプレート」
時間を掛けて多くの料理を食べて満腹となった。乾燥した機内とホロ酔い状態で食べるアイスクリームの美味しさは本当に格別だった。
「カフェラテと小菓子」
締めはカフェラテにした。同時にマカロンやチョコなどの小菓子(ミニャルディーズ)もサーブされ、それが空翔ぶ星付きレストランのフィナーレだった。