8.ワシントンナショナルズとスミソニアン その3
最後のMLB観戦ナショナルズ戦は16時試合開始だが、先着1万名にボブルヘッド(首振り人形)配布という事なので早めに球場へ行こうと思っていた。
メトロに乗って最寄駅ネイビーヤード(Navy Yard)が近付くにつれ、ナショナルズのユニホームを着たファンが車内に増えてきた。駅に着いて彼らについていくと、楽しそうな雰囲気を感じるエリアが見えてきた。それがワシントンナショナルズの本拠地ナショナルズパークだった。
チケットのQRコードをスキャンしてもらい入場すると、D.マーフィー選手のボブルヘッドが入った大きな箱を手渡された。私は心の中で「やった!」と思いつつも平静を装いながら座席を目指して歩く。最後に見る試合ということで「にわかファン」となって楽しもうと思い、公式グッズショップでナショナルズの赤いキャップを購入した。
ナショナルリーグ東部地区に属するワシンションナショナルズは2004年にカナダのモントリオールエクスポズがワシントンD.C.に移転して現在の球団名に改称した。
その後2008年に新しい本拠地球場としてナショナルズパークが開場した。主な選手は、MLBを代表する速球派右腕シャーザーとストラスバーグの2枚看板投手、打者のハーパー、マーフィー、ジマーマンというクリーンナップがかなり強力なものだ。この時は開幕ダッシュで首位を走っていた(その年ナショナルリーグ東部地区優勝を果たした)。
3階に上がり自席を確認してから、ボールパークグルメの物色をする。ぐるりと見て回った結果、「ベンズチリボウル」でチリドッグとダイエットコーラを$5.75でテイクアウトした。他球場に較べて良心的な価格設定だと思った。席に戻って食べ始めると、対戦相手のフィラデルフィアフィリーズが練習を始めたところだった。
ここのチリドッグはオバマ前大統領も好きで通っていた有名店のもので、チリの味付けが少々濃かったが、牛肉ソーセージには良く合っていて美味しかった。
先発が発表され、ナショナルズの先発ピッチャーはサブエースのストラスバーグだった。3番ハーパー、4番マーフィー、5番ジマーマンのクリーンナップも揃っていた。6番ワースは人気者でお決まりらしい狼の鳴き声を真似た「ウォー」という歓声が球場を包む。
開始時間になると観客は起立脱帽し、ホームベース近くに立った歌手を先導に国歌斉唱となる。何度味わってもこの凜とした球場の一体感は心地良いものだと思う。
ゲームは1−1の投手戦となり4回を終了した。するとライト方向から4体の細長い着ぐるみが登場した。ナショナルズパーク名物「プレジデントレース」が始まった。政治都市ワシントンらしく4人の大統領着ぐるみがレフトから1塁まで競争するイベントだ。「ワシントン」「ジェファーソン」「リンカーン」「S.ルーズベルト」という歴史上有名な4名。多少アンフェアな笑いを誘う競争は、リンカーン(愛称エディ)が勝利した。パーク内は大きな歓声と笑い声で溢れていた。
その後フィリーズも一歩も引かずに試合は進行していった。ナショナルズが7回に1点差を追い付いた時、ライトスタンドからウエーブが始まってパーク内を2周した。私もその輪の中に入って楽しませて貰った。
延長10回裏、3番ハーパーがヒットで出塁すると、4番マーフィーがツーベースを放ち、ナショナルズのサヨナラ勝ちとなった。
その瞬間パーク内は勝利を喜ぶ歓声で溢れ返る!俄かナショナルズファンの私も隣のおじさん達と勝利のハイタッチとハグを繰り返した。ヤンキースタジアムでもこんな観客同士の一体感は感じなかった。彼らファンの温かさに私の俄かが取れてナショナルズファンになってしまったようだ。
ハイタッチしたおじさんから、
「君はシーズンシートを持ってるの?」
と聞かれた。
「旅行者だから普通のチケットだよ。それにしてもナショナルズは最高のチームだね」
「そうだろ、今年は絶対優勝さ」
「そう思うし、日本からも応援するよ」
「ありがとう。頼むよ」
おじさん達とはガッチリと握手して別れた。記念のボブルヘッド本人(マーフィー)がサヨナラ2塁打を打ってヒーローインタビューを受けていたことは絶対に忘れないだろう。
夕暮れのボールパークは本当に美しい空間となっていて、後ろ髪を引かれるような思いでナショナルズパークを後にした。
アメリカ最後の夕食はチャイナタウンでと決めていた。メトロでチャイナタウンへ移動し、地上へ出ると赤い大きな門が道路を跨いで立っていた。
ここのチャイナタウンは規模が大きくない様で、見たところ道路の両側に10数店舗が並んでいる。一通り歩いてみて、客入りの良い「龍之家飯店」という店に入る。
店内はレトロさを感じる一昔前の中華料理店だった。疲れもあり汁物を食べたかったので、野菜スープ麺と瓶ビールを注文する。
ビールを飲みながら、かつて訪れたチャイナタウンを思い出していた。外国旅行中に米を食べたくなると中華料理店で炒飯やお粥を食べた。価格も手頃で味に当たり外れが少ないというのがその理由。初海外のパリで行った紙のテーブルクロスに注文を書いた店、サンフランシスコのチャイナタウンで初めて体験したワゴン式飲茶、ロンドン・ソーホーで美味しくて2回も行った店などを思い返した。
運ばれて来た野菜スープ麺は、多めの野菜の歯ごたえ良くスープもあっさりしていて悪く無いが、麺が細くて柔らかいうどんみたいだった。そこだけがアメリカ流で残念。そんな柔らか麺のスープ麺を私は完食した。チップを加え$20支払う。
メトロを降りるときスマートリップカードをタッチすると残額は$1未満となり、無駄なく使えたようだと思う。ホテルへ戻り荷造りをして明日の帰国準備をする。明朝はダレス空港までのスーパーシャトル(乗合いワゴン)を予約してある。